繋がる、広がる
あれだけ慌ただしかった夏合宿も過ぎ去ってしまうのは本当に一瞬。ひとつの山を越えて、ようやく一息。今日は久し振りに直と沙都子とアタシの3人で出掛けることに。これも昨日急遽決まったこと。
特に何をするでもなくウィンドウショッピングをしたり、カフェに入ったり。特別なことは何もしないけど、余計なことを考えずにこういう時間を送ることが出来ているというのが。
「はーっ」
「啓子、お疲れだね」
「まだ諸々の庶務はあるけどやっと終わったと思って」
「Kちゃん本当にお疲れさま」
キャラメルマキアートの甘さとほろ苦さが染みる。その向かいで沙都子はカフェラテとシフォンケーキを写真に収めている。SNSにアップするのか、それとも沙都子の場合はこういうケーキの作り方を編み出してしまうのかもしれない。
「あっKちゃん直クン、先輩たち写真更新してるよ」
「見せて見せて」
ABCの人は結構な割合でSNSをやってる。誰がどのサービスを使ってるのかっていうのは目的によっても変わって来るんだろうけど、3年生の先輩たちはみんな画像共有サービスにアカウントを持っている。
沙都子が見せてくれたページには、仕事現場と思われる場所で撮ったと思われるヒメ先輩の写真。ヒメ先輩はタレントの仕事が忙しくてサークルに顔を出せないみたいだけど、アタシたちのSNSページにはコメントをくれたりしている。
「そう言えば、ボクもこないだヒメ先輩テレビで見たよ」
「えっ嘘、やってるときに教えてよ直」
「ゴメン、深夜でうとうとしてて」
次に沙都子が見せてくれたページには、美味しそうなパフェの画像。ブドウがふんだんに使われた季節のパフェ。これはアヤネ先輩が上げた写真。だけど、アヤネ先輩の場合はアタシたちがこうやってプライベートでお茶してるっていうのとは別枠。
「アヤネ先輩も忙しそうだね」
「そろそろワインの醸造も始まる頃だって。でも美味しそう。1回行ってみたいね」
「まだもう少し夏休みだし、行ってみる? 啓子、どうかな」
「いいんじゃない? 興味あるし。アヤネ先輩の家のブドウ園」
アヤネ先輩の家は地元では有名なブドウ園で、アヤネ先輩も今は家の仕事を手伝うために実家に帰っている。さっきのパフェの画像は一緒にやってるカフェで出しているもの。これからはブドウ狩りの他にワイン造りの仕事も入って来るとか。
なかなかサークルでは会えない先輩もこうやってインターネットで安否じゃないけど、元気かなって確認出来るのはいいなと思う。もちろんいいことばかりでもないとは思うけど、少なくとも今のABCにとってはいいこと。
「こないだ学祭用のケーキ試作したの上げたときに、アヤネ先輩からブドウを使ったお菓子のレシピ教えてーってコメント入ってて」
「そう言えば沙都子、最近料理の画像とレシピよく上げてるよね。前は手芸だったのに、どうしたの?」
「えっ、あっ、ちょっと。1人暮らしで、料理が得意じゃない人でも簡単に出来て、栄養も取れる体に優しい料理を考えてて」
「すごいね、栄養のバランスを考えてレシピを組み立てるのは簡単じゃないだろうに。さすが沙都子」
「アタシも何気に沙都子パッドは夕飯の参考にしてるからこれからもよろしく」
「Kちゃんはあたしに頼らなくても料理上手じゃない」
「毎日のご飯考えるのは面倒でさ」
最近のバタバタでアタシ自身そういうサイトに近況を上げることがなくなっていた。別にSNS疲れに陥っていたわけじゃないから、久々に何か上げてみようか。でもネタがないな。まさか飲みかけのマキアートを上げるワケにもいかないし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます