懐の有効活用術

「あ~、さむい~」


 風が吹くと寒いなって思う感じになってきた。俺の地元と比べると向島は暖かいらしいけど、それでも冬に近付くと寒い物は寒い。センターの事務所は暖房がついているだろうからきっと楽園。さーて、バイトだーっと。


「おはよーございますー」

「来たか川北」

「……さむっ! 林原さーん、暖房ついてないんですかー?」

「今朝、空調が故障したそうでな。冷房や送風は機能するが暖房にならんのだ。業者は明日来るそうだから、今日は我慢してくれ」

「えー、事務所はぽかぽかしてると思ったのにー」


 よりによって暖房を欲したこのタイミングでまさかの故障。まあ、真冬じゃなくてよかったんだろうけど、今日は今日で寒いんだよなあ。うー、風邪ひいたらどうしよう。寒いし早くジャンパー着なきゃ。

 ジャンパーを羽織って、お茶を淹れる。今日の俺はA番だから、寒いと思えばお茶に手を伸ばせるのが救いかな。あっでも暖房の壊れていない自習室に居られる方がよかったのか。

 俺と林原さんの前にシフトに入っていたみんなも寒くて動く気力が削がれているのか、まだ事務所でだべっている。一応時給はもう発生してないからセーフということらしいけど。


「春山さんは北辰出身ですし、北の大地に比べればこれくらい余裕ですよねー、いいなー」

「いくら北辰出身でも寒い物は寒い。ここで私は考えた。冴、ちょっとこっち来い」

「へーい」

「これを、こうして、こうだ!」

「わ、わーっ!」


 春山さんがおもむろに腕まくりをしたかと思えば、勢いよく腕を冴さんの胸元に突き刺している。ちょうど腕をおっぱいで挟み込むような感じで。


「冴パイ並びに谷間の有効活用だ! あったかくて幸せになれる! これで世界は平和だ!」

「春山さん、天才ですか!? わっ、冴ちゃん俺も俺も!」

「順番スよ」

「はっ…! リン、チュッパ1本くれ。で、腕を下から突っ込んだまま~……冴、このチュッパ舐めていいぞ」

「さすが春山さん、オッサンすわァー」


 それを冴さんが受け入れちゃう人だからな~……。春山さんも烏丸さんも、我先にと冴さんのおっぱいで暖を取り始めちゃうから。烏丸さんに至っては腕を挟むだけじゃ足りなかったのかおっぱいに顔を埋め始めるし!


「冴ちゃんのおっぱいを知っちゃったらカナコちゃんのじゃ美しすぎて満足出来ないよね」

「そもそも、私の体は先輩に捧げた物ですから!」

「先輩って三次元に存在するの?」

「します!」

「カナコちゃんのおっぱいがダメってワケじゃないんだよ? 冴ちゃんが完璧すぎるだけでさ」

「冴ちゃんにおっぱいで勝とうと思ってないので大丈夫です。バストアップ術があるなら教えて欲しいくらいで」

「自分、のびのび育っただけスから特に術的なモノはナイすわ」

「ミドリ! ミドリも来なよ、あったかいよ!」

「あ、えーと、俺は結構ですっ!」


 気付いたら林原さんは逃げてるし! B番の強みってヤツかこれが! 烏丸さんは冴さんのおっぱいを触りながらカナコさんのおっぱいを透視しようとしてるし、何かもうおっぱいソムリエでも目指してるのかなって!


「冴ちゃん、今度寒い日一緒に寝ない? 冴ちゃんあったかいし気持ちいいし」

「いースよ」

「確か、寒いときって裸であっため合うんだよね」

「――ってそれは遭難した時の話ですからー!」

「えっ、違うの? 前に冴ちゃん後ろにカナコちゃんのおっぱいで挟まれながら寝られれば最高なんだけどなあ」

「私の体は先輩に捧げた物なので使用不可です!」

「――ってそうじゃないですよねカナコさん!」


 気付いたら春山さんもいなくなってる! この状況を俺にどうしろと! って言うか皆さんもう勤務時間外なんですからあったかいお部屋に帰ったらいいんじゃないですかね! 助けて林原さーん!

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