勇士様のチュートリアル
「あっ、おはよー。高崎と買い物するなんて変な感じー」
「何で大石が」
「今日はちーちゃんがいないと始まらないの」
今日は、伊東に誘われて企業様のファミリーセールというヤツに来ることになった。何か、俺の好きなブランドの製品もあるとかで。ただ、目の前に現れた大石が謎で仕方ない。しかも、コイツがいないと始まらないとか。
「ちーちゃんありがとねー」
「ううん、俺でよかったらいつでもー」
「伊東、話が見えてこねえぞ」
「セール自体は俺も会員登録したから会場に入れるんだけど、ちーちゃんは関連企業でバイトしてるからさらに社割が利くんだよ」
「なるほど。大石を利用してるってワケか。お前もいいのかよ、利用するために連れてこられて」
「元々来る予定だったもん。それに、売り上げが上がるのはいいことだと思うな」
大石の話に納得しつつ会場の中に入ると、人、人、人。不織布の買い物バッグを持ち、ブランドのロゴマークの入った幟を目印に歩くことになる。まず目に付いたのは水着のコーナー。つかこんな季節に水着なんか誰が買うんだよ。
「冬だからアウターとかは早く見ないとなくなっちゃうかも。高崎、好きなブランド右の奥にあるけど、先回る?」
「ああ、そうだな」
大石に連れられるままにブランドのコーナーに向かえば、やはり会社のメインブランドだからか製品に群がる人が多い。こりゃ俺もうかうかしてたらダメだな。今回の軍資金は5万。多少ならムチャできる。
「高崎、検討したい物は袋に入れてから考えて。後から来ようって思ってたらもう無いから」
「お、おう」
「高ピー、ここでのちーちゃんは歴戦の勇士だから」
「違いねえな。シミュゲーの上級職ポジかよ」
「あっ、この帽子かわいー」
「なるほど、ああやるのか」
石川の話があるから大石は頼りないとか無能というイメージが強い。だけどどうだ。上級職大石の頼れること。俺が手に取った製品の情報をさっと脳内から取り出して、解説を入れてくれるのだ。検討の参考になる。
後でちゃんと考えることにして袋の中に入れたのはダウンベストにブーツ、帽子にパーカーだ。セール用の値札からさらに2割引されると言うのだから、社割ってすげえ。まだ余裕がある。
伊東は別のブランド見てくるねーと行ってしまった。複数回来れば歩けるようになるのだろう。俺も後で別のブランドを見てみよう。もしかしたら出会いがあるかもしれない。バイクブランドとかも気になるし。
「あっ、高崎高崎!」
「あ? どうした」
「このカバンいいヤツだよ! すっごい売れ筋のカバンの旧色! 今プレミアとかついてんじゃないかなあ!」
そう言って大石が持ってきたのは、長方形状のカバンで、リュックのように背負う製品だ。俺も直営店で見たことがある。高くて手は出さなかったが。売れ筋と言うように、この形が基本となった派生の製品もいくらかあるらしい。
「おっ、いい色だな。雨にも強そうだし」
「あ、そっか。高崎バイクだからカバンは水はじく方がいいもんね」
「これ、いくらだ?」
「15000円が7000円、からの2割で」
「5600円か。買いじゃねえか。大石、サンキュ」
やっぱり、何回も来ていると、文字通りの掘り出し物を見つけることが出来るのだろう。ワゴンの奥底にはいい物が眠っていることもあるらしい。
「ねーねーちーちゃん! 見て見て! ハンガーゲット!」
「あっすごいねカズ!」
「めっちゃ嬉しいんだけど! ハンガーめっちゃ入れちゃったよ袋にー」
どうやら、別行動をしていた伊東もいい物に出会っていたようだ。何でも、直営店で使っていた白木のハンガーらしい。普通のハンガーの他に、パンツハンガーもあってそれが1本100円。ちなみに、大石の社割で80円。
「何か俺今日はハンガーで大勝利だよね。あっ高ピー何かいいのあった?」
「大石にカバン見つけてもらった」
「おー、さすがちーちゃん」
「高崎、大体要領はわかったよね」
「ああ」
「そしたら、俺もそろそろ本気出していい? 水着とか見たいし」
ここからがちーちゃんのスタートだから。そう言って伊東は自分と行動を共にすることを勧めてきた。はぐれても面倒だし、最終的な待ち合わせ場所だけを決めて。
「あっ伊東、バイクブランドってどこだ?」
「えーっと、あっち!」
「おい、幟立ってんの逆方向じゃねえか」
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