第85話「ジズ -杏里とアメリカ国立飛翔動物研究所-」
ドームに入ってまず見上げたアンハングエラは、全然大したことない大きさに見えた。白い天幕の下に、同じく白くて細長くすぼまった翼のものが浮いていて、あまり存在感がない。
なんだ、飼育されている翼竜の中で最大ってこんなもんか。
しかし別の個体がかなり低いところを通り、一瞬視界を埋めていった後。
そいつの見えかたは目を疑うほど一変した。
「え、たっか……」
ドームの高さが何十メートルもあるせいで、上昇しきったアンハングエラが小さく見えていただけだったのだ。
観察会の他の参加者も、施設の規模や五メートル近いアンハングエラの大きさに感心している。
日本各地の動物園や大学から飼育員や研究者が集まって、翼竜の研究と展示を行うこのアメリカの施設に見学に来ている。でも、翼竜ではなく鳥にしかたずさわっていない飼育員は参加者の中で私だけだ。
そんな中、隣では同じ動物園で小型翼竜を担当している蓮美が、やけに涼し気な笑みでこっちを見ている。
蓮美がここに来るのは二回目だ。というか、蓮美は数年前にここでみっちり研修を受けていたのだ。でもそれはこいつがドヤ顔する理由にならないだろ。
私は空中のアンハングエラのほうに向き直った。
コンドルよりさらに大きな飛行動物が、翼を伸ばしたままゆっくりと旋回して頭上を覆う。天幕から透ける光がさらに翼の後ろ半分にうっすらと透ける。前は厚くて、毛に覆われているらしい。端のほうが暗い灰色になっている。
その翼の真ん中から、胴体より長く突き出る顎。濃いオレンジの丸い目で高みから周りを見下ろす。
飼育されているのにこんなに悠々と飛んでみせることができる。この環境がうらやましい。そしてもどかしい。
インドガンではこうはいかない。
私の担当している鳥のひとつであり、インドで雄大に飛ぶところを見せてくれた鳥。
数年前にも今回みたいな集まりでインドの動物の観察会があって、ゾウよりもガビアルよりもインドガンが心を打った。
見た目は白黒のちょっとシックなアヒルなのに、野生のインドガンは綺麗に並んで力強く飛び去って行ったのだ。しかも、これからヒマラヤ山脈を飛び越えるのだと……。
その山を飛び越える瞬間の姿を見たいと思ったけど、標高八千メートルの、しかも夜だというのであきらめたのだった。
そのインドガンが動物園では空を飛べず、かわいいアヒルちゃんだと思われているのに……まあかわいいのは事実だが。
アンハングエラはせっかく化石から蘇らせたからといってこんなにのびのびと飛ばせてもらっている。
ここの工夫をなにかしらパクってやる!
ギュッ、と拳を握りながら、私はアンハングエラを睨んだ。
動物園での飼育法や展示の工夫はパクってもいいのだ。動物のためになるなら……。
ドームの床は大半が海水プールで、一方の端に林と砂浜が長く続いている。
林を左手、砂浜を右手に分ける金網で囲われた通路を、職員のかた……一見アジア人に見える青年だがこちらの人である……と、なぜか蓮美が先導していく。
雑に歩いてはいけない。屋外の観察会と同じだと思って歩かないと、ここの工夫を身に着けることができない。
とはいってもあまりにヒントがないので、私の目と耳はむしろ翼竜のことが分かっている他の参加者に向いた。
そう、参加者のうち背の高い女性と白衣の小さい女性のコンビが道の先にどんどん進んでいくのが見えていた。二人とも大きなカメラを抱えている。
あの二人は翼竜の研究者だったはずだ。きっとアンハングエラのどんな行動が見たいかもう決まっていて、真っ先にそれが見られる場所に向かったのだ。
私はどうする?蓮美は先頭で職員と話している。もちろん英語で。
『今何頭のアンハングエラがいるんでしたっけ』
『八頭ですね。まだみんな別々の化石から再生された第一世代です』
『で、初めて繁殖しそうなカップルが……』
『成立しかけてるところです』
かけ合いをするようにして堂々と案内しているのだ。他の参加者も熱心に話を聞いている。
しかし蓮美と職員のほうではなく、何か紙と辺りを見比べている人達もいた。ドームを指差して、あああれだ、などと言っている。
ここの工夫のことを話しているに違いない。私はそちらに首を突っ込むことにした。
「あそこに何かあるんですか?」
「幕がそこで途切れてますでしょ」
天幕が一部帯状に凹んだようになっていて、そこから外の空の青がちらりと見えた。
「こんな風に」
紙を持っている人がそれを見せてくれた。ドームの断面図だ。
「ドームの周りから空気を取り込んで、てっぺんから少しずつ漏れるようになってるんです。それで上昇気流が発生するんですね」
「ああ、それで!」
最初のアンハングエラがまだそこで回っていた。あれは上昇気流に乗っているからああやって羽ばたきもせずに高く上がれるのだ。
「開く位置は日替わりらしいですよ」
「え、すごいですね。じゃあ毎日考えて飛ばないといけないようにできるんですね」
飼育されている動物にとって日々の行動に変化があるのは大事なことだ。
「でも大まかには陸側で上昇気流が発生するようになってるっていうことで」
「それって……」
「昼に日光で温められて空気が軽くなるのは陸だからですね」
「なるほど」
野外に発生する上昇気流に似せてあるのだ。
時間帯による風の強さの制御、取り込む側のバランス……、他にもすごい工夫がいくつも込められているという。飛ぶ動物の飼育環境としてはとても面白い。
が、私一人がインドガンのためにどうこうできるようなものでは全然ない。
そんな大げさな換気システムを用意することもできなければ、インドガンが熱上昇気流みたいなものを利用することもないだろう。インドガンは夜に山肌に沿って流れる風の中を飛ぶわけだから……、
車か飛行機のテストをするような送風機の中で、インドガンが空中静止する様子を思い浮かべた。うわー不自然、違うなー。
やっぱり飛ぶ動物を飛べるように飼うのは大変なことだ。それがこんなに完璧に実現してやれているなんて。
「あー、やっぱりうらめしいぜ」
つい口に出てしまった。図面の人がちょっとぎょっとしてこっちを見たが、
「やっぱりそうですよね!?」
と激しくうなずく。同じ思いを持っていてくれて助かった。まあ、この人たちが担当している翼竜は飛ばせてもらえるんだろうけど。
巨大な白い折り鶴のような姿が近くに現われ、参加者の間に静かなざわめきが起こった。
アンハングエラの小さな群れだ。
いや……、頭頂が赤いおかげで四頭だけだとすぐ数えられるから小さな群れだと思ったけど、一頭ずつはやはり大きい。
頭頂は私の腰より高くコンドルやモモイロペリカンほど、かさばるポーズとふさふさした毛のせいで存在感はもっとある。
折り鶴の羽に見える部分は翼の外側半分だ。翼を途中から折り畳んで、畳んだ外側は上向きに脇に引き付け、腕立て伏せをするように手を地面につく。膜の部分は驚くほど狭く引き縮められている。
アンハングエラ達はしばらくそこにたたずんでいたり、少し歩いてみせたりする。
両手で松葉杖をついた人やスキーのストックを使って歩く人を思わせるポーズだけど、そこまで苦労しているようには見えない。
なんだか体が軽そうだ。早くはないがホイホイと歩いていく。
「意外と歩くのが上手いですね」
他の参加者に聞いてみると、
「ああ、尻尾が短い種類ならあんな感じじゃないですかね」
「尻尾が長くてもディモルフォドンならちょっと走れますよ」
「ソルデスとかだと無理ですよね」
とのこと。確かに木の間を飛び回るソルデスが地面に落ちると這いつくばるばっかりになってしまう。
翼竜は鳥と違って翼になった前脚まで使って歩かないといけない不器用な生き物だと思っていた。今目の前の獣は、そんな困った感じは全然しなかった。
獣、本当にそう見えた。白い毛で覆われていて、翼は皮膚でできている。クチバシ、いや、顎と言ったほうがいいのか、赤とベージュの角質で覆われてはいるが、先が尖った歯がずらりと生えていて……、
その顎がひとつ、私達のほうを向いた。
『こちらに気付きましたね』
職員の制服姿が興味を引いたに違いない。
そのアンハングエラは職員に向かって口をわずかに開いてみせて、ココオ、と一声漏らした。
牙の列。やっぱりこれは獣の顎だ。飛ぶということ以外鳥とは似ても似つかない動物だ。
でも、何かの鳥を思い出すような気がする。これは匂いが……、
「ペンギンだ」
英語話者である職員以外全員の、「は?」という目線が突き刺さる。
そりゃそうだ、目の前のあいつは歩く速さくらいしかペンギンではない。私はなんでペンギンって言ったんだ?
えーっと、ああ、そうだ。
「おんなじ匂いがしませんか、ペンギンと。魚臭いっていうか」
急いでそう答えると、あーっ、という声が広がり、皆「確かに」などと言いながら鼻をひくつかせ始めた。
蓮美が職員に英語で説明したので、職員が直接私に向いて話した。
『魚を主食にする動物同士なので、息や糞の匂いも似ているみたいですね』
よかった、変なことを言ってしまったわけではなかった。どうも考え事が捗って口から漏れてしまう。
通路は小さな円形の観察デッキに達した。
『先にもっと大きい観察デッキがあるので、そっちに向かいましょう』
そう言って職員は先を急ぐが、そのデッキには気になる姿があった。
最初に先に進んでいった背の高い人が、三脚でカメラを立てて長いレンズを砂浜のほうに向け、姿勢をがっちりと固めていた。
彼女の目当てがそっちにあるのだ。
そっと後ろに引いて同じほうを見ると、一頭いた。
さっきの群れから少し離れて、海に向かって頭を上下に振っている。
そして、なんかぐっと肩と腰を下げたな、と思った直後。
いきなりそいつの腕が伸び、体が空中に持ち上がった。
それから腕をぐるんと前に回し、翼を伸ばして羽ばたくと、もう平然と空中を進んでいるのだった。おかしい。あんなに大きなものがあんなに早く飛び立てるか?
カメラの人が立ち上がって、ふうと息をつくと、
「おキヨさーん、今の撮れたかね」
白衣の人が道の先から現れ、足早にカメラの人に声をかけに来た。カメラの人は深くうなずく。
目を丸くしたまま二人を見ていることが白衣の人に気付かれた。
「ふふん。見とれてたかね。アンハングエラの離陸に」
「えっ、ええ」
また翼竜が分かっている人にとっては変なことを言ってしまうかもしれなかったけど、こういう感じなら平気そうだ。思ったことをぶつけてみた。
「全然走らないんですね」
「ん?っていーうーとー?」
「ハクチョウみたいに、ですね?」
カメラの人がつないでくれた。
「そうです。大型の鳥だったら助走をつけてから飛び立つところを、ハクチョウより大きいのにあんなに簡単にその場から飛び立ったので」
「あー、まあ走れるわけじゃあないからねー。翼竜はあんまり大きさ関係なくああするね。小さくてももっと飛び立ちづらそうにするのもいるし」
「多分ですが、鳥と違って羽ばたくのに使う強力な筋肉で離陸もするからじゃないかと思います」
「なるほど……」
アンハングエラが走れないのは見れば分かるのだが、小さなソルデスが飛び立つところしか見たことがなくて予測が付かなかった。
鳥と比べていいのかよくないのか、それさえまだ見極められない。
「あっ」
カメラの人がカメラの向きを素早く変えた。水面の上だ。
一頭のアンハングエラが空中から高度を下げ、水面に近付いてきたのだ。最初に見た個体じゃないかと思う。
飛ぶ姿を正面に見ると、切り紙細工のように滑らかだ。昔の図鑑にあったような怪鳥じみた翼竜の絵とは大違い。
長い翼をわずかに上に反らして、水面を滑るように飛ぶ。
少しだけ羽ばたいたな、と思うと、首が真下を向き顎が水面を破った。
そしてそのまま顎を後ろに振り抜いてから前に戻し、また水面の上を飛び続けた。
この間、アンハングエラの胴体は大きな翼に支えられてほとんど揺れることもなく、カメラからは連写するシャッター音が続いていた。
「魚を採ってる……、魚がちゃんといるんですね」
「おんなじ地域と時代のやつだよ」
ということは、
「その魚を養殖する施設が」
「あるある。古生物あるあるだわ、裏に餌の養殖施設あるの」
コアラやパンダのように決まった植物しか食べない動物になら当たり前の対応だが、普通の魚で代用できそうなものに対してそこまで。
うらやましがってる場合じゃない。インドガンだったらどうする?どうなる?
食べられる草を植えておくことは問題なくできるはずだ。他の動物だと丸坊主になるまでむしられることもよくあるが。
インドガンが食べつくせないような緑の野原にいたとすると……?
バシャッという水音。
カメラの人が、三脚ごと素早くカメラの向きを変えた。
その先では一頭のアンハングエラが水面でバタついていた。さっきのアンハングエラはさも関係なさげに飛び去っていく。
「水浴び?」
「相手を避け損ねて落ちちゃったんだよ」
白衣の人もじっとそちらを見ていた。
水面のアンハングエラは傾いていた体勢を立て直し、水平の向きで浮かんだ。顎の先は水の中に突っ込んだままだ。
そして息つく間もなく、両手で何度も水面を叩き、さっき砂浜で見たように、すぐにその場で飛び立った。
「なんか、水が怖いみたいに見えますね」
「実際そうなんじゃないかなあ。浮いて過ごせる翼竜なんてなかなかいないから」
「海辺で暮らしてるのに」
「浮いてられる鳥が変わってるのかも」
「え?」
「体のバランスが全然違うからさ」
飛び立ったアンハングエラは大きく旋回して、私達の斜め上を通り過ぎる。
胴体よりも長い顎が空中を突き進む。そういえば水面にいたとき顎を水に浸けっぱなしだった。水面では持ち上がらないのか。
鳥なら頭が軽いし、首が胴体の真上に上がるから……、
そうだ、インドガンなら池で泳いでいる姿は普通に見られる。今のうちの施設だとコンクリートむき出しだが、なんとかごまかせないか。
緑の草、自然な池、のびのびと過ごすインドガン。
インドガンにとっては良さそうだが、これだけでは足りない。「かわいいアヒルさんが野原でのんびり過ごしてるよ」なんて言われる。
見慣れた生き物とかけ離れたアンハングエラの飛ぶ姿を見上げ、私は頭をかきむしった。
研究者ふたりとともに、さっき職員達が向かっていた大きな観察テラスに着くと、みんな砂浜とは反対側を向いて集まっていた。
そちらは植木で覆われている。
「あんなところにアンハングエラが?」
「いやー、あれはタペヤラだね」
集まりの後ろに加わって見てみると、白衣の人の言うとおり、アンハングエラとは全然違う翼竜が手足で枝にぶら下がっていた。
大型の猛禽類くらいの体格。当たり前だがアンハングエラと比べてしまうと小さい。クチバシは長いというより高く、黄色い。上下の出っ張りがアンハングエラよりよっぽど大きくて真っ赤だ。
首から後ろは真っ黒で、翼はちょっと短く、手足が大きい。森の住人という感じがする。
そこになんと、木々の間から別の個体が飛んできた。
最初の個体に横から向かう位置の枝に乗り、互いにギャアと鳴きかわす。
皆は二頭のやり取りに注目していたが、私は全然違うことが気になっていた。
翼竜があんなことして大丈夫なんだろうか。ちょっと待って聞いてみよう。
やがて最初の個体が飛び去り、後から来た個体もついていった。これだ、これ。念のためここの職員も分かるように英語で。
『木に引っかけて膜を破っちゃったりしないんですかね』
私がそう言うとみんな目を丸くしてこっちに振り向き、それから互いに顔を見合わせた。あのー、私また何かやっちゃいましたかね。
『どなたか皮膜が破れたの見たことあります?』
『いやあ全然』
『そういえば破れることなんてありましたっけね』
『あんな固いものが破れることなんてなさそうですけど』
職員も含めみんな口々にそんなことを言う。えっ、固いのか?
『小さいソルデスでもだいぶ頑丈ですよね』
あっ、これはうちにもいるのに見ていなかった私の怠慢。
『あのー、タペヤラの幼体の皮膜に穴が開いたことなら』
と参加者のひとり。
『おおっ』
『その後どうなりました?』
『貴重な症例かも』
『繊維で止まって広がらなかったですし、すぐ治っちゃいましたね』
『ああー、やっぱり』
結局、滅多に破れるものではないし、よしんば破れたとしてもすぐ治ってしまう、ということになった。
『獣医学的に重要な知見かもしれないですから、今後きちんとまとめたいですね』
そんな話まで出てきた。
『翼竜の怪我といえば、なんですけど』
と、みんなの話は翼竜でありがちな怪我の話に移っていった。手指の切り傷や腫れ、クチバシの割れ、尾の長い種類は尾の裏の擦り傷。
鳥と似ているような似ていないような……、正直、あんまり話題についていけなかった。
ポカンとしていると、ドームにテラスの外からの声が反響するのが聞こえてきた。
ワアワア、キャアキャアと、私達以外の見学者が翼竜に驚き楽しむ声だ。
こんなに熱心に取り組む人たちや夢中になる人達がいる翼竜ってなんなんだろうか。
見学通路はテラスを出て、何か岩がかぶさった小さな建物に続いていた。
『あれが展示室ですよ』
『屋上が擬岩になってます?』
『最初は岩場がもっと多かったんですけどアンハングエラは意外と岩場をあんまり使わないみたいで、砂浜に置き換えていったらあの屋上とその裏が残ったんですよ』
中で出迎えたのは、なにより二体の巨大な骨格だった。
天井の幅を埋める長い骨格と、天井に届く高い骨格。みんなも見とれて見上げている。
黒くツヤがあって、明らかに生の骨ではない復元模型だ。そうか、翼竜ってアンハングエラよりもっと大きいのもいたんだ。化石から再生されていないから忘れていた。
長いのがプテラノドン、クチバシが尖っていてトサカがすらりと後ろに伸びる。
高いのはケツァルコアトルス・ローソニ、聞いたことがない種類だった。手足ですくっと立ったポーズをして、首がやたら長い。
『これらは無理だったわけですよね』
『そうですよねえ、この大きさはねえ』
『ただ、前の計画ではチャレンジしようとしていたわけです』
そう言って職員さんが小さくため息をつく。
『この二体の骨格はその名残です』
ケツァルコアトルスの骨格を近くで見ようとして、背の低い標本ケースに阻まれた。
中身はでかい石斧……いや、化石だ。ラベルに学名が書いてある。
「ケツァルコアトルス・ノースロピ?」
『ああ、それも翼竜の骨で』
『え……、何のどこすか』
職員さんはケツァルコアトルスの二の腕を指差す。
『これの倍ある種類の上腕骨』
天井に届くこいつの倍。背丈がアンハングエラの三倍あるローソニの、さらに倍。
『それは……無茶苦茶(クレイジー)すね』
『クレイジーなんですよ。だからこそみんな見たかったんですけどね』
職員さんはローソニの頭頂よりもっと上を見上げた。
『元はこういう、アメリカを代表する大型翼竜を再生する計画だったんです』
それからどうなったか、職員さんが話してくれた。
プテラノドンのほうでも翼開帳は少なくとも六メートル以上、ケツァルコアトルスの大型種は十メートル。
奮闘空しくというかやはりというか、そんなものの飼育環境を用意できるには至らず計画は頓挫。
それで翼竜に対する注目度は下がってしまったものの、検討の内容はアメリカ産ではないが詳しく分かっているアンハングエラの計画に引き継がれた。
小柄な分飼育そのもののハードルは下がったいっぽう、国産ではないだけに資金等の社会的なリソースの困難はむしろ大きくなった。
それでもなんとか比較的大型の翼竜の飼育を実現したのが、この研究施設ということだ。
ケツァルコアトルス・ローソニは小柄だしアンハングエラほど長く飛ばなさそうなのでまだ可能性があるが、内陸の翼竜なので砂浜のここに住まわせられるわけではない。
また新たな施設を作るのに土地を費やすよりは、ここでやれることを……という意見でほぼ一致している。
『まあでも、アンハングエラも……相当すごいですよ』
そう口に出して言えてしまった。
『ありがとう。そうですよね』
職員さんの笑顔に自信が戻った気がする。
大型種の骨格は目立つが、展示室の大半を占めるのはここで分かったアンハングエラの細部についての展示だ。
骨格、歯、胃内容物、眼球、それに胚や幼体……。
アンハングエラを選んでからも苦難の連続だったことがにじみ出ている。
『ほらアンリサン、これが皮膜ですよ』
職員さんが皮膜の標本を持ってきてくれた。
『触っても?』
『どうぞどうぞ』
ここで死んだやつ、ごめんよ。私はそっと皮膜に触れ、つまんで厚さを確かめ、ちょっと曲げてみた。
意外と硬質だし、弾力がある。
『ほんとに丈夫なんですね。テントというか』
『透かすとほら』
薄いオレンジの膜の中に平行な筋がいくつも走っているのが見えた。
『頑丈な繊維が入っているんです。この繊維の張力は細い筋肉で操作されます。こんな風に』
職員さんが指すほうには顕微鏡写真のパネルがあった。繊維に筋肉が繋がっている様子が分かる。
さらにその隣には骨格の縮小模型。ゴムやワイヤーが張り巡らされていて、羽ばたく動作をする。
『こうやって翼を動かすんですね』
『鳥とはちょっと違うんですよ』
そのとおり、ゴムの束、つまり筋肉は胸よりも腕のほうで太くなっているし、翼を持ち上げるのは胸肉の中のササミではなく背中側の筋肉だ。
模型の規則正しい動きを見ながら、私は考え込んでしまった。
鳥は今たくさんの種類と数が生きている。だから、飛行の細かい工夫がたくさん分かっている。
羽毛の仕組み。風切り羽の働き。叉骨のバネを利用する機構。ガンやカモの編隊飛行時の並びかた。アホウドリのダイナミックソアリング。ハチドリのホバリング。
今見られる翼竜は本当にわずかだ。種類も、数も、状況も。
翼竜のほうが飛行動物として大雑把に見えるのは、単に細かい工夫がまだまだ解明されていないからなんじゃないか。
それが少しずつ突き崩されているのだ。
鳥が翼竜に追い付かれてしまう。そんな気がして、胸がざわついた。
あれ?そもそもインドガンがヒマラヤを越えられるのってどういう工夫をしてるからなんだっけ?
ここでアンハングエラに対してやっているように、自分はインドガンのことを知ろうとしていただろうか。飛んでいく姿を見ただけではないか。
「全然知らなかったわー……」
つい、そこだけ口に出してしまう。
『日本語?』
『翼竜の細かい部分について初めて知ったんですって』
それは蓮美の言うとおり。
蓮美のほうに振りむいた拍子に、展示室の奥にある窓の外が目に入った。
薄い黄土色の縞模様をしたついたてが立っている。地層が描いてあるのだ。地層の中には翼竜や魚の骨、植物の葉、昆虫等の化石も描かれている。
実物が窓の手前にあるようだが、それよりついたての上の方のデザインが気になる。平たい岩山の上に小鳥が止まっているという造形になっているのだ。
『あれは今の鳥ですか?』
『そうですね、アラリペマナキンといってチャパダ・ド・アラリペの台地にしか生息していないんです』
赤い頭、白い体、黒い風切り羽。アンハングエラに妙に似ている。
『アンハングエラの化石が出る地層の上にいるんですか?』
『地層の影響で土壌が石灰質なのが関係あるらしいです。ここにしか生えない植物があるのかなと思いますね』
地層の中に大昔の生き物が眠っているだけではなく、地層の存在が今の生き物に影響を与えている。
そうか、インドガンだってそうだ。
ヒマラヤ山脈を飛び越えなくてはならないということは、地質の存在にモロに影響を受けているということだ。
ヒマラヤのこともきちんと話してこそのインドガンか。
なら、このついたての地層と台地をヒマラヤ、アラリペマイコドリを飛んでいるインドガンに代えれば。
私はインドガンがヒマラヤの向こうを目指して飛び去って行く姿を思い浮かべた。まずはあの姿を伝えたい。
ひとまず、土産はできたみたいだ。
展示室を一通り見終わると、私達は展示室を出てその裏に通された。
岩で囲まれた空間に水面が切り込んでいて、特に静かな砂浜になっている。こうなっている場所を見せられた理由はひとつ。
奥にアンハングエラのつがいがいるのだ。
二頭だけでひっそりとたたずんでいるのが見えた。片方が二回りほど大きい。
『初めて繁殖が期待できそうなカップルです』
おお、と、みんな小さく抑えた声を漏らした。
『一般の見学者は入れないところですけど、皆さんは翼竜のことが分かっている人達ですから、二人ずつくらいでそっと近付いて見てもらえればと思います』
職員さんは通路を区切るチェーンをポールから外した。
大体同じ施設から来た者同士でペアになって道の先にゆっくり進み、交代で観察する。
白衣の人はカメラの人とペアなのかと思ったが、別の飼育員らしき人と組んでいた。翼竜に関わっている人同士のこともよく知らなかったんだな、などと思う。
それで、当然なのだが列に並ぶ私の隣には蓮美がいた。
順番が来て、蓮美が一歩前に出て、しかし静かに進んでいく。
さっき職員さんが言ったのとは違って、私は「翼竜のことが分かっている人」などではない。翼竜は鳥とは全く違う、未知の空中の獣だ。
ではどう接すればいいのか。
頭をかきながら進んでいるうちに、蓮美は進んでいい一番奥の位置に立った。
そして、ゆっくりとその場にしゃがみこんで言う。
「立ってると肉食恐竜だと思われちゃうよ」
そのとおりだ。陸上で不器用になる生き物のカップルがこんな静かなところにいるということは、海鳥のように大きな敵がいないところで繁殖するということだ。
生態を考えて尊重すればそれでよかったのだ。
私も蓮美の隣に片膝をつくと、蓮美のアンハングエラに向ける目つきが分かった。
涼しげで余裕ありげな顔などではない。満ち足りてここの空気と一体化しようとしている。
「あのさ」
私はできるだけ声を抑えた。
「ん?」
「ここってやっぱ、前いたときより良くなってる?」
「もちろん」
蓮美も、抑えた声の中に力を込めて答えた。
「あっ」
つがいのアンハングエラが動きを見せた。
互いに向かい合って、クチバシをゆったりと大きく上下に振ってみせたのだ。出っ張りの赤い模様が弧を描く。
そして、逃げも吠えもせず、互いの首をクチバシで優しくなでた。歯を櫛の代わりにして毛を撫でつけているのだ。
あれは職員さん達の努力の成果で、蓮美が過ごした場の成長の証。
ドームに和らげられた、穏やかな薄曇りの夕方を思わせる陽の光の中で、小さいほうのアンハングエラがクア、と一言鳴いた。
見学時間はまだたっぷりとある。私はまだここが分かり始めたばかりだ。
[アンハングエラ・ブリッテルスドルフィ Anhanguera blittersdorffi]
学名の意味:ライナー・アレクサンダー・フォン・ブリッタースドルフの古の悪霊
時代と地域:白亜紀前期(約1億1千万年前)の南米(ブラジル)
成体の翼開帳:約5m
分類:主竜類 翼竜目 プテロダクティルス亜目 オルニトケイロモルファ オルニトケイルス上科 アンハングエラ科
ブラジル・サンタナ州のアラリペ盆地にある白亜紀前期(約1億1千万年前)の地層であるサンタナ層群のうち、上部のロムアルド層)から発見された、オルニトケイルス類の中でも典型的な姿をした、翼開帳5m程の翼竜である。
アンハングエラ属にはサンタナエ種A. santanae、アラリペンシス種A. araripensis、ピスカトル種A. piscatorなどいくつかの種が含まれるとされることが多いが、このうちの一部は成長段階の違いと考えられるようだ。
クチバシは長く発達し、円錐形の歯がやや外向きに規則正しく並んでいた。歯にはエナメル層がごく一部しかなく、口の中に密閉されていなくてもそれほど傷まなかった。
クチバシの上下それぞれの断面はほぼ三角形で、上下とも先端近くは高さが増して薄く低いトサカになっていた。これは若いうちはほとんど目立たず、成長すると発達したようだ。近縁のトロペオグナトゥスTropeognathusと違ってトサカはクチバシの先端よりやや後ろに下がった位置から始まっていた。
頭骨の後部はやや高さがあり、また後傾していて、顎を閉じる筋肉のスペースがある程度確保されていた。後頭部の三半規管の向きから、頭部全体はやや下向きに保たれていたようだ。眼窩はよく発達していた。
首はそれほど長くはなく、鳥類と違ってS字に折り畳むようにはなっていなかった。頸椎の棘突起が高く、頭部を発達した筋肉で支えていたようだ。
翼を主に構成する前肢は上腕骨以外、特に第4指が非常に長かった。上腕骨は太く、筋肉の付着する突起が大きく発達していた。第1~3指の爪はネコ科のもののように太くスパイク状だった。
やや近縁なプテラノドン(後述)では指骨に外向きの孔が開いているのが見付かっている。翼竜も鳥類に見られる気嚢と気管を持っていたと考えられるが、この外向きの孔は翼の骨の外にも気嚢があった可能性を示すことから、腕と皮膜の間にできる段差を気嚢により埋めていたという復元の例もある。
胴体はコンパクトで、胴椎が癒合してノタリウムという一体の骨を形成していた。肩甲骨と鎖骨がノタリウムと胸骨をつなぎ、翼にかかる力を受け止める丈夫なリングとなっていた。羽ばたくための筋肉の基部となる胸骨も発達していた。
骨盤は小さく、後肢は弱々しかった。後肢の爪はほとんど曲がっていない小さなものだった。
海上を長時間飛び続け、水面近くの魚をクチバシと歯ですくい取って食べたと考えられる。
魚をすくうときトサカによって水を切ることで抵抗を少なくしていたと言われることが多いが、この働きがあったとしても成長してトサカが発達したものに限られたことになる。
地上では前肢の第1~3指と後肢で4足歩行をしていたようだ。飛び立つときは前肢の力を主に利用していたと言われている。体重と翼面積の推定から、現生のアホウドリ類やミズナギドリ類と違ってダイナミックソアリング(風に対して上下左右に揺れるように飛ぶことで滑空し続ける方法)ではなくサーマルソアリング(太陽熱によって発生した上昇気流に乗って滑空し続ける方法)を行っていたとも言われている。
サンタナ層群からはこの他にもアンハングエラより大型のトロペオグナトゥスをはじめとする様々なオルニトケイルス類が発見されている。
[タペヤラ・ウェルンホフェリ Tapejara wellnhoferi]
学名の意味:ピーター・ヴェルンホーファーの古いもの
時代と地域:白亜紀前期(約1億1千万年前)の南米(ブラジル)
成体の翼開帳:約1.6m
分類:主竜類 翼竜目 プテロダクティルス亜目 アズダルコイデア タペヤラ科
タペヤラは、翼開帳1.6m程の比較的小型の翼竜である。アンハングエラと同じくロムアルド部層から発見されている。
尾の短い翼竜の仲間であるプテロダクティルス類の中でも、短く背の高い、歯のないクチバシを持つタペヤラ類に属する。このクチバシの形状は大半の翼竜が持つ細長いクチバシとは異なっている。また上クチバシにへこみ、下クチバシに膨らみがあって噛み合うようになっていること、口蓋に突起があることも特徴である。
またクチバシの上下の先端近くには薄い板状のトサカがあり、後頭部には後方に向かう角状の張り出しがあった。シノプテルスSinopterusのような原始的なタペヤラ類にはトサカはなかった。
タペヤラとごく近縁でサンタナ層群下部のクラト層から発見されているトゥパンダクティルスTupandactylusでは、上のトサカの前縁から後上方に向かって柱状の突起が伸び、この柱と後頭部の張り出しの間に、角質でできた大きな三角形の板ができていた。タペヤラにもこうした板があった可能性も指摘されている。
またカイウアヤラCaiuajaraというタペヤラ類の翼竜では様々な成長段階にあった化石がまとめて発見されていて、それによると幼体ではトサカがなかったのが、成長に伴ってトサカが発達したということが分かった。またクチバシの曲がり方も成長に伴って強まった。
クチバシの側面には大きな楕円形の鼻孔があった。眼窩はその後ろに小さく開いていたが、強膜輪(眼球を補強する穴あき円盤状の骨)の検証によると明るいときでも暗いときでもよくものを見ることができたとされる。
上腕骨以外長く発達した前肢および第4指、コンパクトな胴体、発達した胸骨など、羽ばたいて飛行することに適した特徴は他の翼竜と同じであった。
しかしオルニトケイルス類やプテラノドン類のような特に長時間飛行に適応したものと違って、胴椎は完全に癒合したノタリウムを形成せず、後肢は前肢の肩関節から第1~3指末節骨(爪)までと同等の長さがあった。また骨盤や後足も体の割に大きかった。爪は全て全体が弧を描くフック状の形をしていた。
翼竜の多くは魚食性・昆虫食性・腐肉食性というように動物性タンパク質を主食としていたと考えられているが、タペヤラの場合は果実や種子をつまんで噛み割るのに適したクチバシの形状や、木の枝を掴んで渡るのに適した四肢の形態から、樹上で果実や種子を食べていたという説も有力視されている。直接的な証拠はないものの、タペヤラ類の多様化と被子植物の多様化の時期が符合するなど、これを支持する間接的な証拠は多い。
サンタナ層群からはタペヤラとその近縁種やアンハングエラ科の他にも、タペヤラにやや近縁だが魚食性または動物食性と考えられているタラッソドロメウスThalassodromeusやトゥプクスアラTupuxuaraなど、多様な翼竜が発掘されている。
[プテラノドン・ロンギケプス Pteranodon longiceps]
学名の意味:長い頭を持ち、歯がなく、翼があるもの
時代と地域:白亜紀後期(約8500万年前)の北米
成体の翼開帳:6m以上
分類:主竜類 翼竜目 プテロダクティルス亜目 オルニトケイロモルファ プテラノドンティア プテラノドン科
プテラノドン類はオルニトケイルス類と比較的近縁で、オルニトケイルス類と同様長い翼と小さな後肢、長いクチバシを持った魚食性と見られる翼竜だが、オルニトケイルス類と違って歯を持たなかった。またクチバシ自体の形もオルニトケイルス類と違って先が尖っていてクチバシにはトサカがなかった。
プテラノドン・ロンギケプスは北米大陸西部を南北に貫いていたウェスタン・インテリア・シーで堆積したニオブララ層群で発見されている代表的なプテラノドン類である。
後頭部に、個体によってはクチバシと同じくらいの長さになる、板状のトサカが生えていた。トサカが長いものはより大型で、トサカが短い(長さが幅と同程度)のものは小型なことから、大きくトサカが長いものがオスであり、トサカの機能は飛行に必須なものではなくディスプレイであったと考えられている。
プテラノドン・ロンギケプスよりやや前の年代の地層から、烏帽子を左右に押しつぶしたようなトサカを持った、より大型とみられるプテラノドン類が発見されている。プテラノドン属に含めプテラノドン・ステルンベルギP. sternbergiとする説と、別属としてゲオステルンベルギアGeosternbergiaとする説がある。
[ケツァルコアトルス・ローソニ Quetzalcoatlus lawsoni]
学名の意味:ダグラス・ローソンが発見したキヌバネドリの羽を持つ蛇の神
時代と地域:白亜紀後期(約6700万年前)の北米
成体の翼開帳:5.5m
分類:主竜類 翼竜目 プテロダクティルス亜目 アズダルコイデア アズダルコ科
ケツァルコアトルス・ローソニは、白亜紀の末期に多様化したアズダルコ類の中では特に多くの化石が発見されている翼竜である。テキサス州の白亜紀末の地層から発見された。
長く高さのある頭骨、歯のない真っ直ぐ尖ったクチバシ、眼窩の前上方の小さなトサカ、非常に長く曲げづらい首、前肢全体のうち半分ほどとあまり長くない第4指、翼竜としては発達した骨盤と後肢を持っていた。アズダルコ類の多くは断片的な化石しか発見されておらず、他のより大型の種類の復元はこれとチェジャンゴプテルスZhejiangopterusを参考に行われている。
クチバシの形態自体はプテラノドン類と似たところもあるものの陸成層で発見されていることから、洋上を飛んで魚を食べていたとはあまり考えられていない。現生のコウノトリのように水辺を歩いて水中の小動物を捕えていたと考えられることが多い。
[ケツァルコアトルス・ノースロピ Quetzalcoatlus northropi]
学名の意味:航空技術者ジャック・ノースロップのキヌバネドリの羽を持つ蛇の神
時代と地域:白亜紀後期(約6700万年前)の北米
成体の翼開帳:約10m
分類:主竜類 翼竜目 プテロダクティルス亜目 アズダルコイデア アズダルコ科
ケツァルコアトルス・ノースロピは、前述のローソニ種より先に発見された非常に大型の翼竜である。
最初に発見されたのは上腕骨のみで、翼竜の前肢の中で特に短い要素でしかないため翼開帳の推定は定まらなかったが、18mといった極端な値から、前肢の他の要素やローソニ種が発見されるにつれ徐々に10m強に落ち着いていった。依然既知の飛行動物としては史上最大級であるが、他のアズダルコ類はこれをしのいだ可能性もある。
ローソニ種を主な手がかりとして復元されている。こうした大型のアズダルコ類は恐竜の幼体なども食べることができたのではないかなどと言われることもあるものの、細長い首とクチバシの先端で荷重に耐えて恐竜の幼体を捕らえ、真っ直ぐなクチバシでは引き裂くことができないので丸呑みにするというのはやや無理のある推測である。やはり水辺の小動物を捕えていたと考えられる。
あまりに大型なことから飛べたのかどうか疑問視されることもあるが、前肢の翼は特に退化している様子はない。また飛行能力の推定に500kg以上という極端な体重が用いられてしまう例があるが、体重は200kg程度と推定されることが多い。
[アンセル・インディクス(インドガン) Anser indicus]
学名の意味:インドのガン
時代と地域:現世のアジア中央部(インドやアフガニスタンからロシア南東部にかけて)
成体の翼開帳:約150cm
分類:主竜類 鳥類 カモ目 カモ科 マガン属
マガン属に含まれ、ガンらしい体型をして白、黒、灰色の羽毛を持つ鳥類である。ヒマラヤ山脈の北側で夏を、南側で冬を過ごすため、渡りの際には標高8000mのヒマラヤ山脈を飛び越え、鳥類としては世界一高い飛行高度に達する。しかし飼育繁殖は容易であるとされ、広く行われている。
[アンティロフィア・ボカーマンニ(アラリペマイコドリ、アラリペマナキン) Antilophia bokermanni]
学名の意味:ワーナー・ボカーマンの変わったトサカをもつもの
時代と地域:現世の南米(ブラジル、チャパダ・ド・アラリペ)
成体の翼開帳:約20cm
分類:主竜類 鳥類 スズメ目 マイコドリ科 ヘルメットマイコドリ属
オスは赤いトサカ状の冠羽と白、黒の羽毛、メスは緑がかった褐色の羽毛を持つ小鳥である。チャパダ・ド・アラリペという台地にのみ生息し、これは台地を形成するサンタナ層群の石灰岩により土壌が影響を受けているからであるとされる。
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