第73話

 僕がバインク殿下との話を終え、自分の馬車に戻ろうと雪道を歩いていると、アイリスからエルフの娘が目覚めたと念話で連絡が入った。少し自分の置かれた状況に混乱が見られたが、アイリスから落ち着くように、ゆっくりと現状の説明がなされ、状況を把握したらしい彼女は落ち着きを取り戻したらしい。ちなみに彼女の名前はディナラと言うらしい。


 彼女に話を聞く必要はあるが、多少の落ち着く時間も必要だろうと馬車に向かう足を遅くして戻ることにした。戻ってきた僕とトヨネに一瞬身構えたが、トヨネは女性であるし、僕は幼児だからだろう、驚きはすぐに収まったようだ。


「起きた途端で申し訳ないのだけど、話を聞かせてもらいたいと思う。とりあえず、彼女に何か食べ物と飲み物を出してあげて。ろくなものを食べていないんだろうからね」


 僕がそう言うと、折り畳みの机が出され、彼女の前にバラエティーとボリュームのあるサンドイッチとスープが置かれた。出されてすぐに手を出さず、本当に食べて良いのかと言う視線をこちらに向けてくる彼女に、遠慮せずどうぞ、と告げる。すると彼女は、両手を額の前で組んで、お祈りをしているのだろう、ぼそぼそと言ってからサンドイッチに手を付けた。


 よほどお腹が空いていたのか、彼女の食べっぷりに目をやっている間に、お皿の上にあったものは数分で食べ終わってしまった。ゆっくり食べている間に話をしたかったのだが、まあそれは良いだろう。


「恐らく君は食欲がまだ有り余っているだろうけど、悪いけど我慢しておくれ。胃が弱っているのにものを詰め込むと、気分が悪くなって吐いてしまう恐れがある。それは君も望むことではないだろう。明日には少し量を増やした食事を出そう。その前に話を聞いておきたい」


「アイリスさん、から、少し、話を、聞きました」


「ん、無理に共通語を言わなくてもいいよ。エルフ語で話してくれて良い。その首の魔道具も共通語の言葉にしか反応しないのは確認した。エルフ語には識別はされていないようだ。だから制限なく喋るなら、エルフ語の方が都合が良いだろう」


「分かりました。ご厚意と、この度は保護して頂きありがとうございます。それに食事や服まで……。恩人にこんな事を言うのは失礼だと思うのですが、私はこの後どうなるのでしょう? もしかして奴隷にでもされるのでしょうか?」


「あー、不安いっぱいなんだろうから尤もな質問だと思う。だけど、それはないから安心すると良い。君がどこから来て、どんな目にあったのか、僕はよく知っている。だから、元の場所に戻すという事はしない。あー、ただ協力を頼みたいから一時的にだけど、君達を騙した領主の住まう領地へ行くけどね。誤解はしないでおくれ。それは明言できることだ。僕みたいな子供に言われても説得力がないかい? なら、目の前の屋敷にユピクス王国の王族が滞在しているから、君の安全を直接尋ねさせても良い。どうする? 君にはその権利がある」


「……あ、貴方は、人族なのですよね?」


「うん? どういう意味だい? 僕の耳が尖ってるように見えるかい? 僕はれっきとした人族だよ。両親は二人とも人族だしね」


「いえ、失礼しました。人族にしては、あまりにもハキハキとものお仰りますし、我々の知る子供でも、もう少し幼子らしさが……、あ、いえ、恩人に言うことではありませんでした……」


「いいよ、気にしてないから。それより、その首の魔道具、それは証拠になるものだから申し訳ないけど、力を抜かれるだるい感じを受けているだろう。けど、今暫くはそのままでいてほしい。問題の貴族には、王族から視察と言う名目で君を証人として、相手を追い詰める切っ掛けの一つになってもらいたい。

 その魔道具を多少調べたけど、君達を苦しめた者に対して一定の不利益になる言葉を口にすると、凄い激痛や精神的な負担を受けるようになっているんだろう? あー、エルフ語なら反応しないから問題はないよ。共通語は無駄口程度は話せる程度の代物だが、君達のかせになっているのは確かだ」


「……その通りです」


 彼女は俯いて涙を流した。自分の気持ちを伝えようにも、その機会があってもできなかったのだろうな。記憶を読んだ僕としては分かっているが、それを伝えることはない。ただ、彼女が口にしてきた言葉を書面にして残し、彼女達が受けてきた苦しみを親身になって聞き入れ、その問題を起こした相手を裁くのだと、涙を流す彼女に伝えるだけだ。


「夜も更けて来たし、身体もだるいだろうから横になって寝ると良い。君達をその苦しみから解き放つ。もうそれ程長い日付を待たずとも準備が整うだろう」


 彼女を再び寝かせて、僕は馬車から外を見る。馬車は許可を得て、殿下達が宿泊している屋敷の馬車止め場に停車させてもらっている。雪が少し降っているが、悪天候と言うわけでもない。だが、早馬として馬をとばしている兵士には、速度を一定以上上げると視界が悪くなることだろう。そんなことを考えながら、僕も軽く食事をしてから寝ることにした。



 ♦



 早寝早起きが日課になっている僕の起床は、基本的に早朝の5時前だ。強制的な感じで21時には深い眠りにはいるのだから、ルーチンになっているのも仕方がない。それに起きれば起きたで領地の報告を受けたり、本を読んだり朝食を摂りながら魔術の訓練、正確には魔力と神力の操作技術の訓練を行うようになった。


 僕が起きてから2時間後ぐらいだろうか、エルフのディナラが起きて来た。馬車の中で区切っていたカーテンを、恐る恐ると言った感じでめくってこちらを窺っている。


「起きたかい? 体調が大丈夫なら朝食を食べると良い。僕は先に頂いたからね。アイリス、頼む」


「はい」


 彼女は朝食をアイリスから受け取り食べ始めたらしい。僕はそちらに目を向けず、取り出したリストを見ながら、トヨネ相手に言葉を漏らす。


「トヨネ、木材は今は足りているけど、実家の森林地帯に道作り、そろそろ始めようかと思う。基本的に伐採はしないでトモエに頼めばいいかな?」


「そうですね木を一定の間隔で並べて、日差しが入る様に並べさせましょう。彼女一人では時間はかかるでしょうけど、自然をそのままにするならば、時間をかけて木々に負担を強いらない様にでも、と言った感じですか」


「そうだね。闇雲に木を切るのはダメだし、新たに植え込みもしないとね。開拓するにしても輸入頼りになるのは問題だ。悪戯に木を切って、辺りを切り株だらけにしては、底が見えてる。木を育てるスキルか魔術でもあればいいのだけど、そんな便利なことができるなら誰でも思いつくだろうしね」


「ただ、木を使うのはどこも同じでしょう。買い付けの際、値上がりの傾向が見られる店があります。今後一定以上は近い将来、自前で何とかしなければいけない部分も出てくるでしょう」


「そうか……、値上がりし出してるってことは、それだけ買い手が多くて、木が足りないってことか。建物を土台以外はレンガやコンクリートで補うか、代用できるところはそうしよう。逆に鉄材は使用頻度が低いのかな? ドワーフ達は愚痴でも漏らしてそうだね。狩猟班以外の鉄材と言えば、基本的に調理道具が殆どだ。それも長持ちするから手持無沙汰になって、武器か防具が作りてぇ! とか言ってそうな気がする」


「よくご存じですね」


「え、いや、ほんとに言ってるなんて思ってなかった、ただの当てずっぽうだったんだけど」


「あ、あのっ!」


 僕とトヨネの話を聞いていたらしい、食事を終えていたディナラが急に声を出してきた。力が一定以上抜けてだるいだろうに、右手を上げて主張している。


「お代わりかい? それともお手洗いかな?」


「い、いえ、そうではなくて!」


「うん?」


 僕は彼女が何を言おうとしているのかは、大凡の見当はついている。だが、敢えてそこは先を促すだけに留める。


「あ、あります! その木を育てる魔じゅ――」


「はいーダメー! それ以上言わせないし聞かなーい!」


 案の定、というか予想通りの事を述べて来た。僕は彼女が話し出す前に、耳を手で覆い、彼女の言葉を遮る。


「え、な、何故です!?」


 理由が分からないらしい彼女を見て、分かり易いように溜息をついて見せる。それから、少し間を置いて早口で理由を述べる。


「あのねぇ、君の種族はそういうのを持ってそうなのは知ってるよ。でもそれは、恐らく秘術的なものだろ? 軽々しく、ありますなんて言うもんじゃない。それこそ僕が悪者なら絶対悪用するだろう。僕以外でも聞けば飛びつく、それほどの強力な手札だ。それを、君はあっさりと晒した。それは、いくら僕が君の面倒を見ている恩人であっても、見せるべき手札ではない」


 これは忠告だよ? 僕がそう言ってやると彼女は今更ながら、自分で口を塞いだ。アイリスが慰めるように飲み物を出してやっている。


「それにホイホイと他人を信用し過ぎだ。信用は、信頼を積み重ね築き上げて、初めてそれが信用に成り得るんだよ? 貴女や貴方達の種族を非難するわけじゃないけど、もう少し相手を疑う目を持つのが普通だと思う。強制労働や夜の相手までさせられて、まだその認識が足りないらしい」


「でも私は、貴方を信じます。信じさせてください」


「……それは勝手にすればいいよ。これはお節介だから、責めてると間違えないでほしいのだけど。誰も彼もが信用できる相手だとは思わない事だ。自分の中で警戒度を上げる努力をすること、人を見る目を養うことだね。だから僕が信用に足りる存在かは、自分の目で確かめてからにしてほしい。僕が言えることはこれくらいだ」


「……はい」


 少し強く言い過ぎただろうか? いや、これは彼女の為だし、当たり前の考えだ。彼女の常識が疎いのは、エルフはあまり森から出ないし、自分の種族以外とはあまり交流がないからなのかもしれない。それに、彼女達の族長は、この話に乗り気ではなかったように感じられた。恐らく、若く経験が浅い者が人間の口車に乗せられ釣られてしまい、判断できる経験豊富な者達が少数だったのかもしれないな。


 エルフは長寿種の種族だ、長く生きていてもどこからが大人で、どこからが子供なのかよくわからない。目の前の彼女の年齢で100歳を軽くいっているんだから、僕よりも何十倍と生きてる彼女に、人間の幼児が説教垂れるって……。


 はぁ……。あまり深く考えないようにしよう。それよりも話を中断してしまったが、トヨネには木材の買い付けする値段を定めた一定以上ならば買わないようにすることを伝えた。



 ♦



 そして、僕は今日から数日、この馬車置き場が滞在場所になる。バインク殿下やヘルウェン側の王族を含め、他の兵士に冒険者に傭兵達が追随してここを離れ、帰路に発つことになっている。それと入れ替わりでウルタル殿下が、こちらからの連絡を受けた後に、王国の兵士を引き連れてこちらにやってくるのを待つのが僕の予定である。


 普通ならバインク殿下達がこの領を去った後に、僕を屋敷に泊めてくれるという、領主殿からの勧めもあったが、基本的にお手洗い以外でお邪魔することはないと言っておいた。それも使用人達が出入りする離れの場所を使うので、気を使うことなく利用できるわけだ。


 領主殿に気を使わせることが無いように、自分で決めたことだと言っておけば、しつこく勧めてくることもなかった。ちなみに、この領地の領主殿は、バインク殿下の派閥らしい。バインク殿下が僕と懇意こんいにしているのを見ているので、無下に扱うことはないだろうと思う。


 領主殿の名前は何と言ったかな? 確か僕も参加したユピクスでの作戦会議に出ていたはずだ。ロデリック・ベアズリー伯爵だったか。本人は領地を抜けて、バインク殿下と共に本国に行くらしい。



 ♦ ♦



 ロデリック・ベアズリー伯爵の自宅の馬車止め場に滞在すること3日が経とうとしている。さすがに身体を拭いただけだと汚れは落とせても気分的にはスッキリとはいかない。だが、さすがにエルフの子をほっといて自分だけ風呂に入る、なんてことをするのは気が引ける。仕方なく風呂付の宿を半日とって、早速お風呂に入ることにした。


 貴族の癖にせこいな、なんて思わないでほしい。さすがに保護したエルフを人目に見せないように配慮しての事だ。流浪の旅をするエルフもいると言うが、彼女の場合は事情が異なる。彼女の存在していると言う情報を、ひた隠しにしなければならないのだから、馬車での生活を余儀なくさせるのも心苦しいが、その辺はもうしばらく我慢してもらうしかない。


 そう思いながら束の間だが、お風呂を堪能たんのうさせてもらった。入れ替わりに、今頃はアイリスとトヨネが彼女の世話をしている事だろう。と、そこにフォルトス陛下から念話が届いた。


『バインクはもう3日ほどでこちらに戻るらしい。エルフの件で来た早馬は既にこちらに情報を伝えている。こちらでもその他の罪状を挙げ連ねて、ウルタルに持たせてから出発させる。そちらに着くのには急ぎと言えど、今日を合わせて4、5日ほど掛かるだろうな』


「そうですか、ウルタル殿下が来られるんですね。バインク殿下はご自身が、と言いたそうでしたが、今回は場合がそれを許さない緊急な案件ですからね」


『途中で二人が会うであろうから、それは彼奴達も分かっているだろう。王族の仕事なのだから仕方がないと諦めるだろうよ』


 他愛のないといっては問題だが、今回の件の話をある程度終えると、ああ、そうだ、なんていかにも今しがた思い出したような口振りで、陛下は次のような事を仰った。


『お前、ユピクスの爵位と領地をもらえるぞ。それと、報奨金とついでにうちの娘から誰かやろうかと思う。誰が良い?』


「いやいや、クリスマスのプレゼントとか、バーゲンセールやお歳暮のセットじゃないんですから、しかも娘さんって言われても、僕の相手はもうほぼ決まってるんですよ? それに誰とも面識ないんですけど?」


『そう言うな。ヘルウェン側が相応の褒賞をやるのに、ユピクスが何もせんわけにはいかんだろう? お前と年齢的に付き合えるのは数人いるが、どれも面識が無い、なので戦勝式のパーティーで会わせてやるから選んでくれ。お前の事だから、嫁が一人でいいとか思ってるんだろ。貴族は跡継ぎを残すもんだ。だから一夫多妻制が認められてることくらい知ってるだろ。この世界の神様は、そんなことを縛るような教えはしてないはずだぞ?』


 確かに、シスター・センテルムから、宗教的な教えを聞いたことがあるが、前世の有名な神の教えよろしく、一夫多妻を認めないような話はなかった。人は争いや、病気、寿命で命を落とす機会も多い。だから産めよ育てよという教えが強くある。だから聖職者である者や神を信仰するシスターであっても結婚する人もいる。シスター・センテルムも結婚願望はないわけではないと、顔を染めながら話していたな。


「存じてますけど、婚約が発表されてすぐ他の国でも婚約だなんて、僕は色魔しきまじゃないんですよ? 急に決めろと言われても困りますよ。それにヘルウェン側や、ラクシェ王女の手前もあるんですから、時期を置いてくれたっていいと思うんですけど」


『まあ、お前の言うこともわかる。日本人の感覚がまだあるんだろうからな。だが、うちの娘も捨てたもんじゃないぞ? 兎も角、婚約だけでも決めとけよ。結婚は12歳以上なら問題ないんだ。それまでは独身を満喫してろ。

 与える領地は検討中だが、お前には婚約が決まり次第、伯爵とするのは決めていた。だが、結婚後の爵位は公爵デュークだ、侯爵マーキーズじゃないぞ? 予想だが恐らくヘルウェンだって、同じ爵位を付けるはずだ。何て言っても、向こうの王太后殿の可愛がっていた娘だそうじゃないか。その婚約相手をつり合った爵位にしなきゃ、周りが納得せんだろうからな

 宮廷作法だのはヘルウェン王国で習っていたのだろ? 国が近いせいもあるが基本的な作法は同じなのだ。だから爵位が上がって作法に疎いという事も無かろう? 伯爵だったのが二つ上がって公爵デュークになるだけよ。大した違いはあるまい』


「頭が痛くなってきた。男爵家で領地開拓したかったのに……」


『ぼやくなよ。一般常識じゃ普通、大喜びするもんだぞ。男爵家の子供が逆玉で公爵だぞ? ユピクスで公爵デュークは10家もない家柄だ。そこにねじ込むのも今回の功績を、バインクとお前の補佐に付けた者等が戻れば確定する。逃げられん宿命だとでも思っとけ。年齢が低いのに爵位が高いなんて言うのは、案外戦争が頻発する国ではありがちな事だ。まあ、世襲が一般的だがな

 ちなみにお前の実家は、今回の戦争で後方支援として、物資を納品したことへの評価で男爵から子爵に格上げだ。今後も貢献が年々続くなら将来は伯爵にでもなるんだろうよ。収入の糧が安定してある領地は、基本的に爵位が上がることが多い。その件はこちらからお前の実家に手紙を出すからな。そのつもりでいてくれ。』


「ほんと、えらく急な話ですよ。年相応で家を継ぐとか、爵位を賜るとかなら分かるんですけど、僕まだ5歳なんですよ? この世界にもまだ一年も経ってないのに、立場だ爵位だで揉まれるような世界で生きたくないでーす。爵位が上がるってそれだけ責任が増えるってことですよね? この年でそんなき目にあうなんて……」


『えらく段々投げ槍になって来たな。まあ、それは良いとしても、お前には他に色々と仕事をしてもらう予定でいる。ユピクスの宮廷魔術師筆頭、名前覚えてるか?』


「ええ、お世話になりましたから。アンジェリカ・アンスパッハ殿でしたよね。彼女が何か?」


『お前を宮廷魔術師に添えたいそうだ』


「…………は?」


『えらい間があったな。理解しがたいだろうが、彼女の手紙とその内容は本気だったぞ。何でも、魔術師の登竜門である、魔術師院や魔術師ギルドでの在り方を見直しして粛清したいらしい。今まで彼女なりに手を尽くしてきたが、お前の手が借りたいとか書いてあった。他にも彼女の手紙と似たような内容がいくつか来ていたし、元々お前はこちらの出身なのだから、ヘルウェンで働かせるのはおかしい。ユピクスで役職に就けた方が国の為だ、なんていう手紙がそれなりの数来てるな』


「はぁあ~?」


 いやいや、俺は一応国王なんだけど……、そう言ってくるフォルトス陛下を僕はスルーする。完全に無視と言うわけではないが、仕事を押し付けられる身にもなってほしい。国に帰ったらゴタゴタが待ってますよ、なんて内容を僕に押し付けられても困るんだよ。戦争が終わって落ち着いたら、領地の事に頭や手を回したい僕にとって、陛下の言っている内容は僕の予定を狂わせることばかりだ。


「いえ、失礼致しました。陛下からの話は以上ですか? エルフの子がそろそろ戻ってくると思うんですけど、その前に言えることだけお伝えします。陛下が言われている爵位や領地の件は分かりましたが、婚約の件は少しだけ時間をください。

 アンジェリカ殿や、他の案件内容も少し考えさせてください。一応、僕の予定では、ラクシェ王女とヘルウェンで学院に入る予定でいます。僕は多少でも学院ライフとか味わってみたいので、案件内容に応えられるか微妙だと、手紙の相手にお伝えください。

 今後のことを、今とやかく決めることはできないですけど、ユピクスでどんな職場を与えられるかは知りませんが、ヘルウェンで急に仕事を辞めるわけにもいかないんですよ。命令とあれば別ですけど、ヘルウェンと関係を悪くするのも得策ではないでしょう?」


『まぁまぁ、そうムキになるな。お前の気持ちも、言い分とて分かっているつもりだ。俺だって昔は苦労した口だ。好き好んでお前に無理難題を押し付けようとは思っておらんさ。ただ、これだけははっきりししているが、周りがお前をほうっておかないだけなのだ。これも自分の行いの結果として受けとめてくれ。とりあえずお前に都合がいいようには、こちらも便宜は図るつもりだ。エルフの件が終わってからゆっくりと話を詰めよう』


「分かりました、ある程度の配慮は期待しております。では通信を終わります」


 僕がそう言ってから、数分後にトヨネ達とエルフの娘が帰って来た。年齢的には僕の方が何十倍も下なのだけど、何というか上下関係が出来上がりつつある。どうしてこうなったのだろうか。さておき、彼女と数日話している内に、エルフの生活について様々なことが分かった。その中でもやはり彼等は自然と共存し、森の恵みに、草や木々に密接に接しており、生活の大半を木に家を作って、村を作りそこに住み着くらしい。


 彼女達が馬車に乗り込んできた所で、僕は馬車を出してもらいベアズリー伯爵の馬車止め場に戻ることにした。

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