shout of nobody
昨日までの死んだ目は何処やら。それはもうイキイキとして、生気を取り戻した目が光り輝き、纏うオーラごと別人になった野坂の姿がある。
今日は緑風旅行当日。ガイドさんと彼女の実家近くのコンビニで合流。そのままの流れで行き先を考えている。ガイドさん――菜月さんも生きていたようだし、野坂も生気を取り戻した。ひとまずよかった。
「圭斗、お前の目的を果たしたいならいい場所がある」
「どこだい?」
「ここからはちょっと遠いけど、エリア内の珍しいお酒を取り扱ってる酒屋が入ってるショッピングセンターがあるんだ」
「それは興味深いね。僕が調べてもその情報には行き当たらなかったし、さすが菜月さん」
「その道中にレオンの実家がある。カフェもやってるからお茶でもしないか」
「ん、それはいいね。そうしようか。それでいいかい、野坂」
「もちろんです!」
レオンの実家はここから近いんだ。そう言う菜月さんのナビ通りに山をかき分け国道を進んでいけば、確かに10分もしないうちにブドウ園の看板が見える。ブドウ狩りの季節ではないけれど、カフェは年中やっているらしい。
「いらっしゃ……あー、菜月ー!」
「レオン、店番か」
青女のゴスロリことアヤネが僕たちを出迎えてくれる。礼音と書いて本名はレオンだけど、アヤネと呼ばないとキレるので僕はアヤネと呼んでいる。菜月さんはクセでレオンと呼んでいるようだけど。
「圭斗もー、久し振りー」
「そうだね。ヒビキとは定例会でよく顔を合わせてたけど」
「ヒビキから聞くくらいだったもんね。この子は? この子も向島?」
「2年の野坂雅史と申します」
「ノサカ……あーっ! 馬の骨!」
「ええっ!?」
突如馬の骨と叫ばれたノサカの顔がナンダッテーと言っている。この状況ならナンダッテーの使い方としては間違っていない。ただ、お店の中なので控えているようだ。
僕には野坂が馬の骨になる理由に心当たりがある。薄ら薄らと揺れる、過激派の影。僕は穏便な野坂派だから、立場としては敵になる。
「この子が野坂くん。何だ、悪い子じゃなさそうじゃん。圭斗、菜月とも仲いいんでしょ?」
「すこぶるね。時に執事、時に騎士として彼女に添う姿勢は立派だよ」
「え、ええと……話が見えないのですが」
「レオン、もしかしてちえみが何か吹き込んでるのか」
「アヤネ。そーだよちえみの奴! どこぞの馬の骨が菜月に付きまとってるとか好き放題言ってたけど現時点でいい子じゃん! ちえみぶっ飛ばす」
「ええと圭斗先輩、ちえみというのは」
「青女のヒメはご存知かな」
「ええ。バービー人形みたいな。タレントとして活動中のヒメ先輩ですね」
「彼女の本名が山田ちえみというんだよ」
「ナ、ナンダッテー!?」
あ、出た。でも惜しいな。外だったらきっと綺麗な天然エコーがかかっていたに違いない。ブドウジュースとワッフルをつつきながら、話の全貌をアヤネから引きだそうとする菜月さんの必死さだ。
「ヒメは高崎と菜月さんをくっつけたがってて、それもかなりの過激派なんだ。だから、菜月さんに近付く高崎以外の男を排除しにかかる傾向にある」
「男にその気がなくたって容赦ないからねちえみは。ゴメンね野坂くんちえみがー」
「いえ、俺が実害を被ったわけではないので。それに、高崎先輩と菜月先輩は事実、素敵な相棒でいらっしゃっいました。恋愛関係かはともかくお2人に対する憧れはあります」
尊敬は本当だろうけど、「恋愛関係かはともかく」というのが引っかかるね。そうだね、それでなくても野坂は高崎のことを意識しているようだから、仕方ないね。「素敵な相棒だった」と過去形にしているのが負けないという意志の表れかな?
「野坂くんいい子だなあ! 菜月よかったね、いい後輩がいて!」
「いえ、俺はまだまだです」
「謙虚だなあ、気に入った! よかったらうちのジュース買ってって! 割り引くし! 2年生ってことはワイン飲める? 未成年には売れないけど」
「ノサカ、1日足りないな」
「足りませんね」
「じゃあ圭斗か菜月が買って日付変わったら乾杯してあげて! 買ってって!」
ん、今日の宿では酒盛りをすることになるのかな?
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