素材の風味を生かす腕

「じゃーん、これでどう~?」

「却下」

「え~!?」

「蛍光が目に痛い。相変わらず色と柄が喧嘩しててかちゃかちゃすぎる。そもそも、じゃらじゃらしててステージ上で動くのには邪魔だろ、それ」


 今日はステージ前の大事な準備、衣装合わせ。俺のコーディネートセンスが壊滅的だと言われることもあって、朝霞クンが俺の家で当日着る服を選んでくれる。朝霞クンのセンスは確かだし、ステージにも合わせてくれそうだから完全におまかせ。

 まずは、お前はどういうコーディネートで行くつもりなんだと俺のセンスで服を選ぶ。ただ、これが早々に大却下を食らっちゃったよね。うん、知ってた! やっぱり素直に朝霞クンにお願いしよう。


「でもさ~、夏だしハーパンがいいな~、暑いし~」

「それは一理ある。ハーパンは何着持ってるんだ」

「結構あるよ~。このドット~、可愛いでしょ。これは無地のベージュで~、こっちはデニム~、それと別にダメージデニムとか迷彩柄とか~」

「本当にいろいろあるな」

「あっでもドットがいいなー」

「わかった。じゃあこのドットのハーパンを基本に組み立てる。残りのハーパンは片付けていいぞ」


 俺の服装すら朝霞クンのステージに対するこだわりって考えたら、すごいよね~って思う。どういう場所で、どういう企画だからどういう服を着るとかあんまり考えないから。制服でもあればラクなんだろうけどね。

 ドットのハーフパンツに合いそうな服を片っ端から出していく。Tシャツやポロシャツなんかで溢れる部屋は服の海状態。朝霞クンも片付けは手伝ってくれるって言ってるからその辺は大胆にやっちゃうよね~。


「パンツがドットだから柄物は弾く」

「え~? このポロシャツ結構いいと思うんだけどな~」

「だから、柄がやかましいって何度言ったらわかるんだ。タダでさえお前は髪がウルサイのに」

「え~!? じゃあ、Tシャツにこのシャツ羽織るのは~?」

「そのドットのシャツ羽織るならハーパンはさっきのベージュだ。あと、このTシャツは主張しすぎだ」

「ムズカシいネ。じゃあさ、朝霞クンは当日何着るの?」

「俺は今着てるまんまだ。本当なら俺と合わせても変にならないようにしたい」


 朝霞クンはいつものように、ポロシャツに肩からかけたカーディガンを結んでいる。パンツは白でさわやかに。よく見る朝霞クンのスタイルってヤツ。何の文句も付けられないよね~。


「なあ山口。確かにお前は何を着てもそれなりに格好が付く。ポロシャツ1枚、Tシャツ1枚で十分それっぽい。なのにどうして余計なことをしたがるんだ。素材の味を生かせよこの馬鹿」

「そんなこと言われても~」

「きれいめもカジュアルもポップもいけるとかふざけんなよ。何でも似合うのに甘えてセンスを壊滅させてんじゃねえぞ。それとも何だ、台本書いてるときに脳内で動いてるお前が着てる服を特注すればいいのか? え?」

「あ、えっと、そこまではしなくても大丈夫デス……」


 って言うかこれは、朝霞クンに俺はかっこいいって言われてるのかなあ。実際にそう聞いたら殴られるだろうから聞けないけど。でも、俺のセンスが壊滅的だったとしても、ステージなら朝霞クンがコーディネートしてくれるならいいかなって。


「朝霞クン続き続き! 衣装選んで試着しなきゃでしょ、選んで選んで~」

「ああ。えっと、どれにするかな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る