2569 Core 3「アマタ」

 ──2493年秋 ヤタノ24歳


「おーい!ヤタノさん!こないだ頼んだあれ!連れてきたぞー!」


 ヤタノの作業所をゴミ処理場の英雄と鉄次が訪れた。


「おっ!待ってたよ。面白いアンドロイドが居たんだって?」

「そうそう、こいつなんだ。ええと……俺達は鉄のゴミを赤ん坊のようにあやしていたから、ジャンクシッターって呼んでたんだけどな!」


 輸送車の後ろから骨組みが剥き出しになったアンドロイドが降りてきて喋りだした。見た目は性別もわからない位に壊れている。音声もノイズが混ざって酷い有様だ。


「私は……名前も昔のこともあまり思い出せなくって……でも、この方達が廃棄するのはもったいないとおっしゃるので……」

「名前を思い出せない?電脳が一部破損している……?破損してる割には運動機能には問題がなさそうだし、精密検査が必要だな」


 電脳まで破損しているとなれば、運動機能まで異常が起きる事が多い、何か珍しい壊れ方をしているとヤタノは感じた。


「そうなのかい、ヤタノさん。まぁ、連絡したとおりなんだが、こいつはアンドロイドなのに赤ん坊みたいな機械を作っちまったんだよ!でも、その赤ん坊はどっか行っちまった」

「おいおい何だその話は?その赤ん坊も興味があるんだけどなあ……居なくなっちまったのか?」

「あの玩具おもちゃみたいな鉄の固まりじゃあ、まだ動いてるかも怪しいけどな!まぁ、とりあえずこいつを見てくれねえか?あとはジャンクシッター自身が本当に生きていたいのか決めろ。嫌なら俺んとこに来い。キッチリ廃棄してやるよ」

「よし、俺がまずジャンクシッターを預かる。そんなボロボロの状態じゃ辛いだろう。英雄さん、いつも面白いもの見つけてくれてありがとうな。今度また無料でメンテナンスするから」

「ああ、俺の右腕いつも快調だぜ?これもヤタノさんのおかげだよ」


 一見、普通の右腕だが英雄は昔、仕事中に右腕を切断される事故に遭った、その時の患者と医者という関係だ。それ以来、作業員からヤタノは感謝されて、いつも珍しいジャンク品を見つけてはヤタノに渡している。中でも今回のジャンクシッターの件はヤタノの胸を躍らせた。


「ほいじゃ、ヤタノさん!また遊びにくるよ!」

「ああ、またな」

「ここまで運んでいただいて、本当にありがとうございます……」


 ジャンクシッターが作業員の二人に。なんだ、まだ生きていたいんじゃないか。ヤタノは少し安堵した。死にたいなんて思っているアンドロイドを直しても意味がない。


「疲れたろう、お前さん。少し充電して休みな」

「充電は大丈夫ですよ。廃棄されたバッテリーを集めてましたから」

「え?廃棄されたバッテリーから給電していた?どうやって?」

「こうですよ?」


 頭蓋骨パーツの顎がガクンと開き、手を中に入れる素振りをする。


「んな馬鹿な……滅茶苦茶だ……きっと内蔵バッテリーと廃棄されたバッテリーがうまい具合に中で引っかかってたんだな。これはボディーのシャーシまで歪んでるかもな……」


 果たして、これはとんでもないポンコツなのか、故障が産んだ奇跡なのか、ヤタノは困惑しながら作業所へジャンクシッターを案内した。


 ──作業所内


「ただいま、ニゴロ」

「ニャア!」

「あら、猫さんですか?それにしても銀色の毛並みですね」

「毛並み?毛なんて付いてないぞ、ニゴロは金属のボディーだ。これは世界初のアンドロイド猫。よく見てみな?お前さんの目のパーツも相当壊れてるみたいだな」


 銀色でツヤツヤとした滑らかボディーになったニゴロが工具棚の上に箱座りしている。


「そう、私は世界初のアンドロイド猫!よろしくニャン!」

「あら、喋れるのですか。これは驚きです……」

「でも、猫には違いないよ。毛がないのに毛づくろいの動作するし……猫のボディーを手に入れた途端にニャンニャン言い出すし……」


 そんな風にニゴロの説明をしていると、ヤタノは何故、自分の周りには変なアンドロイドがこんなに集まって来るのだろうと不思議に思っていた。


 大げさに言ってしまえばニゴロは、の「猫の意志」を持ったアンドロイドだ。こんなもの発表しても誰も信じてくれないだろう。


 おまけに今日来たアンドロイドは、自分で子供を作ってしまった……いや、子供は失敗作かもしれないが、アンドロイド自ら発明や子供を作るシステムは現存しないのだ。技術的には可能ではあるが、そうさせないようにプログラムされている。人間は恐れているのだ、SF映画のようにアンドロイドが人間を超える発明をし、機械が人間を支配する。そんなことを本気で世界は恐れている。


「しかしながら、ジャンクシッターは呼びづらいし失礼な気がするな……」

「そうだニャア……」


 ヤタノが、ジャンクシッターのボディーに何か書いてあるのを見つけた。


「8?型番かこれ?」

「ハチ、エイトも呼びづらいニャ」


 8……8、方向を変えて見ると∞に見える、無限を意味するインフィニティ……


「無限……無数……数多あまた……うーん、そうだ!」


 二人声を合わせて言った。


「「アマタ!」」ニャ!」


 アマタ、数多あまた、ちなみに九の文字も『あまた』と読む。


「よし、ジャンクシッター!今度からお前さんはアマタと呼ぶ!いいな?」


「アマタ……素敵な名前ですね……ありがとうございます」


 ジャンクシッター、改めアマタの誕生である。


「さあて!まず電脳のデータ解析をしてから、次はボディーを仕上げる!ニゴロのときより時間がかかりそうだな!」


 ヤタノは自分の周りにどんどん、面白い事が増えてきて生き生きとしていた。


「ボディーはどんなのが良いんだ?骨が剥き出しで性別不詳だ、今なら男の形でも女の形でも好きなものを選べるぞ」

「アマタくん……は何かしっくりこないニャ、アマタちゃんがいいんじゃないかニャ?」

「それでは、ニゴロさんの言った通りで良いです」

「じゃあ女型だな。とっておきの美人に作ってやるよ!」

「ありがとうございます。ヤタノさん、ニゴロさん」


 こうして、アマタは女型のアンドロイドに修理されて生まれ変わることになった。

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