ナノスパ＠2016 -one's routine life-

新参コミュ力マジパねえ

　初心者講習会当日。対策委員は早めに集合して打ち合わせや会場設営を行う。しばらくすると講師の先輩方も来られるし、その後から一般の参加者が。それまでに万全にしておかなくては。

「おーい、つばみー！」

　向こうからブンブンと大きく手を振ってやってくる男に、つばめがビクリと反応する。身長は165くらい、ヘアバンドをしてデコが出ている。くりくりっとした感じの目でハーフパンツがよく似合う。しかし一般参加者の集合時刻には早い。

「つばみ言うなハマ男」

「つばめ、星ヶ丘の１年か？」

「つかこんな態度の奴がウチの１年だったら即ボコるよね」

　これには対策委員全員がですよねー、の大合唱。それくらい星ヶ丘は物騒……と言う以上につばめが武闘派だ。つばめは山口先輩を殴り、三井先輩に対する応戦のイメージがあるからボコるとかシメるとか言われても誰も疑わない。

「ほら、こないだ言ってた青敬の奴」

「あー、ウワサの」

「青敬の浜田真司！　インターフェイスに出るのは初めてだけどよろしく！」

「朝霞サンの頼みじゃなかったら引き受けなかったけどさ、しゃーなしよしゃーなし」

　どうやらこの浜田真司(大体の人からハマちゃんと呼ばれているらしい)はどこかで朝霞先輩と知り合ったらしく、そのツテでインターフェイスの活動に出ることが実現したらしい。

　青浪敬愛大学はぶっちゃけ空気というか。つばめから青敬の２年生が初心者講習会に参加するという話を聞いたときは、青敬から人が出てくるのかという驚きが俺たち対策委員を包んだ。

「朝霞サンマジパねえ」

「ハマ男お前次パねえっつったらシメるぞ」

「つばみパねえ」

「言ってる意味わかってんのか」

「ハマちゃん口癖パないわ」

「そーだろ！　えーと」

「ヒロやよ。向島の佐久間ヒロ」

「マジか！　ヒロさんとカブってるけどお前はヒロ！　パねえ！」

　な、何かヒロがさっそく仲良くなってるぞ？　まあ、ヒロはコミュ力高いからな。謎に星ヶ丘の人とプライベートでも結構仲良くしてるし、何かがあるんだろうな。俺にはよくわからない！

　ヒロがきゃっきゃと話を聞いている裏で、つばめが溜め息をついている。今日に至るまでの間に一度顔合わせをしていたようだ。悪い奴ではないのはわかったけど、つばめとはちょっとノリが違ったらしい。嫌いではないけど、とのこと。

「ノサカノサカ、ハマちゃんいい子やよ、健気やよ」

「どう健気なんだ」

「長野先輩入院して人あんま来んくなったんやって青敬のサークル。せやけど長野先輩が病院で描いた絵コンテ使って作品作っとんのやって。でも同い年の友達欲しいしわいわいやりたいから朝霞先輩に紹介してもらってインターフェイスに出てきたんやよ」

「へー、そうなのか」

「長野先輩のコト尊敬しとって、先輩退院して帰ってくるまでに成長したとこ見せたいんやって。今度作っとる作品見せてもらう約束したよ」

　人は見かけや話し方によらないということはファンフェスで山口先輩のお世話になって知ってるんだけど、話を聞いていくと何かな。

　歓迎しないワケにはいかないじゃないか。悪い奴じゃないのは何となくわかったし。それに、先輩を尊敬する気持ちは俺にも痛いほどよくわかる。

「そんでハマちゃん、これが対策委員の議長やっとるノサカやよ。成績オールＳで頭堅い根暗でケチで鬼やよ。向島じゃヘンクツ詐欺師って言われとるよ」

「真司、ヒロの言う俺のことは適当にスルーしといていいから」

「オールＳマジパねえ」

「いや、だから」

「言っても向島でオールＳはマジパないからしょうがないっしょ」

「そーだろつばみ！」

「つばみ言うな」

「何はともあれみんなよろしくっす！」

　よろしくー、と話に区切りをつけて。特に俺も含めたミキサー陣は機材の準備もあるし忙しい忙しい。あれっ？　そういや一般参加者のはずの真司がどうして対策委員の集合時刻に集まってきてるんだ？

「ヒロ、その辺でハマ男の相手してて」

「つばちゃん、喋っとればええん？」

「そうそう」

「つばみが集合時刻間違えて教えるからー。朝霞サンにお礼ついでに報告しないとなー」

「うるせーハマ男シメるぞ」