第75話

 ベアズリー伯爵領から西へ馬車を走らせ、途中で何度かの休憩をしながら、目的地であるモォーケル伯爵領に到着した。そして部隊はモォーケル伯爵の屋敷を囲むように包囲して、僕を含むウルタル殿下達で屋敷を訪ねた。


 屋敷から出てきた執事やメイド達は、大慌てで主を呼びに行ったようだ。そりゃ何の通達や先触れも出さず、急にやって来た王族や宮廷魔術師を含んだ部隊が屋敷を取り囲んでいるのだ。慌てず騒がずなどと言っていられる状況下ではない。


 そして呼び出されたのは、表情をにっこりとさせながら脂汗が絶えないのか、汗をハンカチで拭いながら出て来た特徴がそれほどない男性、モォーケル伯爵本人である。


「これはこれは、ウルタル殿下に宮廷魔術師のブラックリー殿ではございませんか。それに軍の方々まで。はて? これは一体どういう状況なのでしょうか?」


「突然押しかけてすまないな。視察を兼ねて立ち寄ったのだ。いくつもの気になる情報が手に入ったので、それを問い質しに来た。手間は取らせんから、先ずはいくつか視察を兼ねて領内を一緒に回ってほしいんだが、問題はないだろう? モォーケル伯爵」


 矢継ぎ早に用件を述べる殿下。だが、相手も隠し事を意識してか逃げの一手を執るようだ。


「いやはや、それが急用がございまして、これから出かけなくてはいけなかったのでございます。なので、恐れ多いことながら日を改めて頂きたいのですが――」


「ほう? 殿下を前にして急用とは、いささか立場をわきまえていないご様子。殿下が手間を摂らせないと仰っているのですから、急用などは早馬でも出して、私共の方で早馬をその急用の相手に出しましょう。相手は何方なんでしょうか?」


「い、いや、それは……」


 しかし、ウルタル殿下もブラックリー殿も、決して相手を逃さにように言葉を選んで攻勢に出ている。伯爵はたじたじとした様子で後ずさる。


「伯爵、私も急ぎ要件を済ませたいのは一緒なのだ。伯爵はそのままでよいから馬車でついてきてくれれば良い。さて行くぞ、屋敷の見張りはそのまま、残りはこちらについてきてくれ。先ずはすぐに用のある場所に向かう。オルクスは先導してくれ」


「かしこまりました」



 ♦



 モォーケル伯爵の領地の中には街と言えるものはない。村や集落が点在する点では、僕の実家の領地に似たところがある。だけど、何故か人の気配はあるのに通りかかる村々は人の行き来がなかった。と言うよりも、家の扉や窓からこちらを窺っている様子が、なんとも言い知れぬ気持に釘でも打ち込まれたような、居た堪れない気持ちになる。


 それから時間にして1時間もしない内に目的地に着いた。林に覆われた山なりの丘、そこに隠されているように人の気配がする。椿からも場所を地図で教えてもらったことから、ここで間違いなさそうだ。


 僕はトヨネと二人で馬車を降り、アイリスとディナラには馬車の中で待機してもらう。ケンプは相変わらず御者台で周囲に目を光らせているようだ。


 後からついてきた馬車、ウルタル殿下とヘイリー殿が一緒に乗る馬車に、伯爵が一人で乗せられている。今頃屋敷の方では、執事相手に捜索の手が屋敷内を引っ掻き回しているだろう。必要な証拠品となるものは既に場所を書いた書面を殿下に束で渡しておいた。それを頼りに証拠品の押収が着々と進んでいるのではなかろうか。


 で、僕の馬車より少し遅れて向かってくる殿下の乗る馬車が、こちらに到着するのを見ながら、寒い外にも関わらず、ずっと汗をぬぐい続けているのだろう手に盛ったハンカチを手放さない伯爵殿。彼が殿下達と降りてきた、その時点で顔色が凄く悪くなっている。途中で泡でも吹いて倒れるんじゃないか、と思わせるほどの顔色の悪さと挙動不審な様子。


「さて、要件と言うのは他でもない。ここに伯爵が奴隷の如く働かせているエルフ達がいると思うのだが、心当たりはないか? エルフ達から体力や魔力を奪って、魔力を魔石に溜めて商人に売って儲けているらしいじゃないか? 近年とは言わず、もう10年以上はそれで金を溜め込んでは、使っているそうだな? 先ほどからずっと顔色が悪いが伯爵、これを事実と認めるか?」


「おおおお、おしゃらら、られていることが、なな、何のことだか、私には一切分かりませんな! わた、私が考えた商売で、私が得をすることはございますが、根も葉もない嫌疑けんぎで身に覚えのない罪をこうむるのは如何なものかと存じますぞ!」


「しらを切るのか? ふぅー、まあ、段取り的にはそうなるだろうことは分かっていた。オルクス、娘を出してくれ」


「かしこまりました。さあ、ディナラ、出てきてくれるかい? 多少嫌な思いをするだろうけど、証人である君の出番だ」


 僕の言葉に、アイリスに支えられながら、僕の馬車からディナラが出てくるのを目にした伯爵の目が驚きで見開かれた。口には出さないが、口の動きが“バカな”と動いているぞ。


「いや、あのエルフが何だと言うのです、もしや、殿下はあのエルフからこの領地でエルフを奴隷の如く扱っているとでもお聞きになったのですか? それはとんだ言い掛かりもよいところです。ならばそのエルフに、私の前で言葉にしてみてほしい! 勿論、共通語で私でも理解できるように」 


 伯爵は目ざとく、ディナラの首にある魔道具を目にしたらしい。自分の事を喋れなくする仕掛けのあることを知っているという証でもあるが、今はそれを問題にする前の段階だ。


 ディナラは口を開き、伯爵を指さしながら述べた。いや、正確には述べようとした。


「あの人、が、きゃっ!! ぜん、ぶ、ひぎゅ!」


 この辺が彼女の限界らしい。言葉がこれ以上出せないのか、痛みで苦しいのか、肩で荒い息をして悔しそうに涙を流して項垂れた。その様子に、勝ち誇った様な態度で、今までの挙動不審で顔色が悪かったのが嘘のように、伯爵はこれでもかと良く回る口を動かし始めた。


「それみたことか! そのエルフが何を言うつもりだったのかは知らないが、証言もできないのでは意味はない! 殿下も忙しいのならば、お早く帰られた方がよろしいのではございませんか? 我が領にエルフなど一人もおりませんぞ?」


「ならば、林の奥を見させてもらっても構わんだろう?」


「な、なんですと!? いや、それはこま……、いえ、見たいと言うならお見せしましょう」


 ディナラの口を塞いでいることで何か余裕ができたらしい伯爵は、強気な発言をし出した。だけど、こちらは状況証拠になるものを揃えてきているんだし、今更貴方に何もできることはないだろう。そう思っていると、伯爵は懐から何かを取り出して、息を大きく吸って口にその何かを宛がった。


すると大きな音で、ピィィーと笛を鳴らしたような音が周囲を木霊した。


「貴様何をした!?」


 いえ、ただの合図でございます、伯爵がほくそえんで答えた。


「この近辺を見回りしている私兵に、今から行くぞと合図を送りました。それだけでございます」


『オルクス様、緊急でございます。エルフの労働者達が全員、ほっていた穴の中に連れ込まれ、横穴の入り口を土砂を起こして埋めた模様。恐らく中の酸素は数時間と持たないと思われます』


 椿からの緊急の連絡で、伯爵が何をしたのかがすぐに分かった。こいつ! 


「ディナラしゃんとしろ! 君の負担や痛みを僕が肩代わりしよう。もう一度立って思いの丈をぶちまけろ!」


 僕は彼女の背中を叩き、力を注ぎこんでやる。彼女はそれに対して気づいたのだろう、ハッと僕と視線を重ねる。


「これは君にしかできない事だ。君の恐怖も不安も、全部を僕が受け止めてやる。僕がついてる、自身の種族に恥じない気持ちがあるなら、自分の成すことを成せ!」


「っはい!」


 彼女はすっと立ち上がり、僕が握った手と逆の手で伯爵を指さし、声を張って今まで聞いたこともない大きな声で告げた。


「私や、私達エルフは、この人に騙され、この首の魔道具で体力と魔力を奪われ、強制的に働かされた挙句、肉体的苦痛、精神的苦痛を延々と味わわされてきました。全てこの人が主犯であり、我等の敵です! 我らエルフの誇りを踏みにじった、その元凶がこの人です、間違いありません! 我がエルフの族長が補佐エフゲニーの娘、ディナラの名において、それを宣言します」


「ということだ。エルフは自分の名前を出してまで、自分の言葉が本当であると主張している。伯爵、彼女の供述を基に、そなたの犯行を暴かせてもらう。物的証拠お呼び状況証拠が出そろった場合、そなたは我が国の法で裁かれるだろう」


「ははは! そんな娘の世迷言を本気で信じておられると? そう言って私を罠に嵌めようなどと――」


「貴方が隠した場所にいたエルフは、既にこちらで保護させてもらった。塞いだ穴も、元通りにしてね。今頃は僕の従者が、貴方の私兵を捕らえて現場で待っている事だろう。そこまで行っても言い逃れしようとするつもりがあるなら、全てにおいて貴方の後ろ暗い部分を、残らずさらけ出してあげましょう。さあ殿下、現場へ移動しましょう」


 そう言って先を促す僕に待ったをかける相手がいた。それは――。


「貴方はダメよ。我慢しているのでしょうけど、神経や精神に負担がかかり過ぎているわ。後の事は貴方の従者と、私達で何とかします。貴方は馬車で休んでいなさい」


「ヘイリー殿?」


「彼女の負担を全部肩代わりしてあげたのでしょ? 無理して普通にしていても、魔術師である私には分かるわ。貴方の中で激痛と、精神的な負荷が起きているはず。だから、私の権限で貴方の同行を止めます。貴方は十分役目をこなしたわ。譲るところは譲ってちょうだい。そこの貴女、それで良いかしら?」


「我々もお止めするつもりでした。お言葉に感謝致します」


「なら良いわ。案内役のエルフの子も、今ならこの子のおかげで普段よりは動けるでしょ? 案内をお願いするわ」


「はい!」


「と言うわけだから、貴方は休んでてちょうだい。殿下達のお気に入りに、無理を強いて倒れられたら私の立場がないもの。さ、馬車に入って吉報を待ってなさいな。必ず見合った報告はするわ」


 どうやら僕に選択の権利はないらしい。何の権限もない僕を、宮廷魔術師であるヘイリー殿が止めたのだ。殿下も何も言わないし、むしろ心配そうにこちらを見ている。


「格好がつかないですが、後をお任せします。お言葉に甘えて馬車で待機しております。トヨネ、後の事は任せる」


「かしこまりました」


「そんなことはないわ、十分恰好良かったわよ。さて殿下、早速参りましょう。伯爵、貴方も行くのよ。貴方の末路が定まる瞬間を私が見ててあげるわ」



 ♦♦♦



 まるで物語に出てくる一幕のようだった。“君の恐怖も不安も、全部を僕が受け止めてやる。僕がついてる”、なんてあんな台詞、女なら一度は言われてみたいと思うわ。姉や妹達に良い土産話ができるってものよ。でも、彼の回復力は驚異的だった。あの魔道具の負担が軽いなんてことはないし、相手の負担を全部肩代わりだなんて、なんてふざけたことしてるんだろうとも思ったが、彼の中で起きた衝撃は瞬く間に収まりを見せていた。


 身体をむしばむ激痛や、精神的苦痛は確かに彼を襲ったはずだ。その負担はエルフの言葉が続いていた間ではあったが、彼を苦しめたはずだ。それを短時間だと言うのに、彼は歯を食いしばって耐え抜いた。それに治癒も見事、身体の中で起こった傷を癒していたし、精神の揺らぎも安定を見せるのが早いように感じた。神聖術の成せる業か、それとも単に彼の身体や精神力が並外れているのか。いや、そんな馬鹿なことはないだろう。相手は5歳の子供よ? やせ我慢していたけど確かに消耗していた。


 だから止めたのだって理由も本当よ。だから、だからこそわからないわ。彼がどうしてそこまで、他人であり種族も違うエルフの娘一人に……。“自身の種族に恥じない気持ちがあるなら、自分の成すことを成せ”、そんなことを言って激励してやれるの? 中身が成熟している歳ではないだろうに。彼を何が突き動かしているの?


 それに彼には何となくだけど、秘密があるような気がしてならないわ。でもそれは覗いてはいけないもののような気がする。知った相手を彼はどうするだろうか。それを知った相手は彼をどうするだろうか。父上である陛下が無駄な詮索をするなと言っている相手なのだ。無理に知ろうとする必要はない。


 そんなことをしなくても味方としてなら頼りになるし、彼が成長したらそれこそ、彼の活躍の場なんて引く手数多ではないだろうか。10歳も年が離れている私では、彼との……。何を考えているの! 私は妹達の為の先見として、彼を見に来たのよ。幼子にそんな気持ちを抱くなんて、私にショタっ気でもあるのかしら。


 いえ、彼が特別なのだろう。そう納得しておかないと、気持ちが揺らいでしまうわ。それよりも今は、彼の行動に報いることが先決。任せておけと言った手前、仕事を優先させなければ示しがつかないわ。



 ♢♦♦♦



 姉上、とウルタルが私に近づいて来た。恐らくあの幼子の心配をしているのだろう。


「あの子なら問題ないわ。私達が戻る頃にはなんでもない顔で出迎えてくれるでしょう。それよりも今は、目先の問題に集中なさい」


「わかりました」


 問題ないと言うのを言葉で保証してやると、ウルタルの表情から不安な影が抜けた。それ程彼の事が気がかりだったのだろう。バインク義兄上あにうえも性格に多少難があるけど、この子の場合は逆に人見知りに近い性格をしている。だけど、一度付き合って相手を知れば、相手の善し悪しを区別できる目を持っているのは同じだ。だから、二人の殿下が認めたのならばそれは、あの子が私達の敵ではないと言う見立てでもある。


 私個人も、あの子に後ろ暗い印象は全くなかったし、むしろ取っつき易い印象だったわ。良い友人や恋……、ではなくて信頼のおける人物となりえるだろう。私だって伊達に宮廷にいるわけではない。人を見る選眼せんがんくらい持っているつもりだ。


 さておき、先を進むエルフとそれを支えるメイドが二人いる。確かトヨネとアイリスと言ったかしら。アイリスがエルフの娘の手をもって、トヨネと言うのが歩く先の草や太い茎をその剣で薙ぎ払っている。ついでに剣風で雪もある程度吹き飛ばしている。そのおかげで道ができて私達も歩きやすい。こちらの軍の兵士に促されるように足を進める伯爵は、顔色がまた悪くなって一時期の強気な雰囲気も四散しているわ。


 それから歩いて一刻30分ほどが経った頃、漸く目的地に着いたようだ。そこにもメイド服の女性が二人、いや、洞窟の中からも一人出てきて、三人こちらを向いている。


「首尾はどうですか?」


「問題なく。エルフ達のほうは怪我や病気は軽い。ただ放置されていた期間が長かったので悪化している者もいました。それも問題なく」


「分かりました。横穴を塞いだ土砂はモモカの手で吹き飛ばしたよ」


「お疲れ様。洞窟は全部で5つかしら? 何のために掘ってたのかは分かってるけど、それは自供させた方が無難かしらね」


「殿下、ブラックリー様、エルフ達は横穴の内部におりますが、いかが致しましょう?」


 あの子の従者がそれぞれ情報交換している。それぞれが隙のない動きをしているし、要領も良くできているらしい。譲るところは譲るという事だろう。


「そうね、証言はできないでしょうから出てこさせて、それ自体証拠ですもの。ねぇ伯爵? これは状況証拠って受け取れるんだけど、何か言いたいことはある? 弁解とかはいらないわよ。不正にエルフを集めて何をしていたのか、その口で仰ってくださいな?」


 私の言葉でこの寒い中、汗を額ににじませる伯爵。彼は恐らく次に言うことは分かり切っている、が言わせるのも流れというものだ。メイド達はすぐに穴の中へエルフ達に声を掛けて、外に集めるように動き出した。そして集められたエルフの数は驚きの100人とかでは収まらない。見たこともない数で、先んじて数を把握していたトヨネと言うメイドからは、354人と聞かされた。


 見た感じそんなにいるのかと思っていると、女性と子供は屋敷の地下室に閉じ込められているとのこと。ここにいるのは、さっき言った数の6割強と言うことらしい。


「おい伯爵……、黙ってないでなんとか言え!」


 ウルタルが怒鳴った。報告でエルフの事を聞くのと、目の前で認識した誤差が彼をいさめたのだろうか。ウルタルは伯爵に詰め寄って、沈黙を続けるしかない伯爵に食って掛かる。


 だが、伯爵もただでは終わらないというような、聞くに堪えない言い訳がましい言葉を連ねて、白を切り通そうとするようだ。


「私は知らなかった! そうだとも、エルフがこの領に住んでいたことなど知る由もない。彼等が勝手にやってきて勝手に、ここで穴を掘って暮らしていた。ただそれだけのことで、何故お咎めを受けなければならないのです!?」


 今頃お前の屋敷の地下室に、エルフの子供や女性達がいることが明るみになっているはずだぞ? ウルタルがこういってはなんだが、珍しく気を荒げている姿を見るのは久しい。バインク義兄上あにうえよりも大人しい印象が周囲にある所為か、こういった彼を見ることはそれほどない。なので、バインク義兄上あにうえを頼りにする派閥というのは、こういった行動力を求めていることも多い。


 だけどこの子だってやればできるのだ。普段は見せないから大人しい、物静かな人物として評価されてしまっている。それが惜しいと思わなくもないが、それが彼の人間性なのだと私は評価する。


「なっ!? いや、だがしかしですな、そもそも、こいつらが行く当てがないと言うから置いてやっていただけなのだ。領にいるならただ飯を食うなど許されまい。こちらの要求を呑んで当然ではないか!」


 支離滅裂だ、最初はエルフが領にいたことを知らないと言い、言い逃れが難しいと判断すれば、正論で煙に巻こうとする。ただ、その正論も馬鹿々々しいほど筋が通っていない言葉の羅列だ。


「魔道具までつけて、彼等を拘束した挙句労働を強要し、魔力を奪って魔石として売ることが、そなたの領民に対する対応か! 領主は民の為に動く、それがどんな苦しいことでも、諦めないでやり通す。それが失敗に終わってもまた次の運営政策や施策しさくを考えて動くのが領主の役目だ。それを領民と力を合わせてやれば直良し」


 お前のとっている施策は、ただの強制労働を多種族にさせているだけの、独りよがりなものだ! ウルタルが指摘した言葉に伯爵の口が止まった。もう潮時だろうモォーケル伯爵よ。


「話は本国で聞かせてもらう。伯爵殿よ、彼等の魔道具の解除は、アンロックキーはご自宅か? それともご自身でお持ちか?」


「だから私は何も知らないと――」


「伯爵の服の内ポケットに解除キーがございます」


 こちらの様子に口を挟まなかった、オルクス殿の従者が告げた。それを聞いた伯爵は兵士達の包囲を振り切って逃げだしたのだった。それを取り上げられてしまえばもう言い逃れなどできない。そう思っての行動だろうが、既に貴方は詰んでいるんだもの。


 私は慌てず騒がず、兵士達が追いすがる前に魔術を行使する。こけながらも前のめりに進み、こちらから逃げて距離をとろうとする彼に、私の得意とする土系統の魔術。土壁を伯爵の足元から突き上げるように、勢いよく盛り上げ彼の顎に見事ヒットさせて仰け反らせてやった。

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