破竹の垂直Chop Girl

「つばみ~!」

「つばみ言うな」

「つばみマジパねえんだよ、パねえから聞いてくれー!」

「ハマ男黙れ。知り合いだと思われたくねーわ」


 あー、やっぱ出てきてやるんじゃなかった。ハマ男が切羽詰まった感じで出て来いって言うからしゃーなしで出て来てやったらいきなりうっさい。

 出てきてやったからにはコーヒーはハマ男持ち。それも「全然いーし! だから話聞いてくれ」と、そんなにすぐしなきゃいけない話なのかって。例によってパねえばっかだし。


「で? 何なの?」

「ヒロさんがひでーんだよ」

「ヒロさん。ってーと、向島のじゃなくて長野サンの方ね」

「向島のアイツはヒロ。俺が今言ってんのはヒロ“さん”の方な」


 長野サンと言えば、前対策委員の資料係だった人だ。とは言え引き継ぎの時に喋ったとかでもなく、影も薄いしジメジメしてるっていう印象が強い。ぶっちゃけあんま良くは知らない。

 洋平や朝霞サンとは仲良くしてたみたいだけど、入院がどうとか学祭がどうとかっていう話をしてたのをチラッと聞いた程度でアタシ自身特に長野サンに興味があるワケでもなく。


「で、長野サンがどーしたの」

「ヒロさん、青女のさとちゃんと付き合い始めたんだよ」

「へー。ん? ……えーっ!? ぅえっ!?」

「つかつばみもそんなリアクションすんのな、マジパねえ」

「青女のさとちゃんて、あのさとちゃんだよね。つか何で」

「話すとすげーパなくてなげーんだよ」

「掻い摘め」

「あんかけうどん」


 何か、退院したての頃に公園で気分が悪くなったところにさとちゃんから助けてもらって以来、食事療法の手伝いという名目で何やかんや2人でいちゃこらしていたらしい。

 青敬の学部移転に伴う引っ越しで長野サンは事実上失踪したんだけど、あんかけうどんが恋しくなって呟いた。その単語だけで手当たり次第にハマ男があんかけうどんを作れる人を探し回ってたらさとちゃんにぶち当たってめでたしめでたし。


「まさかヒロさんとさとちゃんが俺の知らないところでそんなことになってるなんて知らないじゃんなー」

「だね。インターフェイス経由じゃないんでしょ?」

「それな。運命マジパねえ。ヒロさんが敢えて距離を置いてたとか、次に出会えたら付き合おうみたいな話とかを知らねーで俺はバタバタ走り回ってたのな。シゲさんとかにも聞いたし」

「シゲトラ?」

「そうそう。結構仲良くしてもらってんだよ」


 ハマ男はストローを甘噛みしながら、長野サンとさとちゃんを祝福している。ただ、その表情からは単純に祝福というだけではない感情がだだ漏れで、複雑な焦げ目をつけたそれを隠すつもりもないらしい。

 自分のしたことはお節介だったのではないか。何故そういう場に自分は居合わせてしまったのか。別に2人が付き合うのが嫌なワケじゃないしその日のことについてフォローもしてもらった。だけど。

 そんなことを言ってはうじうじしているハマ男が正直めんどくさい。長野サンが作ってやってる陰湿キャラよりよっぽどジメジメしてるし殴りたい。天然モノほど対処しようがないって言うかさ。


「やっぱさー、俺の手が入っちゃったのが申し訳ない的なさー、アレじゃん」


 時として、サンバイザーは鋭利な鈍器である。頭にあるそれを外して右手に構える。洋平をマジ泣きさせたヤツ、食らいやがれ!


「さっきからうっさいわボケ!」

「いって! パねえ痛てえ! いや、つかつばみお前垂直チョップは人道的にどうよ」

「知るか! さっきから黙って聞いてりゃ何なの? そんなモン共通の知り合い多い時点で遅かれ早かれ出会ってるし、2人ともお前なんか意にも介してないっつーの! お前は俺マジパねえっつってキューピッド気取ってりゃいいんだよバーカ!」


 サンバイザーのつばで殴られた箇所を押さえながら、ハマ男は顔を上げて笑った。多分痛みで浮かんでるっぽい涙で泣き笑い。

 ヒロさんの幸せを早めた俺パねえ。俺を励ますつばみパねえ。バイザーのつばで人を殴るつばみパねえ。これにはうっさいわともう一発、軽めのを。つか布製のヘアバンドの上から殴ってんだからまだダメージ軽いだろお前。


「ハマ男、昼だけど飲み行くか」

「おっ、いいねーパねえ」

「よーし、ハマ男の奢りでる~び~だー!」

「えっ、俺の奢り!? いやまあ1杯ならいいけど」


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