心を灯すシガーアンドリカー

「たららららん、ららん、たららららん、ららん」


 メニュー表を見ながら歌なんて歌う姿に、その場にいた全員が呆気に取られていた。だって、そんなイメージないから。確かにビールのCMで使われてる曲ではある。ヱビスね。でもさあ、ねえ。


「意外と言うか、何と言うか。タカティ、高崎サンて実はいつもこんな?」

「いえ、ないですよ。俺も正直怖いです」

「高崎クンが鼻歌って言うか、こんな歌い方するなんて~、これは議長サン呼んできて原因を掴まなきゃデショデショ~」


 今日はいつものように洋平がバイトしてる“玄”で飲んでる。インターフェイスの飲み会で意気投合した高崎サンと、実はこの近所に住んでるらしいタカティがゲスト。星ヶ丘からはアタシと朝霞サン。あと店員の洋平。

 だけど、高崎サンが歌なんて歌いながらメニュー表を見る姿に、呆気の次に来るのは恐怖だ。中途半端に高崎サンを知ってると、「上機嫌」という言葉には縁遠いと思ってしまう。厳しさが最初のイメージとして来るから。


「つばめ、何が美味いんだ」

「久々なら無難に5種盛りとかから始めるといーよ。高崎サンタレ派? 塩派?」

「戸田、お前他校の先輩にもその喋り方してんのか」

「あーもー相変わらずうっさいなあ朝霞サンは。はーやかましい」

「何だと」

「朝霞、コイツこないだお前がいないと寂しい的なこと言ってたぞ」

「ちょっ、高崎サン捏造すんな!」

「ほほーう、そうかそうか。戸田、最初の5種は出してやる」

「朝霞サンゴチです!」


 全員分の最初の5種盛りが調子に乗った朝霞サン持ちになったところで、最初のオーダーを取っていく。タカティ以外の全員がとりあえずビール。タカティは洋平に茶色系のお酒はありますかって聞いてたけど、まさかウィスキーなのか。

 待っている間、高崎サンはメニュー表を見ながら朝霞サンに師事を仰いでいた。何が美味しいのか、洋平は何かコツみたいなことを言っているのかと。前に来たときは友達と一緒だったらしい。適当に頼んで食べてたけどオススメがあるなら、と。

 朝霞サンはだし巻き卵とじゃこたまごかけご飯を勧めた。メインの串とか鶏肉系の料理じゃなくてまさかの卵攻め。だけど、夏に来たときに洋平からもそれらを勧められたとか。って言うか洋平絶対朝霞サンの意見参考にして勧めてるっしょ。


「つか、夏に来たときに山口が俺の周りで好評とか言ってたけど、お前に好評、みたいなことか。てっきりイジられてんのかと思ったけど」

「何イジりかは察するけど、圭斗曰く卵好きなところとかが似てるらしいから、山口にその意図はなかったはずだとは言っとく。でもそういうのを抜きにしてだし巻きは食べといた方がいい」

「そうか。山口、だし巻き頼む」

「は~い」

「高木君、何か気になるのある?」

「あっはい、チキン南蛮が気になります。あと、このハーフって?」

「ハーフはそのまんま、量が半分になってる」

「朝霞サンが少しずつたくさん種類を食べたい人だからって裏メニュー的に始めたら意外にみんなに好評で表メニューになったみたいなことだよ」


 チキン南蛮はみんな食べたかったようで、ハーフじゃなくて普通の量を頼む。しかしまあお酒が進んでやめられない止まらない。変なメンツの飲みだろうと楽しければ問題ないのだ。

 高崎サンが意外に単純でとっつきやすいとか、おとなしそうなタカティが意外に腹黒いだとか、そんなようなことは話してみないとわからないなと思った。多分、逆も然りだろう。向こうからどう思われたかというようなことも。


「はい、だし巻きお待ちで~す」

「おっ、サンキュ」

「こないだね、議長サンと松岡クンにも食べてもらって~好評だったから俺今絶好調なんだよ~」

「それはよかったな」

「あっそうだ高崎クン、IF3年会やりたいね~。やらない? 俺幹事やるし~」

「お前が幹事やるなら好きにすりゃいいんじゃねえのか」

「じゃあやろやろ~」


 洋平は相変わらず洋平だし。そして、だし巻き卵を一口含んだ高崎サンの顔がまあわかりやすい。


「高崎先輩、もしかして「だし巻きうまー」ですか」

「これは文句なしに「だし巻きうまー」だな」


 そして高崎サンはケータイを取り出して、だし巻き卵を写真に納めた。そして作るメールは。

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