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「さて、夏合宿が終わって間もないですが、MMPは次の行事があるので集まってもらいました」


 夏休みも折り返し。インターフェイスの大きなイベントである夏合宿も終わり、ここからは各々が好きなように夏休みを謳歌して――と、思うだろう? ところがどっこい。先述の通り僕たちにはまだまだ行事がある。


「今月22日の秋分の日だね。向島大学のオープンキャンパスがあります。例によってそこで公開番組をやらせてもらうことになってるので、そこに向けた話し合いだね」

「圭斗、それにしては集まるのが早くない? あと1周2週先でも余裕じゃなかった?」

「三井はそれでもいいかもしれないけどね、菜月さんが実家に戻ることを考慮すると今日がオンリーにしてマスト、つまりベストだったんだよ」

「あ、そっか。ごめんごめん、すっかり忘れてた」


 僕たちMMPは、毎年オープンキャンパスの日に食堂で公開生放送をやらせてもらっている。別に学校から依頼されたわけではないけど、自主的な活動ということで。

 この番組は、各ペアにつき30分の持ち時間で大学に来た高校生たちに夢と希望と愛と平和に満ち溢れた大学生活についてトークするという主旨だ。夢と希望と愛と平和に関してはMMPの得意分野だね。


「テーマは各ペアでかぶらないように調整してもらうとして、とりあえずペア決めだね」

「あ、そうだ。一人暮らしのライフハックじゃないけど、こういう状況に陥ったらこう対処しろ、みたいな生活術ならうちの得意分野だから、男たちは別のテーマで頼む」

「ちょっと待って菜月さん、菜月さんがまともな生活を送っていたためしがどこにあるんだい? なあ三井」

「うーん、そうだね。これは圭斗に同意かも。菜月の生活は反面教師には出来るかもしれないけど、ライフハックって言われてもイマイチピンとこないよね」

「何だ、失礼な男どもだな」


 使った包丁を帰省している間ずっと水につけていたり、公共料金を滞納したりベランダにゴミを溜めたりする女子のライフハックなんか誰が参考にすると言うんだい? それこそ三井の言うように反面教師にするならともかく。

 だけど、菜月さんのトークスタイルの基本が自虐からのぶった切りだ。菜月さんだけに大丈夫だとは思うけど、リスナーをあまりドン引きさせない程度に留めることを条件に僕たち残りのアナウンサーはトークテーマを考えることに。


「ねえ圭斗、僕気付いたんだけどさ」

「ん? どうしたんだい三井」

「オープンキャンパスのトークテーマって大体いつも一人暮らしにサークル、バイト、勉強のことって来るけどさ」

「うん」

「僕とヒロに勉強のことが話せると思う?」

「うん、ヒロは無理だな! でも、三井には技術でどうにかしてもらいたいところだね。まさか僕に勉強の分野を投げる気かい?」

「だってMMPのアナで一番真面目に勉強してるのって圭斗じゃん」

「それは否定しないけど」


 まあ、現役なら野坂の次にちゃんと勉強をしてるとは胸を張って言えるだろうけどね。神崎とは同率になるかもしれないけど、それでも残りの面々に劣るとは考えにくい。

 だからと言って僕にだって得意とするトークテーマを選ばせてもらう権利はある。例えば、大学に入ってから謳歌する恋愛の話とか。そういう独自路線ならかぶらないなって思ってたのに。


「うん、トークテーマはまた個々人で考えてもらって、先にペア決めをしよう。ミキサー陣が暇を持て余してるから。菜月さん、あみだくじの準備はいいかい?」

「ああ、出来てるぞ」

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