第二章 4 クズは爆発する(ギャグ補正)
「ついていってもいいけど、一つだけ条件があるわ」
「何ですの?」
「あたしに昼飯を奢りなさい。それもとびっきり豪華なものを。そうしたらついていってあげてもいいわ」
「七歳児にお昼ご飯を奢らせるのあなたは? そんなことをして良心が痛まないの?」
あら切り返しが上手いこと。七歳なのに立派だわ。えらいえらいしてあげる、心の中で。
「まったく痛まないわ。あたしクズだから」
『メインヒロインが自分のことをクズとか言う作品、私初めてです』
確かにないかもしれない。周りからクズだと言われることはあるにしても、メインヒロインが自ら自身のことをクズだと言うのは見たことがないな。
だったらあたしたちが最初ということになる。これは思わぬところでパイオニア――先駆者になってしまったものである。
「ふふ。……やはりいい性格してますわ、あなた」
「どうせ金なんて腐るほど持ってるんでしょ? あんたの仕事を考えれば分かるわ」
「いいですわ奢りましょう。特上寿司で構わないかしら?」
「いいわね、寿司。じゃあそれで」
話がまとまると、二人は同時に席を立った。気持ちいつもより格好をつけて。
レミアがスマホを取り出し、誰かに電話を掛けている。おそらく寿司の手配をしているのであろうことは容易に想像できた。
彼女は電話を終えると、乃子……ではなく、今度はさらにその隣の席の紘に向かって言った。紘の席は偶然にもあたしの左隣なのである。これは操作したのではなく、本当に偶然そうなったのだ。
「種神紘。あなたもついてきなさい」
ちょうど弁当箱を広げようとしていた手を止め、紘はレミアの方を向く。
「何で僕も? 理由は?」
「乃子の最も近くにいる存在として、あなたにも話を聞いておいてもらいたいのです」
「……うーん、それだけ?」
紘は渋るように言う。どんだけあたしに気をかけてくれないのよ。それともなに、そんなにママの作ったお弁当が大切なわけ? ――あたしも少し食べてみたいとは思ってるけど!
「いいからあんたも来なさいよ。どうせどこで食べたって一緒でしょ」
「…………」
「来ないと弁当がどうなっても知らないわよ。いいの? 弁当が全部イカスミになっても」
乃子の弁当に対する脅しが効いたのか、ようやく紘が観念するように呟いた。
「分かった分かった、行くよ」
「それではわたくしが先導いたしますわ。ついてきて」
レミアはそう言って、教室の外に向かって歩き出した。乃子と紘は、その七歳児の背中についていく。……あと冥狐も。
しばらく歩き到着したのは、使われていない空き教室だった。
「ここよ」
レミアが扉を開ける。すると、そこにはとんでもない光景が広がった。
勘違いしないでいただきたい。扉の中にとんでもない光景が広がっていたのではなく、今まさにこの場でとんでもない光景が現在進行形で広がったのだ。
そのとんでもない光景は、レミアの開けた扉から始まった。
その開かれた扉が赤く変色していき。
とんでもなく嫌な予感がした瞬間――。
板状の爆弾が炸裂するかのように、その扉が轟音を響かせて爆発したのだった。
「きゃああああああぁぁぁぁぁぁ――――――っ!!」(七歳児)
「………………―――――――――――ちょおっ!!」(メインヒロイン)
「うわああああああぁぁぁぁぁぁ――――――ッ!!」(主人公)
『いやああああああぁぁぁぁぁぁ(棒)』(外野)
凄まじい爆風と衝撃がレミア、乃子、紘の三人を襲う。対して冥狐は、物理的干渉を受けないため無傷だった。だからこそ棒読みの悲鳴が出せたのであるが。
そして幸いにも、爆発に巻き込まれた他生徒はいなかった。
爆風は軽々と三人の体を浮かし、そして大きくその体を吹き飛ばす。吹き飛ばされた三人は、窓ガラスをそれぞれ一枚ずつ突き破って、放物線を描きながら校舎の外へ吹っ飛んでいった。
――ギャグ補正をかけておいて良かったぁ。
と、乃子は心からそう思った。
「何でわたくしがこんな目にあわなければならないんですの……」
これは、自身が悲劇的な目にあったことを許せないレミアの台詞である。
「ほんとだよ! おかげで弁当が台無しじゃないか!」
これは、ボロボロになってさらにひっくり返ってしまった弁当箱を持つ紘の台詞である。
「あ、あたしのせいじゃないでしょ!? 何であたしが悪いみたいになってるのよ!?」
これは、二人が自分を責めていると感じたメインヒロイン乃子の台詞である。
レミアと乃子と紘の三人は、再び例の空き教室を目指して廊下を歩いていた。
ギャグ補正により肉体的なダメージは一つもなかったが、その代わりに三人は衣服と髪がボロボロになり、精神的な疲労を味わわされることになっていた。
「あなたの疫病神体質がこうさせたのだから、あなたが悪いのは確定ですわ!」
レミアが憎しみを込めた目で、背後にいる乃子を見る。
「それはそうだけど! でもあたしにはどうすることもできないでしょ!? そんなにあたしが悪いみたいに言わなくてもいいじゃない!」
おおお落ち着けあたし。爆発で動揺しているのか? あたしはこんなに感情的な女ではなかったはずだ。いつもみたいにクールになりなさい。クールで知的で、ウィットに富んだ会話をする極上のエロい女になりなさい。
『極上のエロい女は言い過ぎでしょう。だってその胸ですよ? あはは』
よし、落ち着いた。感謝するわ冥狐。…………本当に感謝するわぁ。
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