育てる喜びをあなたと

「慧梨夏サン慧梨夏サン、今日は何の買い物ですかー?」

「着いてからのお楽しみー」


 とある日の練習後、1年生2人と尚ちゃんを車に乗せ、向かっているのはホームセンター。ただ、ホームセンターとはまだ言ってない。だって、着いてからのお楽しみっていう体だからね。


「何で俺もついて来させられたんですかー、義妹いもうとさんのセンスが一番正しいじゃないすかー」

「だからこそだよ。普通の人の感性を大事にするための尚ちゃんなんだから」

「俺、言うほど普通じゃないんだけどなー」


 かわいい顔をしてぶつくさと文句を言っているのが2年生の宮崎尚みやざきなお。中性的で、身長は低い。169センチのさっちゃんより低いよね。見た目はかわいいけど中身は自分のかわいさを知ってるあざとさだったり、図太かったり。それがいい。

 1年生はGREENsぐりーんずのイベントに向けた準備に慣れてもらうっていうのと、せっかくだからっていうので一緒に。尚ちゃんは一般の人担当。あ、でもくげっちは力仕事を担当してもらいたいっていうのでついて来てもらったよね。


「よし、着いた!」

「ホームセンターじゃん?」

「慧梨夏サン、日曜大工でもするんですか?」

「今からここで、美弥子サンの誕生日プレゼントを揃えます!」

「こんなとこで揃うんすか?」

「ふっふーん、揃うも揃う。義妹ならではのセンスよ!」

「そこまで決まってるなら一般の人の感性もクソも」

「尚ちゃん、そのかわいいお口を鵠ちゃんに塞いでもらっちゃおうかー」

「サーセン黙ります」


 うっきうきと先陣を切るのはさっちゃん。大学に入ってホームセンターに来るとは思わなかったです、ときょろきょろしながら歩いてる。欲しい物は決まってるけど、とりあえず1周してみようか。

 すると、鵠っちがきょろきょろとして、何かに惹かれている様子。家財道具をいろいろ探すのは手伝ったけど、まだ家の物で足りない物でもあったかな。


「慧梨夏サン、今ここで自分の買い物すんのアリすか」

「どーぞどーぞ。何かいいものでも見つかった?」

「そろそろ暑くなってくるし、簾とゴザマット、いいじゃんと思って」

「いいねー、夏支度だねー」


 本題は建物の中じゃなくて外だったりする。それなら最初から中に入らなきゃよかったんじゃって思うけど、そうじゃない。中を回ることでネタとかアイディアが降ってくるかもしれない。創作とか企画ってインプットも大事だから。

 目の前には、プランターと土。そしてタネ。見たまんまの園芸コーナー。必要な情報はあらかじめインターネットで調べておいた。どんな環境で、どのように育つのか、諸々のことを。


「鵠っち、そっちの白いプランターを2つと、あっちの土持ってきてくれる?」

「うす。花でも育てるんすか? それにしても深いプランターじゃん?」

「美弥子サンにはお花よりもこれ」


 うちが手にしたのは、ネギの種。美弥子サンと言えば泣く子も黙る薬味狂。元々伊東家って結構ガッツンガッツン薬味を使う家なんだけど、この美弥子サンがまあすごい。ネギとかショウガとか大好きだよね。


「うわ、出たー」

「出たとか言わない尚ちゃん!」

「ネ、ネギなんてプレゼントされて誰が喜ぶんですかあ!」

「三浦、お前さてはネギ嫌いか」

「大っ嫌いだよ! 辛いし、おいしくないじゃん!」


 ここに来て大変な事実が発覚しちゃったかも知れない。さっちゃんはネギ嫌い。さて、近く開催される美弥子サンの誕生祭、もといネギ祭り。果たしてさっちゃんは生きて帰れるのか!


「さっちゃん、GREENsにいるなら覚悟した方がいいかもしれない」

「何をですか…!」

「さっちゃんは遠くない未来に薬味狂・伊東美弥子に恐れおののくよ…!」

「マジあの人ネギ教の教祖だから。くげ、お前も覚悟しとけ。ビビるぞ」

「あ、尚ちゃん炭も買わなきゃ」

「あー、ホントっすね忘れるトコっした」


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