手の平返しでサクラサク
「えー、定例会3年生の皆さんに、お知らせがあります」
ファンタジックフェスタ真っ最中、議長の圭斗から唐突に集められた定例会の3年生。こんな風に全員を集めるからには何か重大な連絡じゃないかとみんな身構える。圭斗がこうして改まって話を始めるときはいい予感があまりしない。
今のところファンフェスはもじゃの欠席というのを除いてトラブルは起きていない。そのトラブルで大きな影響があったのは、もじゃと同じ班のカオル。ずっとそわそわしてたけどさっきやっと連絡がついて、不可抗力だと納得した様子。
あっ、あと野坂が番組に間に合うかちょっと怪しかったけど、ギリセーフだった。でも、この件に関しては圭斗が爆発しかけてたな。
「圭斗、何かあった?」
「定例会3年のみんなには1人につき100円のカンパをお願いしたく思います。もちろん僕も出すよ」
もちろん、俺たちはこれに首を傾げる。何がどうしてカンパの必要が出てくるのか。1人100円ということは、集まっても精々400円。圭斗本人が100円を出したとしたって500円だ。それで何が変わるって言うんだ。
「えー!? 何でカンパ!?」
「圭斗、カンパを募るにしても事情を先に話してくれ。快く出すか、出せないかの判断基準は必要だ」
「うん、朝霞の言う通りだよ。事情がわかんないと怖いもん」
「ん、そうだね。単刀直入に言うと」
一応財布は出しているけど、それを開こうとはせずに頑なに守ろうとする俺たち。圭斗が単刀直入に語ってくれる理由とは。たかが100円かもしれないけど、収入如何じゃ100円ってそんな小さくもないしなあ。
「ゴーストライター様がタピオカミルクティーを飲みたがっているんだ」
ズコーッとそれまでの緊張感が一気に飛んでいったのと同時に、その単語を出されたら俺たちは財布の紐を緩めなきゃダメ……いや、喜んで出させていただきますというスタンスに変わるのだから、ゴーストライター様の神通力だ。
「これは出さなきゃダメなヤツだ。むしろインターフェイスの予算から出してもいいくらいだ」
「そうだろう伊東」
「圭斗、水臭ーい。100円で足りる?」
「ん、1人100円あればこの場でそれなりの謝礼は用意できるよ」
「圭斗、それを先に言ってくれればこんなに警戒しなかったぞ」
「申し訳ない」
「なっちには俺たちみんな頭が上がらないもんねー」
「本当に、それなんだよ大石君」
向島インターフェイス放送委員会には暗黙の了解としてゴーストライターの存在が挙げられる。議長の圭斗があまりに残念な筆跡をしているということで、公的な書類を代筆してくれる影がある。
そして、今回のファンフェスではそのゴーストライター様が足下のケーブル隠しのために使われる装飾を1日で作ってくれたという事情がある。それはもう、前日のやっつけ仕事とは思えない模造紙製の素晴らしい横断幕。
あっという間に圭斗の手の平には4枚の100円玉が集まる。これと圭斗本人の100円を加えて、ゴーストライター様に定例会の誠意ということでタピオカミルクティーをごちそうするのだろう。少し余る分で揚げ鯛焼きがベターかな。
「というワケで、僕はゴーストライター様の接待をしてくるよ。みんな、協力に感謝します」
それだけ言って圭斗は“接待”と称したファンフェスの会場回りに行ってしまった。なっちさんに伝われ、俺たちの謝意。
「インターフェイスを裏で牛耳ってるのはなっちの可能性が…?」
「シッ、カオルそれ定例会みんな知ってるけど敢えて言ってないヤツ」
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