第6話    『ここから』

 私達はジャガイモを1個ずつ食べて、空腹を耐えた。


 ついでに早めに食べ終わったドミニクさんは、馬二頭にキャベツ一玉分を包丁で半分にわけてからそれぞれにあげてた。それとにんじんも。

 「これで、馬も生きながらえる。私達の生存する可能性も上がるな」なんて、ジョシュアさんはニコニコと笑ってた。

 のほほんとしてた会話をしてても、命の綱渡りをしてる自覚はしっかりあったみたい。ジョシュアさんは私達の中で一番冷静に物事を判断してるのかも。


「さて、ドミニク。もう一度後ろから車体を押すのを手伝ってもらえるかい?」

「旦那様、先程も言いましたが、私に任せていただきたいのですが。そういったことを旦那様にご助力いただくのは……」

「そう言ってもいられないだろう。人手が足りないんだ。立場を考えて行動する余裕はないよ。私としてはアンジェの手を汚さずに済ませられるのなら、べつにいいんだ」

「あなた……」

「また、旦那様方は……。人手が足りないのはおっしゃる通りですが……」

「……あ、あの」


 一斉に三人に見られた。えっと、そんなに注目されるようなことを言うつもりはないから、皆でこっちを見る必要はないですよ?


「私も、押させてもらっていい、ですか? 力持ちじゃないけど、精一杯頑張ります」

「……レディにそれは……」

「どうかしら、ね?」

「いいじゃないですか、彼女自身が手を貸すと言っている以上、旦那様がお気になさることはないですよ」


 ジョシュアさんもアンジェさんも、どうしてそんな困ってモゴモゴ言葉を詰まらせてるの?

 だって、動ける人が動くのは、当然だよね? ドミニクさんの意見が普通の反応だと思うよ?


 それにアンジェさんがやるくらいなら、私がやったほうが絶対いいと思うから。アンジェさんがやるって言っても、私は止めるけどね。

 だって、アンジェさん綺麗な服を着てるし、私より全然細い腰してるんだもん。馬車なんか押したら、腰が折れちゃうんじゃないかな?


 ジョシュアさんとアンジェさんの反応は最後まで渋ってたけど、結局は私とドミニクさんに押されて、私が手伝うのを了承してくれた。


「では、せいので押そうか」

「はい」

「わかりました」

「あなた、ドミニク、リオンちゃん、頑張って!」


 馬車の後ろに回りこんだ私達三人は、アンジェさんの声援を受けていた。

 左からドミニクさん、ジョシュアさん、私の順で横一列に並んで、手を車体にあてている。


 視線を交わして、そして、ジョシュアさんがスウッと息を吸い込んだ。


「せいのっ!」

「……っふ!」


 お、重い! 腕が抜けちゃうんじゃないかってくらい、すっごく重いよ!

 馬車なんて初めて押したけど、こんなに重い物なんだ! もしも、馬車じゃなくて車を押すことになったら、機械が材料だからきっともっと重たいんだろうな。

 力を込めて全力で押してるから、顔が真っ赤になってる。


「ぅ~~!」


 雪のせいで足を踏ん張れない!

 ちょっとした拍子に、転びそうになっちゃう。勢い余って頭でもぶつけそう。


「~~!」


 全然、前に進んだ気配がない!

 こんなに力を入れてるのに!


「っつぅ!」


 ちょっとでもいいから、進んで!!


「っぁ……?」


 あ、れ……?

 少しだけ、前に進んだ? それとも、私の気のせい?


 だけど、それは気のせいじゃなかったみたいで、次の瞬間、よっかかっていた先の馬車の位置がズレた。


 っ! あ、危なかった! もうちょっとで、バランスを崩しそうだったよ!


 そしてそのまま、車輪がズルリと持ち上がって動いた。

 ……これって。


「動いたわ!」


 アンジェさんの嬉しそうな声が聞こえた。


 はまってた車輪が、一回転をして車体が前に進んだから。

 それを見て、ジョシュアさんとドミニクさんが目を丸くしていた。


「ふむ。こんなにあっさり動くなんて、神は私達を見捨てなかったようだ」

「……先程までの私達の苦労は何だったのか、若干虚しくもなりますが。旦那様のお手をわずらわせてしまったというのに」

「なに、気にすることはない。うまくいったのだから、それでいいさ」


 肩を落とすドミニクさんに、ジョシュアさんは明るく笑って慰めてた。

 私もホッとして、力が入ってて自然と浅くなっていた呼吸を元に戻すために、深呼吸をした。


「よかった……」

「リオンもありがとう。これで、移動ができる」

「……はい」


 満足そうな馬のいななきが、辺りに響き渡った。



 ◇◇◇



 せっかく移動手段が回復したのに、この場に留まっている必要はない。と、いうことになって、早速私達は王都に向かうことになった。


 馬車の中に入るのはアンジェさん、ジョシュアさんだってわかってたけど、ドミニクさんだけ御者席に座るのは決まってたのにビックリした。

 ドミニクさんからしたら、馬を操縦するためと、敵が迫ってないかすぐにわかるために、そこにいたほうが都合がいいんだって。


 私は、ドミニクさんが外にいるのに中に入っているのが申し訳なくて、御者席に座ろうとしたら止められた。 

 「居られても手間が増えるだけなので、結構です」だって。そんなバッサリ言わなくても。


 それに加えて、ジョシュアさんとアンジェさんがぜひ中にいてくれ、と言ってくれた。

 結果、私はジョシュアさんとアンジェさんの言葉に甘えて、馬車の中の席に座らせてもらうことになった。


 ジョシュアさんとアンジェさんがイチャイチャして、たまに私とドミニクさんに話題が振られて。

 会話をしていたら、そこそこ時間が経過してたみたい。


 ふと、ドミニクさんが外から声をかけてきた。


「ああ、見えてきました」

「もうかい? 嬉しい誤算だ、だいぶ順調に移動できたようだね」

「そうね。でも、少し物足りないわ。もう少し話していたかったもの」


 え?

 ジョシュアさんもアンジェさんも何の事だかわかってるみたいだけど、一体外に何があるの?


「リオン、窓から見て見るといい」


 ジョシュアさんのすすめにしたがって、窓から顔だけをのぞかせて見た。

 そこにあったのは、高く高くそびえ立つ、灰色の壁が遠くにあった。


「御覧。あれが王都だよ」

「!」


 もしかして、あれって城壁? じゃあ、あの中に街が?


 口を呆けて眺める私の顔は見えていないはずなのに、それがわかったみたいに、ジョシュアさんとアンジェさんのかすかな笑い声が聞こえた。


「ようこそ、リオン。パンプ王国の王都へ」


 パンプ王国。それが、この国の名前?

 なんだか、可愛い響き。



 ◇◇◇



 スーパーに寄ったときは、こんなことになるなんて思わなかった。

 UFOにさらわれて、神様に会って、突然異世界に来ちゃうなんて。予想ももちろん、全然できなかったけど。


 ずっとビックリしてて、次から次に色んなことがあって。今でもちょっと、何が何だかわかんないこともあるし、どうなっちゃうのかなって不安もある。

 神様に「いつ帰せるかわからない」って言われたこともひっかかってる。50年とか100年先だったらどうしよう、それとももう二度と元の世界に戻れないのかなって。



 ……須江先輩とも、会えないのかな? ……そんなの、困るよ。




 異世界に来れるなんて、こんな体験、きっと二度とできないけど。


「探さなきゃ……」


 待っていても、いつかはわからないから。自分で帰る方法を見つけなきゃ。




 ――ここから私の、異世界での生活が始まるんだ。




 

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