ドミネーション
ツヴァイリング
ドミネーション(プロローグ)
男は思っていた。
俺にもっと知恵や閃きがれば。あのときのことをメモさえして忘れなければ。あの時、あの人は何と言っていただろうか。それを反映できていたら面白かったろうに。
男は悩んでいた。俺がもっとマメな性格ならと。色々なものの機微に敏感であったなら。コンテンツは尽きないほどにできただろうに。
男は苦悩していた。と言うよりも後悔。いや、無い物ねだりをしていたのだ。過去にもう一度戻れたなら今度は違うことをやってみたい。もう一度あれが、『ドミネーション・チョイス』がやりたい!
男の年齢は50歳過ぎとまだ働き盛りだった。が、ゲーム会社退職直後、突如脳に障害が発生し思考がぼやけ身体が動かず原因不明の難病と診断され身体機能も徐々に弱り余命幾ばくかと担当医から告げられた。それでも男は自棄になるわけでもなく、最後に求めても仕方のない無い物ねだりをして時間を浪費していたのだった。
「ああ、俺の城、俺の街……。もっとやりたかったな。考えても仕方ないのに、でも……彼女達にもまた会いたいなぁ」
病院内が消灯時間を迎える22時。その男、
「菅さん、お休みになりました」
「了解」
夜勤の看護師達の会話はそれで終わった。
♦♦♦
「――菅、――菅創也。起きなさい」
「……ん」
「迎えに来ました」
目が覚めると創也は横たわった状態で真っ白な上空を見ていた。病院の一室だったはずだが起きたら天井がないなんてそんなウソのような状況である。だが、意外と創也の心境は落ち着いていた。呼ばれた声にも普段なら脳の障害か薄れている意識のはずだが今ははっきりとしていて、視線を声のした方へ向けると穏やかな表情をした女性が一人そこに立っていた。その時点で菅創也は自覚した。自分の死を。
♦ ♦ ♦
「俺、いや、私は死んだんでしょうか?」
「ええ、時間にしてみれば就寝の後、おおよそ1時間弱後に息を引き取りました」
自覚しながらもあえて自分が死んだのか女性に尋ねる。返ってきたのは肯定と大凡の死亡推定時刻であった。
「私はこれから死後の世界とやらに連れて行かれるんでしょうか」
死んだら誰しも、この美しい女性が迎えに来てくれるのか。などと埒もあかない疑問を抱きながら、創也は女性に再び尋ねる。しかし、返ってきた答えは想像していたものとは違うものだった。
「まず、貴方が生涯を終えたところまではそうなのですが、私が貴方を迎えに来た理由は別のところにあります。今からそれを説明して理解してもらい、貴方に選択してもらいたいと思っています」
「選択、ですか」
創也は内心落ち着かないものの、混乱することもなく女性が今からするという説明とやらを、特に重く考えず聞くことにした。
女性はカルティアという名の女神らしい。彼女の説明は淡々とされる分理解しやすく、話は単純なものだった。いわゆる地球とは別の世界へ転生するか、このまま存在自体の消滅をするかという二択。そこで俺は単純に一つ尋ねる。他の死んだ人も同じ選択肢が与えられるのか、答えはノー。
太陽系のような枠組みで区切られた
(なんだこれ、どこかのライトノベルの使い古された設定ぽい匂いがしないでもないぞ?)
とりあえず、そんな二択を迫られたら転生するしかないだろう。創也は転生することを選び、能力とは別に断られるだろうと承知であることを望んだ。そしてその願いは何故か受け入れられた。
「それではカルティア様、お世話になりました」
「はい。では良き新たな生を」
まるでそのやり取りは、引っ越しの住民票を移し終えたような、そんな気やすささえ感じさせるものだった。
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