魔法の粉を振りかけて

「ねえカズ、これ何かに使えるかなあ」

「ん、おからパウダー?」

「あのね、アヤちゃんがスープに入れたりスムージーに入れたりしていろいろ使ってるんだって。栄養あるらしいし、おなかの中で膨らむから食べ過ぎも防げるし、美肌にもいいんだって! カズ、学祭に向けてお肌整えなきゃでしょ?」

「――って、俺がかーい!」


 突然慧梨夏がおからパウダーなる物を持ってきたから何かと思えば。自分のカロリー管理じゃなくて俺の美肌形成のことを気にしてどーすんだ。そして慧梨夏は食物繊維も豊富だからお通じよくなるって、などと効能をうきうきで解説している。

 ただ、慧梨夏のオン友であるアヤさんと言えばすれ違う人がみんな振り向くほどの絶世の美人だ。好みか否かはともかく、水着のプロポーションはマジヤバかった。そんな美人のアヤさんが体にいいって言うんだから、本当にいいような気がする。


「よし、いっちょやってみっか!」

「さぁっすがカズ! いよっ! 良妻賢母!」

「……良妻賢母は何か違くないか」

「まあまあ、その辺はご愛敬ということで」


 そして、まずはインターネットでおからパウダーを使った料理のレシピを調べてみる。なるほど、お菓子作りにも使えるのか。とろみのあるスープに入れるとさらにとろりとして美味しいとな。ふむふむ。

 慧梨夏が言うには、アヤさんのおすすめが市販のジャガイモスープにおからパウダーを入れるとポテトサラダとかやわめのマッシュポテトみたくなって、ご飯を作るのが面倒な時でも手軽だし満腹感が得られていいらしい。味も美味いと。

 あんな美人がそんなずぼら料理で満足してしまうということは、よほど美味いのだろう。つかアヤさんはチョップドサラダをローストビーフと一緒にノンオイルドレッシングとかで優雅に食べてそうなイメージだ。


「ちょうどジャガイモレシピ研究してたし、ちょっとこれでかさ増ししてコロッケ作ってみるか。多分普通にジャガイモオンリーで作るよりカロリー抑えられないかな」

「スープは?」

「スープも作る」

「何かもうさすがすぎる。でもさあ、カロリー抑えても美味しすぎたら食べ過ぎちゃうじゃん」

「それはどうにもならないな」


 そう言えば、普段あまりおからって食べないなということに気付く。スーパーでたまにお総菜の卯の花をみることはあるけど、なかなか手を出したこともなく。だけど、パウダーなら何となくハードルが低い。水で戻せば生のおからにもなるし。

 おからだけあって栄養価も高い。大豆パねえ。俺の美肌にもさぞよかろう。そして慧梨夏は大豆イソフラボンがどうたらこうたらで、女性にはうれしいナントカカントカ、などとネットの記事を音読している。女装の助けにでもなるのかね。


「つか、これだけ入っていくらだったんだこれ」

「200グラムが一袋347円だったかなー、そんな高くはなかった」

「へえ、結構安いんだな」

「何を隠そうアヤちゃんの倹約術の一つでもあるからね、これ」

「やめろ慧梨夏、夢が崩れる」


 俺の中でアヤさんは金には困ってなくて、夜はアロマキャンドルを浮かべた風呂で半身浴とかして、トレンドには敏感で、っていうイメージがある。倹約術という、そんな生活とは対極にある言葉は聞きたくない。


「アヤちゃん基本お金ないんだよ。先輩探すのに忙しいし、資料と称していろいろ買い漁るし、何よりコスプレやってると衣装代がね」

「ああうん、そうだった。アヤさんコスプレの人だったなそういや」

「だから誕生日にはおからパウダーを差し入れてあげようと思って。うちパンプキンパイ作ってもらったし。アヤちゃん比でお金かかってると思うんだよあれ」

「……慧梨夏、作りすぎたらアヤさんにも来てもらいなさい」

「カズ、子どもにご飯食べさす親御さんみたくなってるよ」

「でもお前もアヤさんに食わしてもらったんだろ」

「わかった、聞いてみるよ」


 女装ミスコンに備えてアヤさんから美容に関して聞けることは聞いてみたいというのもある。なんだかんだしっかりやる気だからなんだかなーって感じだけど。とりあえず、ジャガイモレシピとおからパウダーの使い道をもう少し考えてみよう。

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