まだまだここから

「――というワケで、綾瀬が正式にA番専のスタッフとして加入することになった」

「この度A番スタッフとして加入します、綾瀬香菜子です! 改めましてよろしくお願いします!」


 林原さんから、カナコさんが正式にスタッフとしてセンターに加入するという発表があった。林原さんと春山さんが最終テストをした結果、当面はA番専のスタッフとして起用していくという方針に決まったらしい。

 春の繁忙期が過ぎたらカナコさんに対するB番研修がまずはマシンを使わない範囲で始められるそうだ。林原さん直々にみー……っちり! しごかれるらしい。烏丸さんはずるいって言ってるけどカナコさんなら厳しい指導はむしろご褒美だと思う。


「カナコさんおめでとうございますー」

「ミドリくんありがとー」

「カナコちゃん、ユースケに色仕掛けなんてしてないよね?」

「烏丸さん、私は先輩だけのものですよ! 大体、雄介さんが色仕掛けになびかない人なのは烏丸さんだってよーく知ってるじゃないですか」

「そうだよね! カナコちゃん、実力での加入おめでとー」

「ありがとうございますー」


 星港大学ではそろそろ履修登録の時期で、学部問わず情報センターを利用することから利用者がグッと増える。いわゆる繁忙期が始まるのだ。今のうちにやっておかなくてはいけないことはいろいろ。

 例えば、コピー用紙の補充。これが結構なペースで減っていく。だから束単位での補充が必要。これは主に男手の作業。例えば、受付の整頓。人がひっきりなしに並んでもみくちゃになるから、整列に必要な道具を揃えたり、効率アップを工夫する。


「おい、プレッツェルが邪魔で用具が並べ切れんぞ」

「あー……春山さんの遺産……」

「そしたら、少し持ち帰りましょうか。私、家にあったのを切らしましたし」

「ああ、頼む綾瀬」

「カナコさん、持ち帰るなら車出しますよー」

「ミドリくんありがとー」


 プレッツェルには少し退いていただいて、繁忙期に備えた準備作業は続く。今日は利用者があまりいないけど、こういう準備が始まると、そろそろだなって思う。そわそわしてくるなー。

 そして、粗方の準備が終わったらみんなで休憩。一応受付を見ながらではあるけど、カナコさんが淹れてくれるお茶と春山さんの旅土産で一服。それぞれの飲み物が美味しそうな匂いを立てている。


「はい雄介さん、お茶です」

「ああ」

「あー! カナコさんのマイマグだ!」

「ホントだ! ねえカナコちゃんそれ何ていう飲み物? ミドリのとは違う匂いがするー」

「これは黒豆茶っていうんですよ」


 カナコさんのマイマグと、マイお茶が新しく戸棚に並んだ。林原さんはミルクティー、烏丸さんは緑茶。俺はほうじ茶でカナコさんは黒豆茶。よーし、覚えた。そう言えば、冴さんを見ないなあ。


「そうだ。お前たち、特に烏丸と綾瀬」

「なーにー?」

「何でしょう」

「履修登録の時期になると単位制度や履修登録の制度についての質問も増える。制度について何となく理解しておけ。連中は単位制度がセンターの管轄にないと知らんし、理解せん」

「よくわかんないけど、わかったー」


 そう言われてみれば、履修とか単位とかの制度ってあんまりよくわかってないや。そんなことを考えていると、私もよくわからないけどわかりましたーとカナコさんの声が飛ぶ。

 あからさまに浮かぶ林原さんの溜め息。こんな調子で大丈夫なのか。そう言いたげな感じ。でも、実際そうなんだよなあ。秋の履修登録の時にいろいろ聞かれて大変だったのを覚えている。勉強はしておかなきゃいけない。


「あの、林原さん」

「ん?」

「休憩が終わったら、留守番をお願いしたいんですけどいいですか?」

「構わんが、どうした」

「烏丸さんとカナコさんと一緒に教務課に行って、履修登録や単位制度について本職の人に聞いてこようと思って」

「わかった。烏丸、綾瀬。川北について教務課で勉強してこい」

「はーい」

「わかりましたー」

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