狭い世界の恋

恋とぎ

男の世界

僕の中に存在する世界は下らないものだ。


自分を否定することにあまりにも慣れすぎてもう自分の信じていることが絡まっている。それは一本の糸となって世界に張り巡らされている。


一つ僕が視野を広げると僕は未知の場所を歩きたくなって張り巡らされた糸をぷつんと切る。


僕はその切れた糸の断面から覗く小さな自分の理念を見つけてはその内容にまた立ち止まる。


僕は自分の中の世界で決まった価値観が手を伸ばせば切れ、そして新たに紡がれていく事にもう何も感じなくなった。


はじめは自分の言っていた事に反する自分を責めては新たな価値観を生んだ。


今は糸を切る自分を見つけると何が違かったのだろうと考察し新たな糸を紡いだ。


僕の世界の始めは正義と悪だった。


僕はこの世に正義と悪なんて存在しないと考えた。


この世に存在するのは個の悪か全の悪だと考えた。


人間とは何かを拠り所に生きていて、その何かとは悪だと考えた。


自分の信じるものはもしかしたら他人からしたら悪かもしれないという個の悪が存在し、それを悪と自覚した時それは全の悪になるのだと。


だから僕は自分の世界を拠り所とし、それは正しいと思い込んだ。


次に世界に生まれたものはそれを覆すものだった。


それは独と多だった。


この世に生まれ、生きていくという事は多に生きることだと理解した。


しかし、多は僕の望むものではなかった。


だから僕は独を選んだ。


世界という独を選んだ。


僕は自分の世界が多と反するもので、悪であると自覚してしまった。


世界はこの時全の悪となった。


流され、流れるこの世の中に嫌気がさして僕は全の悪となったことを理解した。


今日も僕の世界には糸が張っていて、動き出そうとするだけでも切れてしまいそうな危うさを持っていて、僕がそのことに気付くと、「ああ」と呟き糸がぷつんと切れた。


広がった視野からは妖しく、不規則に点滅するネオンの光が艶めかしい桃色をしていて僕は眉間に皺を寄せた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る