Typical Low Life
新海 徹
第1話
明け方近くの真夜中、和泉清は西成区の路上をあいりん公共職業安定所に向かって歩いていた。道路は昨日の夕立ちのせいで濡れていたが真夏の熱気で乾きかけていた。腕時計を見ると時間は午前3時50分ぐだった。まだ起きたばかりで寝ぼけていて目が半分しか開いていなかった状態で歩いていたため路上で寝ていた男の足を踏んづけてしまった。足を踏まれても男は全く動かなかった。西成では年々ホームレスが増加していた。家や仕事を失った人間が西成では生活保護を受給しやすいと聞き全国から集まって来ていた。そのせいか西成は人口の密集率が全国で一位だった。
和泉清は間に合わないと思い少し走り始めた。
四時には職業安定所につかなければならない。
あいりんの職業安定所では
毎朝、業者が日雇いの工事現場の仕事をする作業員を集めていた。
日雇いの仕事は早いもの勝ちで
早く行かなければ定員が埋まってしまい仕事はなくなってしまう。
雇用保険受給者なら仕事にあぶれても手当がもらえるが和泉清は雇用保険受給者ではなかった。
そればかりか健康保険も年金も払っていなかった。
去年の2028年に年金支給年齢が68歳に引き上げになってからは年金を払わない人が今までよりさらに多くなった。年収が300万円越えていて払わdない人は税務署からの指導と警告があり、それに従わない場合は財産の差し押さえが行われた。会社員の場合、給料の差し押さえも行われた。
西成に移り住むまで九州出身の和泉にとって西成は今まで見たことのない街だった。
テレビで見た南米のスラム街に似ていると思った。
住んでる人も南米のスラム街の人と同じように貧しい人で溢れていた。薄汚れた服装で覇気がない人を多く見かけた。
西成は基本的に男の独身労働者が多く住んでる町で、みんな安い宿で寝泊まりしていた。その日の仕事にもありつけないと路上で寝たり炊き出しの世話になることになる。そのような労働者の町なので町全体に負の雰囲気がしみついてるため普通の人が近づきにくかった。
西成のゲストハウスに住み始めてからは週に二、三回日雇いの仕事に行き他の時間は自由に過ごした。
最低限の生活費だけ稼いでそれ以上は働こうとはしなかった。
今日は4日ぶりに日雇いの仕事を探しに来た。
4時ちょうどぐらいににセンター前に着くとバンの車が並んでいて
バンの前で労働者を集める手配師が声を出しながら人を集めている。
現場の場所等細かい詳細はバンに貼っている張り紙に書いてある。気にいれば手配師に声をかけOKをもらえればバンに乗って仕事現場に連れて行かれる
慣れてない頃は張り紙に場所に市内と書いてて大阪市内に連れて行かれると思って行ってみると京都市内や堺市内に連れて行かれる事があった。行きは車まで送ってもらえるが帰りは電車で自腹でかえらなければならないのでできるだけ近い大阪市内のほうがよかった
誰でも現場に連れて行ってもらえるわけではない。業者はできるだけ若い労働者を集めたがるので
20代、30代の日雇い労働者が優先的に連れて行かれる。
和泉清は今年で41歳になる。
工事現場の仕事以外に福島で働く放射能の除染作業員も募集していた。
この仕事は最低でも三ヶ月は福島で住み込みで働かなければならない。
2013年の東日本大震災以後は多くの労働者が放射能の除染作業するため福島に出稼ぎに行った。2029年になった今でも除染作業は終わらず続いていた。
終わるのにまだ10年以上はかかると言われていた。
その日は結局、仕事は見つかったが大阪市内の仕事ではなく京都市内のマンション建設現場に車で連れて行かれ帰りは電車で帰ってきた。帰りの電車の中でオリンピックの頃は大阪市内の仕事が楽に取れたと思いだしていた。
2020年東京でオリンピックが行われる数年前の頃も東京が建設ラッシュになり多くの労働者が西成から東京へ出稼ぎに行き、その期間は仕事にあぶれることはなかった。
オリンピックが終わってからは何割かの人間は福島のほうへ行き
放射能の除染作業員になったが、
それでも多くの人間が西成に戻ってきて日雇いの仕事にするようになった。地震が起こってから最初の数年は放射能の影響は20年後に人体に現れるという説を信じて、それなら別に構わないと考えて多くの労働者が福島に行ったが和泉清は20歳の時に地元の九州で結婚したが実家で一緒に住んでいた嫁と親の折り合いが悪く結局半年ほどで離婚した。それが原因で親と大げんかになって家を出て大阪に来た。親とはそれ以来20年会っていない。
一人だけいた姉とだけは連絡をとっていた。
大阪に出てきて最初は中華料理屋の住み込みで働き始めた。
金が溜まってアパートに引っ越してから中華料理屋はやめ平野区の工場で働き始め同じ職場の2歳年上の彼女ができ、付き合いはじめてすぐに同棲しはじめた。
同棲してからすぐに仕事はやめてあまり働かなくなった。たまに派遣の日雇いの仕事をしてその給料は全てパチンコに使った。その事について彼女は責めなかった。それどころか小遣いまでくれた。優しかったが束縛がひどく彼女が仕事に行く以外はほとんど一緒にいた。仕事の合間には何度もメールしてきた。
日雇いの仕事も全くしなくなりパチンコの資金がなくなるとする事が全くなくなった。どんなに暇でも仕事はしようとしなかった。
あまりに暇で無為の日々に耐えれなくなると図書館に行き本を読み漁った。歴史の本、小説、主婦の友まで幅広く読んだ。
図書館で本を読む以外はスマートフォンをひたすらいじっていた。途中からはネットオークションに手を出し部屋にあるいらないものを売りはじめ小銭にを稼ぎはじめた。
お互い全く結婚する気がないまま10年付き合ったが結局彼女の心変わりで別れることになった。同棲していたマンションは彼女名義になっていたため和泉清は部屋を出て行かなければならなかった。急に部屋を追い出される形になり
新しくマンションを借りるにしても時間がかかるので、その場しのぎであいりん地区の激安ホテルに
止まりはじめた。安いところで一日800円から泊まれるところがあった。
所持金が少なくなるとあいりん地区の職安に行き日雇いの仕事を探しに行った。ある程度金がたまると近くのゲストハウスに住み移つり今もそのままあいりん地区に住み続けている。
住んでいるゲストハウスは元々会社の寮だった建物で30人ぐらいの人が住んでいたが仲のいい人は少なかった。住んでる人の八割が60歳以上の高齢者だったため年齢が近い人が少なかったからだ。
一番仲がいいのは石原という人だった。年齢は45歳だが10歳ぐらい老けて見えた。背は高いが痩せていて顔は色黒でほりが深くいかつい顔をしていた。酒が好きで怒ると手がつけられなかった。和泉清と同じように日雇いの仕事をしていたが体調を崩してからはあまりしていない。酒の飲み過ぎで肝臓が悪いらしい。中学生の時から飲んでいて一日も欠かすことができないと言っていた。19歳で肝臓が悪くなり入院したが、その時も夜中に病院を抜け出し焼き鳥屋で呑みに行っていた。ゲストハウスに住む前は複数の仕事をしてきたらしい。元々西成区の出身で顔が広く特殊なネットワークも持っていた。昔、探偵の仕事をしていてその時に築いたネットワークらしい。タクシー運転手、葬儀屋、ヤクザ、様々な職業の知り合いがいた。日雇いの仕事より探偵のほうがましではないか、そのまま続けていれば良かったのではと聞いたことがあったがその時探偵をやめた理由を教えてくれた。
浮気調査を依頼してきた依頼者に浮気の証拠を提出した次の日に飛び降り自殺して、それが原因でやめたと言っていた。
その日の夜、自分の部屋で本を読んでいると石原が部屋に訪れた。
一緒に日本橋へ本屋のゴミを拾いに行く約束をしていたからだ。
石原がホームレスの知り合いから聞いた話によると本屋が閉店したあと店の前に捨てるゴミの中にあるポスターやグッズがネットオークションで高く売れると聞いて拾いに行きたいので手伝ってほしいと頼まれていた。西成のゲストハウスでぎりぎりの生活をしているとはいえホームレスのようにゴミを漁るのは抵抗があったが石原にはいろいろ世話になっているので断れなかった。
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