不意打ちの殺傷スマイル
「狭いしごちゃごちゃしてるところだけど、よかったら」
「それでは、邪魔をする」
あずさ主動の“ダブルデート”は、とうとうロイの部屋にまで足を踏み入れた。ロイの部屋に来ることになった理由は、リンとロイの映画音楽談義。話が尽きないようで、実際に聞きながら話を続けたい、と現在に至る。
私はリンが何に興味があるのかに興味があってついてきた。あずさは……魔界に足を踏み入れんばかりの鬼気迫る表情。確か、ロイと2人でいるときもこの部屋が一番色気のない場所だとは言っていた。
「朝霞、ラックを見てもいいか」
「どうぞ。プレイヤーあるし、気になったのあったら使ってもらって」
ロイの部屋は、趣味や資料として集めた本やCD、そしてDVDで溢れていた。一応ラックにそれらしく整頓されてはいるけど、ちょっとした古本屋を除くかのような、そんな錯覚を抱く。
これはいい物だ、こんな物まであるのかと、リンは興味深い物を見つける度に少年のような顔で次々と床に置いてキープしている。こんなに生き生きとしたリンの姿は初めて見るかもしれない。
「朝霞! これはもしや」
「これに目を付けるとはさすがリン君、お目が高い。映画ではないけど舞台のCDで、初演キャスト版のはなかなか見つからなかったんだ」
「おお、これは往年の刑事物のサントラだな。こちらは中華物。発禁になってるフォークまであるな。しかしお前は映画に限らずジャンルを選ばんのだな」
「ちょっとでも気になったら買い漁ってる。中古ショップで手当たり次第に買うんだけど、後から作品とかを調べてハマるパターンが多いかな」
あずさが男性陣のそんな話を聞きながら、苦虫を噛み潰したような表情をしている。どうやらあずさはロイのこんな話に付き合わされ続けているらしい。また始まった~と火の粉が自分に飛ばないことを祈る様は、好きな人の部屋にいるとは思えない。
「美奈ちゃん、男の子ってこういう話が好きなのかなあ」
「多分、人による……。どちらかと言えば、リンはオタク気がある……強いジャンルだと、話は尽きない……今の場合だと、音楽……」
「うう、あたし音楽はあんまり強くないんだよう。美奈ちゃんラジオ局でバイトしてるんでしょお、何か音楽教えて~」
残念だけど、私が音楽で教えられることはあまりない。どちらかと言えば美術とか、アートの方が強い。ただ、ロイの興味関心の幅を見ていると、音楽に限らずロイの知らないことなら何でも問題ないと思う、とあずさには返しておいた。
「この棚は何だ」
「この棚は俺がこれまで部活とかで書いてた台本。中学の時からのが一応全部突っ込んである」
「ほう。少し見てもいいか」
「どうぞ。昔のは少し恥ずかしいけど」
ロイの書いた本が突っ込まれている棚を物色しながら、リンはロイの活動の幅広さに呆れたような表情を浮かべている。もちろん、この場合はいい意味での呆れ。あずさも同様に、呆れたような表情だけど、これもいい意味で。
私はと言えば、ロイの部屋を物色するリンの様子を見られてとても楽しかった。自分が何をしたわけではないだけど、彼のこういう一面を知れたことが。床にはブックマーク代わりにキープしたもので溢れていた。
「朝霞、これらのCDを借りることは出来るだろうか」
「いいよいいよ、急ぎで使う予定もないし」
「では、ありがたく」
「あー、でも、伏見に感謝だな」
「えっ、あっ!? あたし!?」
「こんだけ俺の本棚に興味持ってくれる人も、好きなことを話してドン引きしない人も初めてだ」
「ドン引きされてるっていう認識はあったんだ」
「とにかく、伏見が今回の機会を設けてくれなかったらリン君と出会うことはなかったし。ありがとな」
「いっ、いいえー!」
そう言ってロイがあずさに笑いかけると、わかりやすく戸惑って顔を赤くしているあずさがいる。可愛い。突然そんな爆弾みたいな物を投げられたらびっくりもする。
「ほう。その理屈で言うと、オレは美奈に礼を言わねばならんな」
「私は、別に……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます