ナノスパ@2016 -one's routine life-

エコ

goddess of battlefield

「ゲッティンガール、G・G!」


 久々に活気の溢れる学内に、一際通る女声が響く。今日は向島大学入学式。僕たち在学生は、よほどの事情がない限りここに立ち入ることはないのだけど、大事な用事があるからこうして黒山の人だかりが出来ている。


「圭斗、今日が勝負だぞ!」

「わかってる」

「ほら、お前のロクでもない恋愛経験と女をたぶらかす手腕が生きるチャンスだ!」

「人聞きが悪いな」

「春風の似合うぽわぽわして可愛い女の子をMMPに引き込むためなら何だって使う! 化けの皮をかぶれ、たぶらかせ! そしてうちに可愛い女の子を!」


 在学生が今日の日に大学構内にいるのは大体がサークルの新入生勧誘活動のため。それは、僕たち放送サークルMMP――Mukaijima Media Parkも例外ではない。今年のMMPは“ゲッティング☆ガールプロジェクト”と銘打って勧誘を行うことになっている。

 そのゲッティング☆ガールプロジェクトの首謀者は、先から僕に失礼なことを言いまくっている奥村菜月おくむらなつき。どうして彼女がここまで女子の勧誘にここまで力を入れているのか、それには彼女なりに深刻な事情がある。

 現在、MMPは3年3人と2年4人の7人で活動している。僕、松岡圭斗まつおかけいとが代表会計、そして菜月が総務としてサークルを束ねる立場。だけど、7人中女子は菜月1人。先代の先輩が引退されてからは、男ばかりでむさ苦しいと彼女はずっと嘆いていた。


「女の子って言ってもギャルとは仲良くなれそうにないし、やっぱり春風の似合うぽわぽわして可愛い女の子だな」

「ギャルが必ずしも悪いものでもないと思うけど。そもそも、理系が強くて男ばかりのこの大学で贅沢は言ってられなくないか」

「社会学部にはある程度女子がいる。ただ、文系の女子はどこかアレだからな」

「文系の女子に謝れ。と言うか自分も文系だろ」

「ぶっちゃけうちの目と心の保養になれば文理は問わない」


 しかし、さっきから菜月の言っていることはムチャクチャだ。まだこれを言っているのが女子だから許されそうな雰囲気は少しだけあるけど、男が女子を積極的に狙いに行くここまで声高らかに宣言するといろいろマズい。

 まだ入学式が終わらないのか、人の波はまだ動く様子が見られない。どこの団体も、今か今かと新入生が出てくるのを待ち受けている。新入生の数は限られている。いかに彼らに対してMMPというサークル、選択肢があるということを知らしめるか。


「菜月、顔と言えば野坂はどうした」

「ノサカ?」

「アイツだってイケメンの部類だろ。何せ神崎にはイケメン詐欺って呼ばれるくらいだ」

「なーにがイケメン詐欺だ。ただのヘンクツ理系男じゃないか。ちなみにアイツは下手な女子よりイケメンの方が目の保養になるし数も多いのにって言ってたぞ」

「どいつもこいつも」

「まあ、あんなヘンクツでも声はいいし化けの皮をかぶせれば可愛い子をオトせるかもしれないな。召集するか」


 そう言って菜月は手にしたビラをパラパラと、札を勘定するように音を立てる。春風の似合う、何だっけ。とにかく可愛い女子をサークルに引き込むためなら何だって使うけど、それでいて選り好みをするから菜月はめんどくさいんだ。


「ん、そろそろ来るかな?」

「よし、来るぞ! MMP総員準備!」

「……菜月、どこの軍隊だ」

「バカか圭斗、新歓は戦争だ! ゲッティンガール、G・G!」


 果たして、彼女の熱意と祈りは通じるのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る