さいごまでうらない

「暑い、寒い、暑い、寒い」

「菜月さん、何をしているんだい?」

「花占いならぬ、トランプ占いだな。暑い、寒い、あーっ、暑い!」


 菜月さんが、暑い寒いと呟きながら、カードを1枚ずつ置いている。ジョーカーが出た方の陽気になるでしょう、という占いをしているようだ。どうして気温のことを気にしているのかと言えば、大学祭が迫っているから。

 僕たちMMPは大学祭で中華スープを出すことになっている。だけど、何もしなくたって売れるメニューならともかく、スープというメニューはその日の気温などに売り上げがとても左右されてしまうものだ。赤字は出したくない。その一心で。


「菜月さん、天気予報を調べればいいんじゃないかい?」

「最後の最後まで寒くなる可能性に賭けたい」

「確かに、寒い方が売り上げは上がるだろうからね。だけど、僕たちはそこまでガツガツ商売をするつもりもないし、寒くなりすぎても困るんだよ、主に僕が」

「とは言え、暑いと赤字になるじゃないか」


 寒い方が売り上げは上がる。そして、早々に売り切ってしまえばあとは閉めたテントの中に引きこもって大貧民でもしていればいいじゃないか、と菜月さんは占いを続けた。


「それでなくたって今年は野菜が高いんだ」

「それはそうだね」

「もやしと玉ねぎ、ニンジンがこれ以上高くなりませんように」


 そう言って菜月さんは高い、安いと再びトランプ占いを始めてしまった。占いが好きな辺り、菜月さんにも可愛らしい一面があるものだなと感心したりもする。

 スープは1杯100円で売ることに決まっている。儲けのことを考えると、やっぱり野菜が安いに越したことはない。なんなら、僕も今から野菜を極限まで薄く切る技術を身につけようか。


「最悪、具なしのスープを50円くらいで売れないかな」

「容器代が高くつくからやめないかい?」

「あー、容器は確かに。お椀じゃなくて紙コップとかにしよう」

「テントにこもって大貧民をするんだろう?」

「MMP杯争奪大貧民大会はやるけど、それは天候と状況を見ながらじゃないか」


 と言うかMMP杯争奪大貧民大会っていうのは一体いつの間にそんな大事になったのかと。商品が出るわけでもないだろうに。いや、その辺は状況を見ながら誰かがどこかのブースで何かを買って来るハメにはなるかもしれないけれど。

 この占いからわかるのは、菜月さんが大学祭を楽しみにしているということだ。いや、大学祭を楽しみにしていると言うよりは、テントの中にこもっていつもここでやっているのと同じようにうだうだとやるのを楽しみにしているのかもしれない。


「どうなるかな、大学祭が終わったら」

「そんなことは、どうもこうもしないだろ。うちらは隠居だし、これからは2年生が好き勝手にラブ&ピースで回すだろ」

「久々に、缶蹴りでもどうだい?」

「おっ、いいな」

「定例会でちょっと話に上がってたんだ、緑ヶ丘と合同で何かやらないかみたいな話は。緑ヶ丘は例によって飲みベースで話を進めてこようとしてるみたいだけど、目には目を歯には歯をだね」

「飲み会と缶蹴りを同列に語るのもどうかと思うけどな」


 菜月さんが乗り気なら、水面下でこの話を進めさせてもらうことにしよう。定例会にウチの2年生は誰も出ていないのだから、バレる心配はほぼほぼない。

 最後の最後に僕たちは何を置いてこれるのか、ぶちかますことが出来るのか。僕たちの背中に何を見るかは、2年生に任せよう。


「材料の買い出しにはいつ行くんだ?」

「前日の夜だね。それに備えて僕の部屋の冷蔵庫が限りなく空に近い」

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