結ばれる、誕生日。
高校生になってから最初の誕生日。
会長に抱きしめられる、という信じられない形で迎えました。
クリスマスと誕生日が重なっているから、プレゼントもケーキも一つに纏められてしまって。それもあってか、クリスマスも自分の誕生日もあまり好きにはなれなかったのです。
ただ、今年は違いました。
大好きな人が私のことを抱きしめてくれているのです。それがこの一瞬だけだとしても、とても幸せで。初めて自分の誕生日が好きになれそうです。
「ありがとうございます。会長」
すぐ目の前にあった会長の顔が揺らめき始めました。それに気付いたすぐ後に、何かが頬に伝っているのが分かって。
「……涙」
会長はそう呟くと、そっと私の目元に触れてきました。
私……泣いていたのですね。それが分かった途端に、止まるどころかより多く流れるようになってしまって。この涙は会長と一緒にいられる嬉しさからなのでしょうか。それとも、別の理由があるのでしょうか。
どんな理由にせよ、きっと会長がここにいなかったらこんなに涙を流すことはなかったと思います。それよりも、理由を知りたいことはたくさんあって。
「……どうして、今日、私に会いにきてくれたのですか?」
このタイミングで、どうして私に。
会長の姿を見てから、ずっとそのことが頭の中を駆け巡っていたのです。嬉しいという気持ちの側に信じられない気持ちがあったからです。
「胡雪ちゃんに会って、話したかったからだよ」
会長は私のことを真っ直ぐに見てそう言ってくれました。
「遠くから、胡雪ちゃんが私のことを見てくれていることに気付いていた。最初は何とも思わなかったんだけれど、ふとした瞬間から胡雪ちゃんのことばかり考えて。私もちらりを胡雪ちゃんのことを見ていたんだ」
「そう、だったんですか……」
私が遠くから見ていることに気付かれているのは想定済みでしたけれど、まさか、会長の方から私のことが気になっていたとは思いませんでした。ちょっとだけ頬を赤く染める会長の顔が可愛くて、キュンとしました。
「胡雪ちゃんの姿がなくなって、胡雪ちゃんが学校に来なくなっていることを知って。私に、君がストーカーをしていたっていう子もいて。私が気付かないふりをしていたから、胡雪ちゃんが辛い想いをすることになったのかもしれないと思って……」
「そんなことありません! きっかけは私が友達に反論したことであって……」
「胡雪ちゃんは何も悪くないよ」
私の考えを優しく包み込むように、会長はきっぱりと言った。
「胡雪ちゃんに好きな気持ちを、堂々と伝えることができれば良かったんだ」
その言葉に耳を疑ってしまいました。それは悪い意味ではありません。本当に……ただ純粋に信じられないと思ったからです。
「会長……」
私がそう言うと、会長はゆっくりと首を横に振りました。
「……私はもう生徒会は引退した。だから、会長じゃなくて、玲、って名前で呼んで欲しい。胡雪ちゃんには絶対に……」
「……玲、先輩」
名前で呼んでみると会……玲先輩のことが急に近しい存在に思えるようになりました。玲先輩の気持ちを知ることができたのも一つの理由かもしれません。
「胡雪にいつ、この気持ちを伝えようか迷ってて。そんな中で、胡雪の誕生日が今日であることを知って。それで、誕生日になる直前に会おうって決めた」
「……そうだったんですか」
想像していないことばかりで、もう驚くことを忘れていました。それよりも幸せな気持ちの方が強かったからです。これから玲先輩が何を言おうとしているのか、彼女を見ればもう分かってしまいます。
その言葉を受け取るために、私は玲先輩のことを今一度、真剣に見つめます。それは玲先輩も同じようで――。
「私は胡雪ちゃんのことが好き。だから、私と……付き合ってください」
玲先輩の放った言葉は、私にとって一番の夢で。
まさか、その言葉を私の十六歳の誕生日に言ってくれるなんて。本当に本当に素敵なプレゼントを貰ったような気がします。
「私も玲先輩のことが好きです。私のことを先輩の彼女にしてください」
その言葉を言うのに不思議と緊張はありませんでした。玲先輩の方から好きだと言ってくれたからでしょうか。
「……ありがとう。胡雪ちゃん」
笑顔になる玲先輩と見つめ合っていると、いつの間にか顔を近づけ合っていて、唇を重ねていました。
「私、玲先輩から最高のプレゼントを貰った気がします」
「……私もだよ、胡雪ちゃん。私自身がその胡雪ちゃんへの誕生日プレゼント……」
玲先輩はそう言うと、恥ずかしいのか私から視線を逸らしています。こういう姿もとても素敵で、とても可愛らしく見えて。それが愛おしさに変わっていって。
「……とても素敵なプレゼントをありがとうございます。そのお返しとして、私を貰ってください。玲先輩」
「……こちらこそ。ありがとう、胡雪ちゃん」
それから、私達は玲先輩の家に行って、二人きりでずっと互いの想いを伝え合いました。それは言葉だけではなく、抱きしめ合ったり、口づけをしたり。かつて、私が頭の中で抱いていたようなことまでしたりして。
玲先輩によってかけられた魔法はきっと解けることはないでしょう。いえ、消えるどころかより強くなっていくと思います。
こうして、今までの中で最高のクリスマスと誕生日になったのでした。
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