第二章 5 ようやく到着

「……ふふ、レミアちゃん。やっぱりあんたは七歳児ね。あれだけのことで激昂するなんて。大人ならもっと余裕を持った方がいいわよ?」

 気がつくと、ボロボロだった制服と髪がいつの間にか元に戻っていた。

「なっ……! そ、そうね、わたくしも少し言い過ぎましたわ。こんな貧相で胸もないような女性に言い過ぎるなんて、先ほどはどうかしていたようですわ」

「むっ……! わ、分かればいいのよ。これからも仲良くしましょう?」

「ええ、もちろん」

 乃子とレミアは、歩きながら器用に和平の握手をする。

 ただし、両者とも腕が筋張るほど全力で。

「僕の弁当が……。ママの作ったお弁当が…………」

 対して紘は、未だに弁当のことを引きずっていた。両手でそのお弁当箱を大事に抱えている。弁当包みはボロボロになり、中の容器は大回転し、とても悲惨な光景になっているのが明らかなそれを。

 乃子はたまらず声を掛ける。

「そんなにそれが食べたいのなら、あたしが直してあげてもいいわよ。神の力で」

「――本当ですかっ!」

 紘が子犬のようにキラキラした瞳をして、その顔を乃子の顔に近づけてくる。

「うわ、めっちゃ食いついてきた」

「お願いします! 靴でも太股でも舐めますから!」

「太股は忠誠じゃなくてご褒美でしょうが!」

「だったら靴を舐めます!」

「舐めなくていい! 舐めなくて!」

 乃子は紘の額をぐいっと手で押しのけて、接近した彼の顔を引き離した。

「じゃあどうすればいいんですか」

 十秒前より落ち着いた様子で、紘は再度尋ねてきた。

「……いいわよ何もしなくて。弁当をそんなのにしたのは、無理矢理連れてきたあたしのせいでもあるんだし。だから何もしなくていいわ」

「そ、そうか」

 紘は若干驚いた表情をしつつも納得した。

(それじゃあ冥狐、お願いね)『はいさーい』

 乃子が指をパチンと鳴らす。すると、紘の持つ弁当が、その時間が巻き戻っていくかのように修復されていき、あっという間に爆発事故が起こる前の状態まで戻ってしまった。

「おお! ありがとう乃子!」

「ど、どういたしまして?」

 急に名前で呼ばないでよ、びっくりするじゃない。今まで『お前』とかだったのに。

 ――歩くことしばし。

「さあ着きましたわ。着・き・ま・し・た・わ!」

 レミアがストレスを発散するかのように叫ぶ。

 ほどなくして、三人は先ほどの空き教室に舞い戻ることができた。無人無差別テロが起きた教室の前は、爆発した扉以外どこも損傷などは出ていなかった。というより、何事もなかったかのような綺麗さであった。

 一方、爆心点である扉は、扉としての形状は残しているものの、その表面はひどい黒焦げの状態だった。出来の悪い板チョコレートみたいである。

 三人とも教室の中に入ると、レミアがチョコ扉を力任せに動かして、無理矢理その扉を閉めた。一応扉としての機能は果たしているようだ。

『何ですかこれー! すごーい!』

 教室の中。そこには、予想もしなかった光景が広がっていた。

 まず教室に整然と並んだ机はなく、代わりに中央に質の良さそうな大きなテーブルが置かれている。付属するいくつかの椅子も、座り心地の良さそうな高級品だった。

 そして壁際近くには、まったく見たこともないような機械類が設置されている。その近くには、これまた見たこともないような小型の装備がたくさん並べられていた。よく見れば、未来的でSF的な銃に似た形をしているようなものもある。

 機械・装備類の反対側には、巨大なモニターが設置されていた。しかし今は稼働していないのか、画面は真っ暗な状態であった。

 一言でこの部屋を表すならば、『秘密基地』がやはりふさわしいだろう。空き教室はいつの間にか、そんな秘密基地に改装されてしまっていた。

 そんな基地の中に、テーブルに座ってティーカップを手にしている二人の人物がいた。二人はレミアを見ると、ティーカップを置いてそそくさと立ち上がった。

「レミア様、お疲れ様です」

「ういっすレミア」

 立ち上がった二人は、それぞれレミアに対して挨拶をする。

「二人ともご苦労様」

 レミアは二人に言葉を返すと、振り返って次は乃子と紘に向かって言った。

「紹介しますわ。わたくしの仕事仲間、優理香と夏希ですわ」

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