殴られば殴り返そうホトトギス

「ちょっと遅いけど、たまちゃん誕生日おめでとー!」

「ありがとー!」


 オン友のアヤちゃんがうちの誕生日を祝ってくれるとかで、部屋に招待された。外のおしゃれなカフェとかでも良かったけど、外だと思い切った話が出来ないからとアヤちゃんの部屋でささやかなオフ会。

 アヤちゃんが作ってくれたのはハロウィンがテーマのパンプキンパイ。アヤちゃん本人もセクシーな魔女の衣装に身を包んでいて、ちょっと早いけど雰囲気はかなり出てる。パンプキンパイは嬉しいよね、カズカボチャ嫌いだから作ってもらおうにもちょっと遠慮しちゃうし。


「てかアヤちゃんの部屋すごいね、本とかDVDとか。えっ、これって古き良き白黒映画だよね」

「先輩がよく見てて、その辺は私も影響を受けてるんだよ。あっ、この辺の小説たちもそう」

「さすがだねえ」


 アヤちゃんは尊敬している高校の先輩という人を追いかけて山羽から向島に出てきた。決して本人や他人からヒントを得ることなく、自分の力だけで先輩を見つけだすこと。そうでなければ運命とは呼べないという理由で彼の素性を教えてくれない。

 少しだけ教えてくれたのは、小説や演劇の原作に脚本、漫才を書き、絵まで描いてしまうというマルチな才能を発揮していたこと。その出来もかなりすごくて、命を燃やしながらひとつの作品に向き合うスタンスにアヤちゃんは今も魂を打たれている。


「ところでアヤちゃん、あれから先輩は見つかった?」

「そう、それでさ、こないだたまちゃんの彼氏さん言ってて思い出した星ヶ丘を攻めててさ今。映研の映画にエキストラで出てるんだー」

「うんうん」

「そしたらさ、先輩はいなかったんだけど!」

「いなかったんかーい!」

「そう、先輩はいなかったし先輩の書いたものでもなかったんだけど、どこかで先輩の息がかかってそうな雰囲気を感じたの! 今までよりもすっごい手応えがあって!」

「へ、へえ……よかったねえ」


 せっかくおいしいパンプキンパイの味がわかんなくなりそう。

 確かにアヤちゃんは先輩の書いた物は雰囲気でわかるって言ってるし、うちだって文体や絵柄でこの作品は誰々さんの作品かなって思うことはあるよ。でも、アヤちゃんのそれは結構オーバーと言うか、どこまでが本当なのかわかんないと言うか。

 うーん、でも強ちわかんないでもないからうちもアヤちゃんの追い求める“運命”ってヤツをちょっと引きつつも応援してるんだけど。どっちにしても、その“先輩”の名前も素性もわかんないのが共感しにくい点なのかもしれない。


「そういえば、他にも最近は大学の先輩がやってるジャズバンドの方にも顔出させてもらってて」

「へえ、ジャズ。かっこいいね!」

「私はボーカルでたまに遊びでやらせてもらってるだけなんだけど、バンドの人たちがすごくてね。学祭の中夜祭ステージに出るみたくてね。スタンダードからオリジナルまでなんでもやるし、ジャンルなんかもハイブリッドでー。ピアノさんの書いた曲が素敵で素敵で、劇中歌を書いてもらいたいって思っちゃったよね!」

「ピアノさんて男の人?」

「銀縁眼鏡の美人系で一つ結び、性格は結構ツンツン。バンドでは一人だけ3年生で、あっ、ベースさんとドラムさんは留学と一浪でピアノさんから見て2コ上の4年生なんだけどー、先輩に対してもツンツンでー、普段は白衣で黒のタートルネック」

「ごちそうさまですっ! ちきしょいアヤちゃんの周り美味すぎか…!」

「バンドの相関図書いたら、たまちゃんなら本作れる。向ソピに向けて今から書こう」

「え、なにそれ欲しい、欲しすぎるんだけど相関図」


 こんな話になるから外じゃなくて部屋が最高なんだよね。さらさらとアヤちゃんが書いていく相関図がまたおいしくておいしくて。アヤちゃんが先輩探しの旅で出かける度に、拾ったネタでうちを殴りつけてくるから後頭部がボコボコになっていくし。あーこまったなーアヤちゃんのネタが美味しくて薄い(厚い)本になっちゃうやー。


「ねえアヤちゃんベースさん性別不詳ってこれこの図なら男の人でも女の人でもおいしいってなにこれ」

「ふふふっ、私は性別知ってるけど、よく不詳って言われるみたいだしその方がたまちゃんにはおいしいと思って」

「あー、ちきしょいうちのことをわかってんなーアヤちゃんは!」

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