生きろ、衝動

「ひいいいい」

「は~、すっごい迫力。さすが実苑」

「頑張りました」


 部室に所狭しと並ぶ造形作品は、実苑の力作。針金のベースにスチロールや紙粘土を付けて付けて、削って削って作った想像の生物。本当は石膏やなんかを使ってもっとしっかりとやりたかったけど、今回は量を取ったらしい。

 実苑は前々から食虫生物やちょっとグロテスクな植物について調べていたけど、それをモチーフにした架空の生物をデザインして、実際に作り上げるというのはなかなか出来るコトじゃない。それが何体もある。いつの間にやってたんだという印象が強い。

 実苑の作品の出来に関しては、その善し悪しがマミさんの反応でわかる。実苑の作るものは総じてマミさんの苦手なジャンルであることが多い。ヘビとか。マミさんがこれだけ震えているということは、出来がいいということ。


「唯香さんの写真も、結構たくさん集まりましたね」

「もう、隙あらば出歩きまくりよ」


 美術部では学祭に向けた展示の追い込みが瀬戸際。展示は8号館の小教室を2部屋貸し切って行うことになっている。実苑は造形を、アタシは写真を、マミさんは油絵を展示することになっている。

 教室をちゃんと借り切れるのは学祭の前日、準備時間。つまり今日だけど、今はまだ早い。出来上がった作品が所狭しと部室を圧迫していて、座る場所を探すのにも一苦労。アタシはその点写真だからあまり場所をとらないんだけど。


「でも、実苑の見てたらアタシも空間って言うか立体やりたくなってきたな」

「やればいいと思いますよ」

「今からじゃ間に合わないっつーの」

「そんなことはないと思います。衝動のままに針金を曲げたりつなげたりするだけでも十分作品として成立すると思います」

「針金なあ。天井使えるかな」

「さすがに天井を使う人はいなかったと思いますよ。聞いてみてはどうでしょうか」

「そうだな。まずは美和さんに聞いてみるか」


 学祭まで日はないというのに、立体への衝動は燃え盛るばかりだ。天井から吊り下げるタイプの作品を作ることは出来るのか。そうなると、保管場所だとか、そういったことも問題になる。

 部長会に出ていた美和さんが忙しなく部室に戻ってきた。お偉いさんともなると大学祭の前に自分のことをするということはほぼほぼ無理なのだと察する。はー、アタシは3年になっても部長にはなりたくないな。


「あ、美和さん」

「安曇野、お前出版さんの表紙はどうした」

「えっ、今月アタシじゃないですよ!」

「すみません、僕です」

「浦和か。出来てるのか」

「はい。これがそうです」

「よし。これを詠斗に渡して、それから大祭実行と打ち合わせて、それから」


 うわー、忙しそ~……これ下手に声かけたら怒られるヤツだし! まあでも作品が出来てなくたって、独断で変なことをしたって怒られるんだから聞いて怒られるか! はあ怖い!


「あの、美和さん展示のことなんですけど」

「どうした」

「今から作品増やしていいですか? 衝動的に立体やりたくなったんですけど、天井使っていいですか?」

「いいけど、間に合うんだろうな」

「大丈夫です。学祭前の準備時間にちょちょっとやるんで」


 あれっ、意外に普通だったな。変に構えて損したし!


「それなら学祭当日の公開制作という体でやればいい。ライブペインティングじゃないけど、そんな感じで」

「ええ!? うわ~、めんどく」

「やるのか、やらないのか。お前の立体への衝動はその程度か」

「わかりましたやりますよ!」


 ああ忙しいと美和さんはまた部室を出て行ってしまった。軽い気持ちで言っただけだったのに、ライブ制作とか大がかりなことになっちゃったし。まあでも、案を練るだけなら今からでも出来る。やるかー。


「唯香さん、応援してますよ」

「実苑、針金の特性教えろし」

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