星の数だけ探す煌めき

「アヤちゃん、そのオイシイ物を詳しく報告願います」

「たまちゃんならコピ本作れるよホントに」


 これから始まるのは、慧梨夏とアヤさんの近況報告会だ。どのイベントがどうだ、こういうシチュエーションが美味かった、などと互いのモチベーションアップに繋がる話をする会らしい。

 慧梨夏曰く、オンラインで話すのも楽しいけど、オフでこういう話が出来る人がいるというのはとても大きいそうだ。みなもさんもいるけど、みなもさんとアヤさんではまた話す内容が違うらしい。俺にはその違いがよくわからない。


「先々週土曜日の夕方、電車の中で見かけた先輩後輩がオイシかったです」

「詳しく」

「先輩は女の子。性格はツンツン。お団子で赤チェックのプリーツスカート、ピンヒールのブーツ」


 ん? どっかで聞いたことないかそれ。

 お茶を淹れながら、俺はその先輩の女の子とされる特徴に思い当たる節を見つける。特徴がなっちさん過ぎないか。で、なっちさんと結びつけられる後輩と言や。


「後輩はわんこ系。人懐こい大型犬的な。黒いパーカーで、体格は結構良かったかな。顔も結構良かったし。先輩に対する敬語がすごいの」


 はい確定キター。思いっきり野坂じゃねーか。うん、まあなあ。なっちさんと野坂、と言うか野坂はこっちが見ててもそりゃあいじらしいって言うか何だかなーっていうアレだからそりゃそっちの人が見てもそうなりますよねー。


「電車の中でうとうとして揺れてたわんこ君を、あっカズさんスミマセン、ちょっと私の隣でうとうとしてもらえますか?」

「こう?」

「そうです。それで、先輩がこう、ぐいって引き寄せて自分の肩にもたれさせてたの! そしてそのわんこ君を見守る先輩の目が! 目が!」

「バルス!」

「慧梨夏それやるにはちょっとおせーよ」


 バルスと言や、愛の伝道師サマはなっちさんと野坂がそんないちゃつき方をしながらきたと聞いたらどんなリアクションすんのかねえ。野坂が遅刻しなかったことで現地は揺れたって聞いたけど。えっ俺? 遅刻したのでその現場にはいなかったです。


「ねえカズ、カズもいつかの土曜日花栄で飲み会だったっでしょー? そんな子いなかったのねえカズー」

「さ、さあ。土曜の花栄で飲み会なんざ星の数ほどやってるじゃんな」

「そうだよねー」


 野坂、お前俺に感謝しろよ。俺はお前を売らねーでやる。売られたが最後、お前となっちさんが現地でやってたことの一部始終がコピー本になって冬のコミフェかコミティカかそうさくこううんきか知らないけど頒布される運命だったぞ。

 ちなみに飲み会の現場でのなっちさんと野坂は、ほろ酔いになったなっちさんが野坂の腕を取りながら焼き肉をうまうましてたっていう、ほっこりするヤツ。2人の世界になってて誰も立ち入れなかったっていうな。

 野坂がなっちさんに片想いをしてるっていうのはインターフェイスの常識だから、現場の全員が「野坂生きろ」とか「頑張れ」って思ってたんだぜ。高ピーすら「いい加減決めちまえばいいのにな」って言う始末だぜ! 高ピーが言う意味はデカい。


「でもあの子たち本当に可愛かったー。先輩さんて絶対わんこ君のこと直接褒めないし、わんこ君は何があっても先輩さんについてく感じの子なんだよ、忠犬、そう忠犬!」


 だいたいあってる。

 でも、アヤさんが見た物がマジだとしたら、野坂はもう一押しすりゃイケるんじゃないかって、そう思っちまうんだよな。仮に後輩の面倒を見る先輩のしたことだとしても、うとうとしてるのを引き寄せるってそう出来ないぜ。


「それはそうと、アヤちゃんの先輩さんは見つかった?」

「……たまちゃん、それ聞く…?」

「ああ、やっぱダメなんだ」

「やっぱって言わないで! あーもー先輩どこにいるのー!」

「やっぱりさ、手がかりがないとさあ」

「言ったら運命じゃなくなるからいくらたまちゃんでもダメ」

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