darn serious

「お姉さんね、思うんだ。菜月さんのタイプが真面目な男なのって、元々の性格もそうなんだと思うけど、半分くらい圭斗さんの所為だと思うんだ」


 お馴染み3・4年生の食事会。僕と菜月さんと、村井サンと麻里さんという愉快なメンバーが揃っている。いつものように恋愛談義に花を咲かせていると、麻里さんが唐突に思い付かれたようで。

 しかし、どうして菜月さんの男のタイプに僕が関わってくるのかは謎で仕方ないね。僕が菜月さんにどうこうしたということは全くないと思うのだけど。心当たりがなさすぎる。


「ええと、麻里さんそれはどういうことですか?」

「菜月さんは圭斗さんの愛の言葉に対して軽さを感じてるんだよ」

「僕はいつだって真剣ですが。それに、菜月さんに愛の言葉を囁いたことはありません」


 菜月さんは、いつもなら話を聞きながらうまーともぐもぐするだけに留まるけど、いつになく自分の話題だからか今日はかなり挙動不審だ。カルボナーラが渦を巻いている。


「圭斗から愛の言葉を囁かれるとか気持ち悪いぞ。夢に見そうだ」

「ん、夢に見るほど僕を想ってくれるのかい? 光栄だよ」

「それ! そーゆーのをポンポン出せるところ!」

「あー、なるほどな。圭斗のネタ振りと器用すぎるところが菜月の恋愛に対するベクトルを逆に向かわせてんじゃないかって麻里は言いたいワケだな」

「そゆこと。ナイスマーさん」


 もちろん、菜月さん本人も先輩方も僕の口から吐かれる菜月さんに対するそれがネタ振りであるというのはわかっていて、暗黙の了解ではあるのだけれど。キャラ付けというヤツだね。

 でも、確かに菜月さんの恋愛のベクトルと聞いて思い浮かぶ顔に僕の吐く台詞を同じように言わせてみると、まあ、気持ち悪い以外にはないね。とりあえず、緑ヶ丘に向かって心で土下座しよう。


「もちろんそれだけじゃないけどね。菜月のタイプも案外分かりやすいし」

「うう~……麻里さん勘弁してください……」


 カタンとフォークを置き、手で顔を覆うようにしてイヤイヤのポーズを地でやってのける菜月さんだ。攻められ慣れてないのがよくわかるね。ウブなところがとてもかわいい。


「菜月さんかわいい」

「かわいいなあ菜月は。おじちゃん感激だよ」

「菜月さんのこういう愛らしいところは僕が独占していたかったのですが、先輩方なら仕方ありませんね」

「圭斗お前、今日はとことんその方向性で行くのか」

「今のは前にも言ってるのでノーカウントですよ」

「だから圭斗、お前は悪質だって言うんだ!」


 恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にして取り乱す菜月さんもまたかわいらしい。ここまで来ると、汚れきった僕たち3人には菜月さんが何をしてもかわいく見えるのだ。


「でも、こういう地の菜月さんを見たらオチる男もいるだろうにね」

「そこにたどり着くまでの過程がいいんじゃないですか。恥じらいつつもその身を委ね、心も溶けて混ざり合うまで。男としては全てを暴く難しさとやりがいを感じますね」

「圭斗さんハレンチ」

「圭斗お前、菜月でそのシミュレーションは許さないぞ」

「……コホン。僕がそういう風に菜月さんを見ているというワケではなく」


 僕は本当にそういうつもりで言ったのではなかったけど、ムラマリさんの過大解釈のおかげでそういう風になってしまったのは残念で仕方ない。

 挙げ句、菜月さんは圭斗がイジメると麻里さんに泣きつく。こうなるとお叱りを受けるのは僕だ。仕方ない、これはこれで僕の地なんだ。菜月さんのタイプとは対極にある、これこそが。

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