第8話 「この……っ! バカップルがっ!」
「ああ、彼女はリオン・クガ。王都に戻る途中で会ってね」
「……」
なんだろう、すっごく見られてる。視線が怖くて、うつむいちゃうんだけど。下しか見れないよ。
い、居心地が悪い……。そんなに見たって、仕方ないと思うんだけど……。
第一、こんなカッコいい人に見られても、どうしたらいいのか……。
と、とりあえず、ジョシュアさんに紹介してもらったんだから、私からも自分で名前を言ったほうがいいんだよね。
「……ぁ、えっと…………リオン・クガ、です。よろしく、お願い、します……」
「……」
む、無言!? な、なんか、一言でも言ってほしいな。
頭を下げてお辞儀もしたんだけど。それとも、異世界だから礼儀作法でおかしな部分でもあったのかな?
様子をうかがうためにソロリと顔を上げて、彼の表情を見てみる。
「!」
……すっごく渋い顔。ドミニクさんも初めて会ったとき苦い表情だったけど、その比じゃない。
なんていうのかな? 例えるなら、青汁を十杯飲んだ後に漢方薬まで飲んだみたいな。
睨まれてはいないけど、それよりももっと、精神的にくるものがあるよ。
視線が合ったまま固まった私に対して、ジョシュアさんは彼に手のひらを向けてた。
「紹介しよう。私達の愛の結晶、レイモンド・マクファーソンだ」
「あだ名はレイちゃんよ! 可愛いでしょう?」
「……こんな時ですらその発言は、やはり頭が湧いているのですね、父様、母様」
ため息を吐いた彼、レイモンドさんはそう言った。
そして、モノクルをかけなおしながら、私を冷たい眼差しで見下ろしてきた。
「レイモンド・マクファーソン。今後あなたとは関わらないかとは思いますが、一応名乗りはしておきます」
え、ええ……? 関わらないって最初から断定?
それに、すっごく上からな自己紹介。最後に鼻で笑うあたりが、特に厭味ったらしくて苦手かも。
「こら、レイモンド。その言い草は何だい? それにだね、彼女は今夜、ここに泊まってもらう客人なんだ。失礼な態度は私が許さないよ」
「……客人? こいつが、ですか?」
ジョシュアさんがそう言うと、レイモンドさんは私を不機嫌そうに見つめた。
「っ!」
視線がバッチリ合って、思わず肩を震わせてしまった。
「そう、宿がなくて困っているようだからな。幸い、我が家は部屋が有り余っていることだ、何の問題もあるまい」
「たしかに空き部屋はありますが……父様は、彼女といつ知り合ったのですか」
「もちろん、今日さ」
「……頭が痛い。正気ですか?」
片手をおでこにあてて、レイモンドさんは低く
やっぱり、その反応が普通ですよね……知り合って一日目で自宅に泊めるなんて、しないですよね……。
レイモンドさんに強く
「彼女の身元は確かなのですか? それに見慣れない服装に髪と目の色ですが、どこの者ですか? 何が目的でこの国へ?」
「…………っ! あ、の……」
ど、どうしよう。どれも、答えにくい。
服装は高校の制服だけど、異世界に高校なんてあるの?
髪と目の色だって、黒は日本人には当たり前だけど、この世界の人達には今まで会った中でいない。
目的も、特にはない。ただ単に、街に行きたかっただけ。
質問攻めにあってどう返そうか迷ってると、レイモンドさんの目がスッと細くなった。
「答えられないんですか」
「……っ」
「こんな怪しい者を、当家に泊めるつもりですか? 父様」
呆れた様子でレイモンドさんが、ジョシュアさんに振った。
どうしよう。ここで、ジョシュアさんが気が変わったら。
……野宿、決定?
「そうだ。私のカンが安全だと告げている上に、人柄も気に入ったのでな。アンジェも、同じ意向だ」
「もちろん! リオンちゃんには、助けてもらったのよ!」
「……助けた?」
「……!」
肩をまた揺らしてしまった。
「そうよ! 馬車の車輪が雪にはまって食料も尽きそうなときに、ちょうどリオンちゃんに会ったの!」
「そこで、彼女は持っていた食料を私達に惜しみなく分け、さらには馬車を動かすのにも女性の身でありながら協力してくれた。充分、信用に足りる人物だとは思わないかい?」
「……あの、でも、私。当たり前のことを、しただけで……そんな、助けた、とか」
アンジェさんもジョシュアさんも、過剰に評価しすぎです!
手と首をブンブン振って、全力で否定しないと! 変に期待とか、もっと不審に思われたら困るよ!
っぷ! ちょ、ちょっと気持ち悪くなっちゃったかも。振りすぎちゃって、視界がグラグラする。
「……しかし、私は反対です! よくわからない人間を招くのは、不用心すぎはしませんか!?」
「っ!?」
さっきより、レイモンドさんの眉間のしわが増えてる!?
何故か前より、警戒心が高くなってるみたい。なんで!?
ジョシュアさんに怒鳴っているレイモンドさんの背景には、雪が降りそうなくらい。
ジョシュアさんもアンジェさんも、どうして変わらずのほほんってした感じで笑っていられるの? それとも、これが母親と父親の余裕ってものですか?
ジョシュアさんは、レイモンドさんのまるで矢のように鋭い視線にさらされても、ため息を吐き出しただけだった。
「レイモンド」
「!」
たしなめる静かな声に、呼ばれた彼はとっさに口をふさいだ。
そんなレイモンドさんを見つめて、ジョシュアさんは目に力を込めた。
いつものほんわかした雰囲気じゃなく、威圧感を漂わせたジョシュアさんは、冷たい空気をまとわせて凄んでいた。
「レイモンド、これは決定だ。揺らぐことはないし、変えることはない。これは私だけでなく、アンジェも同じ考えだ」
「……っ!」
息をのんだレイモンドさんは、その後悔しそうに歯ぎしりをした。
それから私をまるで敵でも見るみたいに、さっきより強く睨んできた。
「……っ! ぁ、その。ごめん、なさい……」
……怖い。
あ、あの。突然お邪魔して悪かったのは私だって、自分でもわかってますから。お願いですから、こっちを見ないでくれませんか?
「そう熱くなるものではないよ」
「……しかし」
「屋敷に新しく花が来たんだ、喜びなさい。極上のアンジェだけでも華やかだというのに、リオンも加わるとなると、ここは楽園となるな」
「まぁ、あなたったら! うふふふっ!」
「……っ!」
ああっ! レイモンドさん、歯ぎしりが鳴りそうなくらい歯を噛みしめてる!
舌打ちを大きく盛大にして、レイモンドさんは罵声を一つ吐きだした。
「この……っ! バカップルがっ!」
それは同感です、レイモンドさん。
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