義を見てせざるは勇なきなりか

天村真

傍観者は神になる

プロローグ


 「僕は本が好きだ」などとは口が裂けても言えない。僕が好きなのは物語であって、本そのものではないからだ。

 僕が求めるのは『物語り』それ以上でもそれ以下でもないのだ。

 登場人物キャラクターはストーリーという川を流れる一つの船だ。川の流れと船、それらの景観を楽しむ。

 かといって、映画やドラマは好きにはなれない。あれらはどうしても、俳優という現実の名残がある。どれだけ演技がうまくても、僕の中ではそれがちぐはぐに見えてしまうのだ。

 流れが美しくとも、そこに浮かぶ船との景観に少しでも違和感があると全てが台無しである。

 だから確かに、本が好きと言えば好きだ。

 ちぐはぐがない。ストーリーと登場人物に切り取り線がない。僕にとって大切なのはそこだ。そしてそれが僕の『物語り』の楽しみ方だ。

 さらに言えば、例えそれがどれほど非情な『物語り』であったとしても、僕は決して手出しはしない。頭の中でも、現実でも。

 無論、積極的に介入する楽しみ方もある。それを否定する気は僕にはない。

 自分が『物語り』の中の登場人物になったように想像し、数多の敵をなぎ払い、人々から羨望の眼差しを向けられ、甘い恋をし、そして世界を救う。

 大いに結構。僕もそのような『物語り』は大好きだ。

 しかし、誤解してもらっては困る。

 僕にとって大切なのは『物語り』を見る事であって、その渦中にいる事でも、ましてや作り出す事でもない。

 僕は見るだけ。

 そう、魅入るだけである。

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