構築される整備網
窓を開けてビールを飲むのが最高な季節を迎えつつある。冬の間は光熱費のためだったバイトが、そろそろ酒代を確保するための物になりそうだ。
ふと思う。梅雨の晴れ間は貴重だ。梅雨に入ると湿気がうぜェし布団は思うように干せねえしロクなことはない。カビの対策なんかも必要になる。
「あー、やっとかなきゃっすね。水回りにエアコン、あとクローゼット」
「エアコンとか考えたこともなかったぞ」
「ダメっすよ高崎先輩、エアコンはちゃんとメンテしとかないとどんな空気吸わされるかわかったモンじゃないっす」
それでなくてもウチのアパートのエアコンは自動清浄機能なんかついてない古いタイプなんすから、などと、掃除の話になるとやたらLががっついて来る。
ただ、考えてみるとエアコンの掃除なんかは考えたことがなかったし、実際やるとなると面倒だ。俺みてえな素人がやってちゃんと綺麗になるかっつったら疑問が残る。
それならば。目の前でオレンジジュースの封を切るこの男をどうにかして動かせないか。俺より7センチも上背があって掃除が好きで得意なLに、うちのエアコンを掃除してもらえないかと。
「なあL」
「なんすか?」
「タダでとは言わねえ。うちのエアコンも掃除してくんねえか」
「タダでとは言わないって言われても、まさか金取るワケにも……あっ、そしたら俺も高崎先輩にお願いしたいことを思いついたんで言っていいすか」
「言ってみろ」
「布団なんすけど」
「布団?」
Lが言うには、掃除は出来るが洗濯やその他の家事は別に好きでも得意でもないから布団の手入れの仕方がわからないらしい。
長くしまう冬布団に、そろそろ使い始めている夏布団。出したりしまったりするときにどうすればより心地よい布団になるのか。
そんなことは考えるがやっぱりメンテナンスが面倒で、ついつい簡単に干しただけでクローゼットに突っ込んでしまうらしい。
「その辺、寝ることに関してはプロの高崎先輩にお願い出来れば百人力っす」
「梅雨に入ると布団も思うように干せなくなるからな。本当は3時間毎に裏返して両面を日光に当てねえと干してる意味がねえ。シーツや枕カバーも週に1回以上は洗わねえといけねえし、結構な手間なんだ。洗濯は一大イベントだしな」
「えっ、洗濯?」
「普通布団をしまう前にはコインランドリーで洗って乾燥機にかけるかクリーニングに出すだろ」
「いやいやいや、干しはしますけどさすがに洗いはしなかったっす。大体布団の洗濯なんか怖くて出来ないっす」
そして漂う一瞬の沈黙。俺たちは得手不得手がはっきりし過ぎていた。つまり、この沈黙の表すところは利害の一致。
「よっしゃ、乗った。お前はエアコンの掃除、俺は布団の洗濯だな」
「布団洗濯してもらうって、普通に手間も金もかかるっすよね。エアコンだけじゃあんまりなんで換気扇と風呂場の掃除もさせてください」
「それこそ割に合わなくねえか」
「趣味も兼ねてるんすよ。俺の部屋は定期的にやってるんで、酷い汚れにはならないんす。ビックリするようなところの掃除もやりたいっすよねたまには」
「そういうことなら思う存分やってくれ」
さて、湿気の増えるこの季節。次に備えるのはどこだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます