時代の風穴

 一言で言えば、それは衝撃だった。俺たちが夏合宿の番組に対して持っていた固定概念が最後にしてここまでぶち壊されたのかと。部屋の一番後ろから、ヒロが率いる7班の番組を見た素直な印象は「面白え」という、それ。

 夏合宿の番組は、「スキー場DJのための練習並びに選考会」としての性質があった。それは、スキー場に行ったことがある者、そしてラジオ系の大学ほどそういう意識が強く働く物なのかもしれない。

 現に、これまで聞いてきた班の番組は、基本に忠実な構成をした物がほとんどだ。果林率いる4班は菜月と高木主動の“アソビ”が目を引いたが、それでもここまでではない。実力はどうあれ、7班の番組は面白い。

 番組が終わって、対策委員の輪の中では野坂がヒロに説教をしている。お前は合宿の番組でなんてことをしてやがるのだと。それを少し離れたところで眺めている俺たち前対策委員は苦笑い。


「だってワイヤレス使ったらアカンなんて誰もゆーとらんやん!」

「だからって実際の番組で使う奴がいるか」

「果林の班だって変な構成やったやん! ツカサの班だってフリップ使っとったやん! なんでボクばっか怒られなアカンのノサカのアホ! 鬼! 自分がそーゆー楽しいコト思いつかんからってボクに当たらんといてよ!」

「すみません先輩方、7班のモニターはやりにくかったと思いますが」

「え~、これはこれで面白かったし~、こーゆー斬新なの、嫌いじゃないよ~」

「うん、楽しかったよ」

「帰ったら朝霞クンにこんなコトも出来るよって教えてあげなきゃ~」


 7班の番組がどういうものだったのかと言えば、これまでの常識では考えられない「中継」という手段を執ったのだ。利用したのは、対策委員の備品にあるワイヤレスマイク。ただ、これは今までずっと鞄の中で眠っていた物だ。

 準備の段階で“世界のシゲトラ”がやたらごそごそ準備してやがるなとは思っていたが、まさかワイヤレスを使ってくるとは。ステージの星ヶ丘らしいと言えばらしい。そして、中継に出た青敬の2年がその場にいる俺たちリスナーに話を振りまくる。


「ステージ系の大学さんには好意的に受け止められているようですが、高崎先輩から見て7班の番組はいかがでしたでしょうか」

「内容はともかく、手法としてはアリだ」

「そうですか」

「ただ、この班の場合は機材を使える鳴尾浜がいたから出来たんだろうし、俺たちが普通にやろうとしても、練習に練習を重ねねえとな」

「そうですね」

「場で見せる星ヶ丘、平面にZ軸を加える青敬っつー、ラジオ色の薄い班だからこその作品だな。みんなで同じことをしてると、学校ごとの個性もなくなる。それに、合宿に交流としての性質もあるならこういうのもいいじゃねえか。だから、あんまガミガミ言ってやるな、野坂」


 そういう考えもありますか、と野坂は納得をしたようだった。ただ、基本中の基本の構成を得意とする野坂がそれを本当の意味で受け入れるには時間がかかるだろう。まあ、こういう手法もあると知っておくだけで少し変わるかもしれない。


「高崎先輩、ボクらの番組マジパないですよね」

「手法はな。お前に言いたいことはモニター用紙に書いといたから、向島に持ち帰ってよく練習しとけ」

「ヒロめ、ざまあみろ。高崎先輩までお前を甘やかしてくれると思ったら大間違いだぞ」


 ただ、「7班のマジハンパないラジオ」はその名に違わぬ印象を植え付けたのには違いない。これからのインターフェイスをぶち破る可能性だって秘めているかもしれない。

 中継に投げっぱなしでぐだぐだなヒロの技量はともかく、こういう番組で行こうと決めて、責任を取れる決断力は案外悪くねえ。それの何がアカンの、と真正面から言えるのは時としてとんでもねえ強みだ。


「でも、向島に持ち帰っても独学でやるしかないんですよね」

「独学? 3年はどうした」

「高崎先輩、菜月先輩こそいらっしゃいますが、向島のアナウンサー育成に関してはお察し願います」

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