ルラレ・ルラル
西海市にあるコミュニティラジオ局、FMにしうみ。その小さなラジオ局が、私のアルバイト先。入るのは主に土日。平日は、たまに。業務は、アシスタントディレクターとしての番組制作補助だったり、実際にミキサーを触ることもある。
はじめのうちは、時間の都合が合ったからという感じで淡々と仕事をしていた。だけど、今では仕事を通じて知り合った人との関わりが、この仕事を楽しくしている。局の人だけでなく、番組を持っているパーソナリティーさんにしても、そう。
「あらー福井ちゃん、元気そうねー」
遠目から私を見つけると、カツカツとヒールの音がどんどん近付いてくる。遠くで見ても大柄なのに、近くに来るとより一層逞しい体つきを意識する。脇にある自動販売機よりも、頭が少し上にあるような気がする。
「私は、元気……ベティさんも、元気そう……」
「アタシはいつだって元気よー! 福井ちゃん今日チーク塗りたくったとか新色試したとかじゃないでしょ? 実際血色いいわー、いいことよー」
この人は週に一度、深夜枠で1時間番組を持っている女装家のベティさん。口調はこうだけど、性別は男性。口調は服装に引きずられたんだそう。西海駅前でバーを営んでいて、店は雑誌にもよく載っているし、結構な人気店。
私はスケジュールの都合でベティさんの番組を担当することになっていた。最初のうちはそれこそ事務的に番組をやっていただけだったけど、今はベティさんとは局で知り合った人の中では一番仲がいいし、信頼出来るようになっている。
それというのはきっと、趣味が合ったというのが大きいかもしれない。ベティさんはトレンドに敏感で、次に来そうな物をいち早く試したり、取り入れたりしているのだ。それは、食事だったり、化粧品だったり、様々な分野で。
実際、ベティさんと最初に交わした何でもない話もどこの化粧品を使っているのかとか、日頃の肌ケアで気をつけてることは、といった話だった。今では一緒に買い物をするほど。私とは回り方が違ってまた面白い。
「福井ちゃん、フープイヤリングが一周回ってきた感想はどう?」
「……流行に関係なく、ピアスは私の趣味だったけれど……」
「そうよねー、次よね問題は。まだそんなの付けてるのとか言われちゃたまんないわよねえ。福井ちゃんて情報を収集する割にあまり流行に踊らされないわよね。赤リップもやんなかったしスポーツミックスもやんなかったし丸眼鏡も持ってないわよね」
私は、決して踊らされないわけではない。
ファッションだと、流行る流行らないではなく、似合う似合わないを先に考えてしまってなかなか手が出せないのだ。それをどうにかするのが技量、だろうけど……取り入れないという勇気もいると思う。
「……チアシードは、取り入れてる……あと、ココナッツオイル……」
「あら、食べ物系はやってるのね」
「ゼミ室にずっといると、栄養が偏りがちで……」
「わかるわー、忙しくてもデイリーケアは怠りたくないわよね」
「ビーカーで戻すと、種と水、それぞれの分量がわかりやすくて、便利……測りもあるし……」
「確かにビーカーは便利なんでしょうけど、一般家庭にあるのはビーカーじゃなくて計量カップなんじゃないかしら」
「あ……心配しないで……もちろん、ビーカーは新品で……」
そういうことを言ってるんじゃないのよ、とベティさんに窘められる。……確かに、普段リンがビーカーで沸かしたお湯でラーメンを作っているのを見て少し引いているけど、やっていること自体は彼と何ら変わりない。
「福井ちゃん、今度グラリアに新しくオープンするインポートブランドのお店があるんだけど、一緒にどう?」
「ぜひ……」
仕事も楽しいけれど、やっぱりこういう時間が持てるのが、仕事の楽しさにも繋がっているのかもしれない……いい風に解釈するなら、そう。
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