満ち欠けする水無月の宴

「――というわけで、ちょっと早いけど誕生日おめでとう育ちゃんと俺! かんぱーい!」

「自分で自分を祝う音頭なんですね」

「タカシ、それは言わない約束だろ? Lがやんねーんだもんよ」

「やっぱそこは先輩が」

「お前俺と育ちゃんを祝う体だってのに自分でやるほど虚しいこたねーんだよ、空気読めよ」


 今日はMBCCのミキサー飲み。一応、名目としては伊東先輩と武藤先輩の誕生日を祝う無制限飲みという体だ。会場はL先輩の家。ミキサー飲みではあるけれど、武藤先輩が岡崎先輩を引きずってきたとかで、現在に至る。

 MBCCというサークルで行われる無制限飲みは大体の場合で高崎先輩が幹事だ。だけど、この6月上旬の飲み会に関して言えば高崎先輩はノータッチ。完全に無視を決め込んでいるらしく、伊東先輩が幹事で行われる。主賓、だよなあ。


「タカティ、どう?」

「何か普段の飲みとは違って新鮮ですね」

「絶対じゃないんだけど、アナとミキって結構飲み方が違うからね。飲み方だけで言えば俺はミキっぽいとはよく言われるよ」

「そうなんですね」


 確かにイメージとしてはアナウンサー陣の方が勢いよくガンガン大量に飲んでいて、ミキサー陣はちびちびとゆっくり、だけど淡々と大量に飲んでるイメージだ。絶対じゃないけど、確かに傾向としてはわからなくもない。


「でも、どうして今回はアナ陣が岡崎先輩だけなんですか?」

「あー……ちゃんと話すと長いし端的に言えば高崎とイクの確執だね。イクとカズの誕生日が1日違いだからまとめて~っていうのは1年の時からそうなんだけど、だからこそ高崎は6月飲みはノータッチなんだ」

「武藤先輩が絡んでるからですか」

「そうだね。それでなくてもカズの誕生日は彼女優先って一番わかってるのも高崎だし」

「そうですね」

「イクからすれば高崎がいなければ別に何でもってコト。高崎にしてもそれは同じ。まあ、酒が絡めば言うほど2人もいがみ合わないんだけどね」


 伊東先輩が作る料理はいつものようにおいしいし、酒も淡々と飲み進める。ただ、空気がいつもと違うように感じるのは、アナウンサー陣がいないことと武藤先輩の存在だろうか。如何せんレアキャラだけに。


「そうだ、はいこれお土産。適当に好きなの持ってって」

「例によって読めないね言語が」

「アタシもどれがどこで買ったヤツかあんまはっきり覚えてないけど、いいなって思って買ってきたのは確かだから持ってけ持ってけ」


 武藤先輩がドンと置いた紙袋には、物がごちゃっと詰め込まれていた。それこそ言語が読めなくて、奇抜なパッケージの物も多々。武藤先輩が旅から帰ってくると、こうやって大きな荷物を広げてお土産大会が開催されるそうだ。

 そして、部屋が暗くなったと思えば台所の方からは、ロウソクが刺さったケーキを持って伊東先輩の登場。……主賓、ですよね? それが荷物の横に置かれ、消して消してと武藤先輩を促す。


「ふーっ。あ、ロールケーキじゃん! カズこれどうしたの!?」

「作った。6月6日はロールケーキの日だし」

「さすがカズ」


 こうしている分には全然殺伐としないしかなり平和な飲みだと思う。お土産選びも楽しいし、ケーキもおいしい。いつものようにドタバタとガンガン時が進むっていう感じではないけど、これはこれで。

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