第57話
王太后様が僕に提示したもの。ものと言うか人、その人物は。
ラクシェ王女殿下だ。王女の一人を差し出してきた。それもこちらに有利な条件付きで。その条件とはただ一つ、近くある戦争で生きて帰ってくること。それが王太后様が出した交換条件らしい。それと戦争の手柄如何では、僕にこの国にある領地と爵位をくださるそうだ。
それって色々な意味が含まれてるよね。例えば僕がこの国の人間としても扱われるようになるし、領地を預かる責任も発生するし社会福祉的なことも考えて行わなきゃならない。それに今の出稼ぎの雇用体制も外見は変わらなくても中身的には結構変わるんじゃないかな。
それに爵位に応じた仕事も発生するし、国政にも関わらなきゃならない。それとこの国がもし他の国と戦争を起こすならそれに参加する義務が発生する。ラクシェ王女の件といい領地や爵位をくださるなどと全部聞こえはよいけれど、それだけじゃあない。甘い考えでいたら足元をすくわれかねない。
王太后様は、僕をこの国に関わらせたいのか? まさかラクシェ王女をだしに僕を縛り付けたいとか考えてるのかも。憶測で全てを断定するのは愚かだ。けど、油断や誘い水を受けない様に注意は払うべきだろうな。逆に全てが善意と言うことも無きにしも非ず……。王太后様が恩を仇で返す様な事をするだろうか? 分からない。その場を見てないのが悔やまれるところだな。
僕宛に言葉を残した王太后様は、手鏡とその他の品を一通り購入なされた後、述べたことは撤回しないし、提示したことでも足りないぐらいだ。坊やが時間の取れるときに話し合う機会を後で作るつもりでいると仰った後、その部屋を出て行かれたとか。
「戦争で生きて帰ってきたらラクシェ王女との婚約を正式に発表とか、戦争で手柄を立てればその内容次第で領地をくれるとか、王太后様はそんなにその品が大事だったのか。というか、ラクシェ王女の母親や父親である陛下は何も言わなかったのかい?」
「ラクシェ王女の母親はあの席には出席しておりませんでした。国王陛下は何か言いたそうにしていましたが、王太后様が部屋を出られる際に一睨みしただけで、口を
それと、別件ですがこの国の王族に関する品は全て買い取られましたが、残りの収集品の中には歴代の宮廷魔術師なり、王宮騎士団なり、その他この国の軍の関係者や重要な役職であった者、当時爵位の高い人物の扱っていた品々が多数あり、また有名なダンジョンを生業にしていた者達の装備品やその他の類も多く、それを買い取るかどうか、手放しても良い物なのか判断を後日に回してほしいと要望された物が数多くあります。
それに、外国の金銭や品々もその日の内には買い取れる段取りがないと冒険者ギルド側から保管しておいてもらいたいとの要望を受けております。先に制作していた収集品の目録をお渡ししておりますので、それを持ち帰って頂いて判断材料にするそうです」
「んー、使えないお金はゴミに等しいと誰かが言っていたけど、保管するのは別に構わないよ? けど、いつまでもと言うのは困るよね。タンスの肥やしならぬ、インベントリの肥やしか。そのまま死蔵されるのは嫌だから、段取りがいつ頃付くのか、それくらいは早めに教えてほしいかな。
恐らく他の国にある冒険者ギルドで取引されるだろうし、ガイドブックには収集品をオークションにかけるやりかたもあると記載されてたから、何かしら他の場所のギルドとやり取りをした後に、実物を確認して引き取りに来るのを待っている的な感じになるかな? そう考えると、すごく時間がかかりそうだね。戦争が終われば領地で開拓ライフを送る予定が、一瞬にして脆くも崩れたような気分だ。やはり、予定は未定ってことなんだね。
それはそれとして、この国にあるダンジョンは一度は最下層まで行ったことがばれてしまってるね。手分けして攻略してもらったけど、まさか攻略者の名前や階層攻略のことまで把握されるとは思ってなかった。ヘルプさんも教えてくれっればいいのに……。まぁ聞かなかったから仕方ないけど、その情報は冒険者ギルドが握っている状態で外に広めない様に口止めしたけど、恐らくギルド内では周知されるんだろうなぁ。
要望として予想できる範囲は手を打ったつもりだけど……。そこまではよかったけど、あのギルド長の事だ、何かしら依頼しに来そうな気がするね。他にも条件の穴を見つけて何か言動を起こして来るかも」
僕は起き抜けに聞かされた報告を、程よい温度の紅茶を飲みながら未だベッドの上で
特に王太后様とラクシェ王女とか……、ついでと言えば悪いけど僕の父上と母上からも何か言われそうだ。この話に僕の退路なんてないってことか? けど、彼女はこの国の第5王女じゃないのか。そんな立場的には多少の微妙さはあるが、僕よりも良い相手がいそうなものだと思うんだけどなぁ。それに、王太后様が王女を差し出すと言っても、王女本人の意思はどうなんだよって話だ。
年齢的に、この先色々な好条件の相手が彼女の前に現れるかもしれない。彼女の気持ちを考えずに、結婚成立後に蓋を開けたら仮面夫婦なんて冗談じゃないぞ。そこは、……本人の気持ちを確認しなきゃ、ってか? 前世の僕は仕事一筋で、結婚経験もない。見合いや合コンだってしたこともないんだぞ? 確認とかどうやってしろってぇのさ。
それに、家督は何歳ででも継げるけど、結婚って確か14歳以上であればできるんだっけか? 国によるところもあるけど、たしかそんな感じだったはずだ。婚約は片方の親族の同意が必ず必要、主に立場の高い方が同意していれば問題ない。いやん、成立してるじゃん。僕の両親も相手に嫌な印象が無ければ、基本長いものに巻かれろって考えだし。やっぱり僕に退路なんてないじゃないか!
後は冒険者ギルド絡みの事と、膨大にある収集品の件かな。情報を精査すればダンジョンの攻略者に一定の人物等の名が
ダンジョンの情報を下調べして、ここなら僕のLVや、皆のLV上げに適している上に、暴れたいメンバーのストレス発散にも良いな、と全員で出向いたのが仇になったか。それに他のダンジョンで手に入れた収集品の膨大な量が
あれが無ければ今頃、誰かを冒険者ギルドに缶詰状態か通わせる羽目になっていただろう。いや、収集品の取引で結局通っているようなものか。捌き切るまでこの国のダンジョンは使わない方がよさそうだな。ちなみに、コープスのメンバーらしき人間はいなかったし、その痕跡もないということで、今頃他の国で暗躍しているのかもしれないな。冒険者ギルドにはその組織の情報に、関わりのあるメンバーの名前や似顔絵を作成して渡しておいた。
ユピクス王国の国王陛下にもこの件は伝えて、同じように情報を提供してあるので、これもユピクス王国の冒険者ギルドに伝わっているはずだ。情報の書類や似顔絵はルルスやマティア、ヘルプさんの協力のおかげで提供する情報の密度が濃く詳細にできた。暗躍の阻止につながれば良いが、それは他の人に任せよう。
ほんと、僕は領地運営をしたいのに、何故こうも別の案件や出来事にぶち当たるのか……。落ち着く為にはなるべく領地を動かないようにしているのが良いだろうか? でも、領地にいた頃にラクシェ王女の身元が割れて……。ん? あれかな、元をたどっていくとヴァーガーの奴隷商店に辿り着いてしまう。と言っても取引を切る様な事をされたわけじゃなく、どちらかと言うと僕がトラブルになりそうな人材を見つけるだけなんだよなぁ……。
あーめんどくさい。そういえば、ここの国に奴隷商ってあるんだろうか? いやいや、どうせトラブルを抱えるだけなんじゃないか? でも気になる。気になったら見に行きたくなるっていうのが人間の心理だ。とりあえず、この件はまた休みの日にでも気が向いたら行けばよい。今は忘れよう、そうしよう。
はぁ……。トヨネの出してくれた紅茶の渋みが身に染みるよ。
♦ ♦
その日の夜、仕事を終えて宿舎に帰り着く。今日は特に仕事に影響するトラブルもなかったし、誰からの呼び出しもない。食堂でご飯を食べて、部屋に辿り着くなりベッドへダイブ。
「ほほほ、オルクス様は大分お疲れがたまっているようですな」
「ケンプ、僕だって好き好んで疲れを溜め込んでるわけじゃないんだよ? 今日職場に行ったら、同僚達から何度もおめでとうございます、なんて言われるし。婚約の話が噂じゃなくて、もう皆の中では正式な話として出回ってるようだったし。職場に用もないのに野次馬は来るし。
食堂では席を譲られ周囲から腫物みたいに扱われるし、知らない人から指をさされて、あれがそうらしいぞ? とか言われるし。ベルセリさんから聞いた話だと、この国の貴族連中が陛下や宰相様、王太后様にラクシェ王女の件や爵位や領地の話を考え直せって陳情書を出したとか騒いでるし。昨日の今日の話なのにとんだ一日だったよ。
明日からもこういうのが続くんなら、僕はもうこの国で働くの遠慮しようかな……。まぁそんなことができるわけもないんだけど……。まぁ、やるしか、ないよ、ね――」
僕は精神的にも大分疲れているようだ。次から次に不満や文句を垂れながらそのまま眠ってしまった。
「お休みなさいませ。我が主」
眠りの中で、ケンプの声が聞こえたような気がした。
♦ ♦
それから10日と数日が経ち、雪が降る日が出始めた頃、12月に入った。季節は冬になり、いつの間にか気温がぐっと下がっている。布団から抜け出すのもちょっと
この時期に戦争するのか? 僕の思考は第一にそれを考えた。軍備や兵糧、兵の数とか大まかな作戦。その他諸々の情報は、ユピクス王国にいるフォルトス陛下から情報をもらっているので慌てることはない。けれど、話の流れ的に戦争を始める、所謂宣戦布告を相手国に伝えるのはもっと後じゃないかと思っていた。
12月は基本的に両国でも特別な行事であったり、土地からの収穫に類することをすることもない。国によるところだが、家畜の選別を行い食肉の生産等がされるのがこの時期が多いと聞く程度。前世でいうところのクリスマスだ、正月だという行事は一切ない。年の初めを祝うくらいの催し程度ならあるこの世界で、今が時期的に戦争をするには都合が良いのかもしれない。
それに、基本的に今回は短期決戦に重きを置いた抗争の延長にある戦争。領土の取返しが目的なんだ。こちらには正当な理由があり、野蛮だ卑劣だと言われるようなことはない。ユピクス王国の領土をじわじわと奪いに来たのは相手側なのだ。それを前面に周囲の国に知らしめることも必要。所謂根回しや印象付けと言われる行為だが、間違いのない正当な理由だ。それを行うことで相手国であるマヘルナ王国やヘーベウス王国に周辺諸国が肩入れしたり、軍事支援やそれに類する事を行うのを抑制する効果がある。
この世界の常識に
♦ ♦
日付は進み、僕が思っているよりも早い時期の開戦に向けて、刻一刻と不足のないよう準備がされていく。そして、僕のところに帰国指示が届いたのは昨日の事。翌日の早朝に僕は宮廷の応接室に呼ばれ、余人を交えずラクシェ王女と向き合って座っている。先ほどまで王太后様もいらっしゃったがと少しばかり雑談を交わした後、そそくさと退室された。
部屋にある暖炉から時折パチン、カタンと音がする以外に、部屋で物音を立てるものはない。先ほどからラクシェ王女は何も語らず、たまに手を握り直したり、口を軽く開いたり閉じたりしているだけだ。ここでのやり取りが終われば帰国指示に従い、この国を去ることになる。僕は不意に窓の外を見る。窓の外は軽く雪が降っている。吹雪いているわけではなく、はだれに降り続けている雪を見て独り言のように
「今年の雪はどうなるでしょう。確か去年は1月の中頃以降に本降りになって実家の屋敷の庭が白化粧に染まったのを覚えています。こちらではどうでしょう。距離としてはそれほど離れていないし、景色は違えど同じようなものかな」
質問になるかならないかの曖昧な言葉。僕の言葉に今まで落ち着かない様子だったラクシェ王女が窓を向く。そして、外の様子にしばらく見とれているようだ。そんな時間がしばらく流れた頃、王女がその口を開いて次のような事を告げた。
「私は、戦争というものを身近に感じたことがない身です。なので、今回の戦争に向かわれる貴方に言えることではないかもしれません。私が口にすべき事かどうかずっと悩んでいました」
ラクシェ王女が俯いたまま。止めた言葉を再開するのにそれほど時間はかからなかった。
「私と貴方の事を、御祖母様が婚約者と決めて周囲がどよめいて、貴方にもその影響が出ていると聞いています。御祖母様が出した条件、それが貴方に重荷を課しているのなら断って頂いても大丈夫です。……ただ、以前も話したことを蒸し返すようですが、私は貴方が戦争に行っても、無傷で何事もなく帰ってくると今でも思っています。いえ、思いたいのです」
僕はラクシェ王女に、以前にそういうことを言われたなぁと思い出した。僕は少し笑いそうになるのをカップに口を付けて隠す。僕が思い出したこと。彼女が考えていること。初めて会った時には思いもしない出来事の連続だったな。あの頃の僕は、今こうして二人で話すことも、互いの状況も全く予想していなかった。どちらかと言えば、彼女を国に返してお咎めが無ければ、今頃実家でのんびり領地運営の手伝いや開拓に
「だから、御祖母様が言い出した条件など関係なく、貴方は私の前に何食わぬ顔をして戻ってくる。そしてまたこれまでのように、この国で仕事をしながら休日には変わらず宮廷でレッスンをして、年を重ねて学院へ行く。どうせ貴方の事ですから、飛び級試験など片手間で合格されるのでしょう。その後も、なんだかんだと文句や愚痴を言いながらも貴方は私に付き合ってくれるのです」
大分先の事まで考えているんだなぁ。そのビジョンが既に彼女には固まりつつあるのだろうか。僕は彼女のお目付け役かな? 彼女の言葉からそんな未来が想像できた。まるで目に浮かぶような光景。
「まるで決定事項のようだ」
「決定事項ですもの」
当然です、とすぐさま言葉を返してくる彼女は普段の表情を現したが、次の瞬間にはまた、俯いてしまった。彼女の中で何かが渦巻いているようなそんな感じを受ける。僕はその渦巻いているものから彼女を解き放つ言葉を言わないといけないらしい。これも決定事項の内に入ってますかね?
「じゃあ、僕は何食わぬ顔で戦争から戻り、再びこの国で忙しい日々を送りながら休日に何でもない様に宮廷で貴方とレッスンに明け暮れる。そんな日々を送りながら不貞腐れている内心を表情に出さない様に、舞い込んでくるだろう予定のドタバタを消化しながら、時を経て貴女と一緒に学院に通う。その後は……、どうしましょうか?」
「適齢期になり、私と、……結婚して、時期が来れば沢山の子供を産んで、貴方の言うドタバタな日々を日常として共に過ごすのです」
「それも、決定事項ですか?」
「ええ、そうですよ。貴方が嫌がっても、私は貴方についていきますし、貴方がこの国を去ろうとしても絶対離れてあげませんよ。いずれ貴方に、私専用の諦め癖を付けてあげますから。そして、さらに時間が経って、貴方の諦め癖が治らずにいたら……」
「……治らずにいたら?」
「貴方の口から、私を好きだと言わせてみせます」
僕は手に持っていたカップを置きながら、彼女の言う先の事を考えてみる。なんだろう、こういっては変だが、彼女の言ったままになりそうで怖い。
「すごく先の事まで決定事項があるのですね」
「そうです。私の勘が告げているのです。貴方のこの先の未来に、その先の貴方の隣には私が必ずいます、と。……いえ、私だけじゃないかもしれない。何人もの女性を周りに侍らせて、それでも我関せずみたいな顔をしている貴方が見えます」
「何ですかそれ。僕にどうしろっていうんですか。王女の勘で未来予知みたいに僕の未来をズバリと言い出すのやめてほしいですね。まさにその通りになりそうで若干引きます。……けれど、王女の自信にあふれる勘とか、未来へのビジョンですけど、今ここで外してあげますよ」
僕の言葉に、今まで自信満々を表情にしていた王女の身体がビクリと震えた。僕はソファーからゆっくりと立ち上がる。何を言われるのだろう、何をされるのだろう、彼女は恐らくそんなことを考えているのではないだろうか? 僕が彼女の座るソファーの脇に近づくと、彼女が立ち上がりながら僕の手を強引につかんで目をぎゅっと閉じながら、震える声でこういった。
「行かないでください! 私の前からいなくならないで! 私は、私は貴方が好きです。
彼女の突然の行動に僕は驚いた。彼女は僕がそのまま部屋を去るとでも思ったようだ。サイレントの魔術など展開していないし、恐らく部屋の外で待機している侍女さんや、先ほどから何かの盗聴か覗き見の魔道具だろう品があることは分かっている。けれど、誰も部屋に入ってこない。ここで、僕が王女を振り払って出ていったら、僕は恐らく殺されはしないだろうけど、女性達にひどい視線や聞こえるような嫌味の独り言を延々言われる気がする。陰口や後ろ指ならまだいいだろうけど、そんな
と、いつまでもこの状態でいるわけにもいくまい。僕は王女の手を片手だけ放し、残っている手に口を付けながら、恐る恐る彼女の開いた目と視線を重ねながら告げた。
「前にも言いましたけど、僕は気紛れ屋なんです。覚えてますか? 僕が言った言葉。害ある者には容赦なく――」
「益ある者には相応に、無関係には目に毒でなければ関与しない」
「そうです。その中の益ある者には相応に。この益ある者と言う言葉には、当て付けに思われそうですけど、僕に良い影響を与えてくれる人と言う意味も含まれます。その人物達の中には、ラクシェ王女、貴女がちゃんと含まれてます。立場的に失礼な物言いになりましたけど、僕は貴方の
僕の言葉に驚いている王女に、フォローを兼ねて言葉を重ねる。だがそれは、大人達が望むような甘い言葉や誘惑じみた言葉ではない。
「僕が接する方々は一様に皆さん、勘違いされることが多いのですが。僕は大人びているだけで、その実ただの子供。実際に年齢が5歳ですからね。ただ、僕には事情があってすぐにでも、大人のような思考や振る舞いをしなくてはならない経緯がありました。それは現状どうにかなったので良かったのですけど。それを今更やめるわけにもいかず、今の僕が存在するのです。その影響かもしれませんが、大人達の言う恋愛だとか色恋沙汰、男女の間の感情というものを未だ理解し切れていないのが本音です。大人のように何でもできるように見せているだけ。悪く言えば未熟な大人の皮を張り付けた張りぼてか、中身が
「それで、構いません。けれど一部訂正を要求します」
「訂正? 一体何でしょうか?」
「貴方が張りぼてや不良品、欠陥品なわけがあるわけがないでしょう。未熟と言うなら私だってそれに含まれます。大人になっていない子供達は全員それに当てはまりますし、大人達でさえも未熟なままの人達だっています。私が好きな貴方が、自分を過剰に
おおう、さっきまでの悩んでた様子とは打って変わって、今度は怒りながらお叱り付きで訂正と誓いを求められた。うーん、やらないと帰してくれなさそうだ。まぁ仕方ない、か。
僕は自身の魔力を少し開放する。彼女の手を繋いだまま、魔力から神力を上げていく。演出的にはこれぐらいでいいだろうか。恐らく僕の両眼は銀色から虹色に輝いているだろう。髪の毛も薄い黄色のクリーム色から白に近い銀色になっているのが視界に見えて分かる。僕の変化に彼女は目をパチクリとさせて驚いているけれど、繋いだ手を振りほどこうとはしない、逆に繋いだ手に力が
「僕、オルクス・ルオ・ヴァダムは、自身を過剰に卑下したことをここにお詫びし、ラクシェ・セヴィオ・アトル王女と神に誓いを。戦争から無事に帰還し、必ず貴女の元に戻ってまいります。そして日々を共に過ごし、いつか先の未来へ。共に思い描く先に辿り着けるように一層の努力と、精力を注ぐことをここに誓います」
色恋沙汰は一切含まない先送りの言葉である、そんな感じの色気のない誓いだ。だが、ラクシェ王女は涙を流しながら、僕の手を自身胸に当てて両手で包みながら次のように宣言された。
「私、ラクシェ・セヴィオ・アトルはその詫びを受け入れ、私と神に誓いを立てた貴方の言葉を聞き入れることをここに、オルクス・ルオ・ヴァダムと神に宣言致します。……約束は守ってくださいね?」
「はい、必ずや」
僕等の誓いと宣言は、二人だけの間で交わされた。
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