新米マイムマイム

「タカティ、ごはん好きだよねー」

「うん、好きだよ。どうしたのハナちゃん」

「あのね、お米あげるー」

「えっ、なんで?」


 ハナちゃんがタカシに結構な大きさの袋を手渡している。話の内容からしてお米だろうけど、どうしてそうなっているのかはその話の聞こえていた全員が疑問に思うところ。


「あのね、実家から新米送ってきたんだけど、ハナの主食パンだしそんなには食べないかなーって。食べるけど、量が多すぎてしょぼんなんだよ。これだけ分けてもまだまだあって」

「ああ、ハナちゃん緑風だもんね。新米の季節なんだね」

「新米は古くならないうちに食べた方がいいし、タカティならごはん好きかなと思って」

「え、嬉しいけど、本当にこんなにもらっちゃっていいの?」

「うん、もらってもらってー!」

「ありがとう。うわー、嬉しいなあ」


 ずっしりとした袋を受け取ってタカシはそれはもう嬉しそうにしている。お前そんな笑顔も出来るんだな、そう思ってしまうほどにはこれまでに見たことのない表情だ。

 このやり取りを見ていて、そんな顔が出来るんだと思うのがもうひとり。さっきから視線が無意識にタカシの米袋に向いている高ピー。いいなあ、羨ましいなあ。珍しくそんな顔をしている。


「高ピー。……高ピー!」

「あっ、おう」

「炊き立ての新米は美味しいだろうね」

「不味い理由はねえな」


 高ピーも何となくパン食のイメージが強いけど、ご飯もそれなりに食べるそうだ。それでなくたって新米なんて美味しいに決まってるし。真っ白く輝くお米をそのまま大きく頬張りたい。


「あの、高崎先輩伊東先輩、それなら俺がもらったのを分配しますか?」

「え、タカシ悪いって」

「そうだよタカティ! 先輩たちにはまだうちにある分からあげるしタカティはちゃんと食べて! ねえ果林先輩!」

「うん、タカちゃんはちゃんと食べなきゃダメ」

「あ、はいすいません」

「――というワケなんで高崎先輩カズ先輩、お米はまだあるんで欲しかったらハナの部屋に取りに来てください」


 さっそく今日のサークル後にハナちゃんの部屋に行くことが決まった。普段行かない方角だけど、高ピーも一緒だから最終的にはちゃんと自分の部屋に帰れるだろう。……と思いたい。

 まあ、タカシから食糧を分け与えられるというのも申し訳ないと言うか、罪悪感がデカい。タカシは人と分けることを考える前に、自分が食べる分をしっかりと確保するべきだ。


「うーん、せっかくの新米だし、ご飯に合うおかずか。何にしようかな」

「飯のおともを想像するだけで茶碗3杯はいける」

「せっかくの新米だし、慧梨夏と姉ちゃんにも食べさせてあげたいなあ」

「浅浦はいいのか」

「何でアイツが出てくんの高ピー、慧梨夏に毒され過ぎでしょ」


 せっかくいいお米をもらっても、炊き方が悪ければしょぼんな炊きあがりになってしまう。だからお米をもらって、炊く前にやることは美味しいご飯の炊き方を調べることだ。

 お米の種類やいつとれたかによって炊き方だって変わって来るに違いない。その品種、とれた時期、水温などなど、今の季節に応じたそれぞれのベストを調べて最高のご飯を炊き上げたい。


「どうしようハナちゃん、お鍋かな、それとも土鍋で1回練習すべきかな、それとも炊飯器買った方がいい? 何万するかな炊飯器って」

「あの、カズ先輩普通の今ある炊飯器でいいと思いますよ、しょぼーん」

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