メインヒロインに物語を丸投げしてみた

キョウペイ

プロローグ 1 金髪ショートツインテールの昼休み



 プロローグ



「はい、牛丼」

 食堂のおばちゃんがいつものニコニコ顔で牛丼を手渡してくる。

 金髪ショートツインテールは、それを両手で受け取り、持ってきたプラスチックのトレーの上に置いた。トレーの上には、すでに汁物としての味噌汁も載せてある。

 今日は寝坊したので、朝食をろくに食べていない。そのため、さっきから胃が悲鳴を上げている。早く食べ物をくれ、早く食べ物をくれ、と。

 この食堂は食券タイプの先払い方式なので、もう料金は払ってある。金髪ショート(以下略)は食堂の座席部分を見渡して、ちょうど良い席がないかを探した。

 今はお昼休みの始め頃。席も半分ほどしか埋まっていない。

 そこでは、様々な髪色・髪型・服装をした男女が、仲の良い友人と共に昼食を取りつつ談笑していた。どこにでもある昼休みの光景である。

(……あそこでいっか)

 金髪(以下略)は奥まった位置にある空いた場所に目を付けると、そこに向かって歩き出した。他人の雑談を耳にしながら、彼女はトレーを運ぶ。この前共演した人物のある時の反応が面白かっただの、あるモブ役の女の子が可愛かっただの、そんなような会話だ。ここでは特に珍しくもない。あたしだってたまには友人とそんな話もする。

 目的の席に着くと、テーブルのにトレーを置いて椅子に腰かける。律儀に手を合わせ、昼食を始める。

 まずは味噌汁を口に含む。今日もいつも通りの味だ。値段の割に味は良く、金髪はこの味噌汁を気に入っていた。

 次に牛丼。こちらも食べ慣れた味だ。いつものように美味しい。

 それから交互に味噌汁と牛丼を食す。

 一人で食事をするのは嫌いではない。もちろん、大勢でワイワイと食事をするのも好きだ。

 だがあたしは、自分から食事を誘うような人間ではなかった。誘われれば喜んでついて行くのだが、自分からは誘わない。別に誘うのが恥ずかしいとか、緊張するとか、そんな理由ではない。ただ何となく、である。

 ゆえに一人になることが多いが、それをみじめだと思ったことはない。特に気にすることでもなかったからだ。

「金髪ショートツインテール先輩っ」

 しかし、どうやら今日は一人ではないようだ。

 金髪が顔を上げると、テーブルの向こう側に見知った顔の人物がいた。

「……黒髪ロングストレート」

「はい、ツイン先輩」

 目の前にいる黒髪ロング(以下略)は、食器を載せたトレーを持ってテーブルの前に立っている。

「これから昼飯?」

 金髪が牛丼の器を持ち上げながら言った。

「そうです。ここ、座ってもいいですか?」

「いいわよ」

 許可を出すと、黒髪(以下略)は、金髪の対面の席に腰を下ろした。

「いただきます」

 と言って、黒髪は具の少ないうどんをすすり始める。

 黒髪は、最近キャラクターとしての仕事を始めたばかりの新人だ。以前あたしがサブヒロイン役で出演していた作品に、彼女もモブ役で出ていたことをきっかけに知り合った。

 あまり出会うことはないが、たびたび彼女があたしの姿を見つけると声を掛けてきてくれる。今回のように食事を共にすることも幾度となくあった。

 しばらくは黙ったままだったが、やがて金髪が黒髪に話しかけた。

「仕事は最近どんな感じ? 上手くいってる?」

「はい。といっても、声なしモブの役ばかりですが……」

「仕事があるだけ上々よ」

 金髪はそう言って、味噌汁の最後の一口を飲んだ。

 自分が偉そうに彼女に言えるのも、『キャラクター』としては自分の方が先輩だからである。

 この先、黒髪がメインヒロインとして作品に登場できるかは、作品と監督の人にかかっている。その生み出される作品でメインのヒロインの属性が黒髪ロングストレート系であれば、彼女にもメインヒロインになれるチャンスがあるわけである。

 もっとも、同じ属性の人は何名もいるので、オーディションに勝ち残らなければならないが。例外として監督から指名を受けることもあるが、新人の黒髪にとってそれは望み薄だろう。

「先輩、一つ聞いてもいいですか?」

「何?」

「どうして先輩は、髪、ロングではないんですか? 金髪ツインテールといったら、ロングが定番じゃないですか?」

「確かに、もっともな疑問だわ」

 金髪はご飯をごくりと嚥下してから話を続けた。

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