SF長編「2569 Core」は「にごろあまた」の核心に触れる作品です。短編をご覧いただいてからお読み下さい。
2569 Core 1「ジャンクシッター」
──2493年 無数の島が集まったとある国の出来事。
この国は大きな島が2つと小さな島が集まった、世界の大陸から切り離された極東の国『セラ』。
2200年代初頭に端を発した天災と人災により大きな島の片方は汚染物質だらけの国となった。
もともとの首都のあった本島と呼ばれていた場所は通称『黒い島』と呼ばれ、汚染区域として世界中に忌み嫌われた。ここ300年近くの間、黒い島は一部の人間、アンドロイド、ロボットにより汚染拡大の防止が行われている。
現在は首都機能を離島、通称『白い島』と呼ばれる場所に移し、黒い島は実質利用できない土地として扱われている。
汚染拡大防止の大部分はアンドロイド達が仕事を行っている。一部の人間とアンドロイドが協力して日々、黒い島を守っている。
黒い島の扱いは酷いものだった。処理しきれない汚染物質を白い島から、更には世界各国から持ち込まれ、世界の廃棄物処理場として有名になっていた。
物だけではない、アンドロイドもロボットも更には人間までもが、まるでゴミ処理をされる物のように扱われる場所だ。
──ある日、ゴミ処理場にベビーシッターを仕事にしていたアンドロイドが棄てられた。
本来、頭脳となるニューロコンピューター、電脳は破壊されて投棄されるはずだが、そのアンドロイドはまだ、生きていた。
「おーい!あそこのコンテナから出てきたアンドロイド!まだ生きてるぞ!」
「何でまた、ボディーも破壊しないで投棄するバカがいるんすかねえ……」
そのアンドロイドの見た目は人工皮膚が剥がれ、見た目は機械だとすぐわかるぐらいにボロボロだった。
──……
──ザザッ……ピー……ピピッ……
起動中……
機能の70%が失われています
ただちに修理が必要な状態です。
「ア……タ……助けないと……」
目標検索中……ネットワークに繋がりません……
目視での探知に切り替えます……
「どこ……私の大事な……子供……」
ガシャン、ガシャンと鉄骨がむき出しになったアンドロイドが、鉄クズの山をあさっている。
「見つけ……た……よかった……」
目視での目標破損状況を確認できません
目標をすでに失っている可能性があります
「違う。チガウ……」
鉄クズを抱えたボロボロのアンドロイドは横に首を振る。
──その様子を遠くから作業員が見ていた。
「ひどいなありゃ、鉄クズをあやしてるぞ」
「多分、電脳がイカれてそのまま投棄された感じですかねぇ……」
「どうする?あれ」
「いくら投棄されたアンドロイドでも、あんな哀れなもの見せられて重機で潰せないっすよ……」
「どうせ無害だから放っておくか……」
「そうですね……電力もきっとすぐ無くなるでしょうし」
──数日後、そのアンドロイドは鉄クズをあやしているだけかと思いきや、腕に
「おい、ありゃなんだ!?鉄次!ちょっとお前みてこいよ!」
「嫌ですよ!英雄さん!何か怖いです!あいつこの間、鉄くずをあやしてましたよね?それに腕や足のようなものが付いてる!」
「不気味だな……しかし、鉄クズを子供に見立ててあやし続けるなんて可哀想だな……」
そのアンドロイドの電池は、なかなか切れなかった。ゴミ廃棄場に点在する残りのバッテリーから何とかして電力を得ているようだ。しばらくすると、ゴミ廃棄場の名物になって、ゴミをあやす気味の悪いアンドロイド、通称『ジャンクシッター』と呼ばれるようになった。
──さらに数週間後
「先輩!ちょっと!あれ見て下さい!動いてます!あのジャンクシッターの抱いてる鉄クズ動いてます!」
「ええ!?嘘だろ!?鉄次!ちょっと確認してこい!」
「嫌ですよ!嫌!怖すぎます!」
「お、おいアイツこっちにくるぞ!お前、行って来い!」
腕に赤ん坊の様な黒い鉄塊を抱いたジャンクシッターが二人に近づいてくる。
「この子の状態はどうですか?元気ですか?私は目の機能が壊れてよく見えないんです」
「ひっ!おっ、お前喋れるのか!?」
「はい、音声だけは何とか……何故かデータが飛んでいて……子供は……元気ですか?」
「えっ……子供?」
「はい、私が抱きかかえているこの子です」
黒い鉄塊がモゾモゾと手足を動かしている。
ウィーン……キリキリ……カシャン……
「……待ってくれ、子供って何の子供だ?お前の子供か?」
「いいえ、違います。私はベビーシッターをしているアンドロイドです。依頼された方の子供を預かってまして……この子どこか、おかしいのですか?」
「おかしいも何も……お前が持ってる子供は人間じゃないぞ……鉄で出来た赤ん坊の形をした何かだ……」
アンドロイドの動きが止まる。
「え……?あ、アア……チガウ……チガウ!助けないと……!」
アンドロイドは黒い鉄塊を地面に落としてしまった。
ウィイイン……キリキリ……カシャン……と赤ん坊のような黒い鉄塊は、膨大な機械の山に這いずって消えていった。
「だめだやっぱりこいつはおかしくなってる……」
しばらく、アンドロイドは固まっていた。頭の中にあるデータをフル回転で整頓しているようだった。膝をついて目を覆って居るものだから、まるで泣いているようにも見えた。
「思い出した……私は……仕事中に事故に遭って子供ごと車に跳ね飛ばされて……」
アンドロイドは自分の身に降り掛かった出来事を思い出したようだ。
「なるほど……お前も大変だったな……だからこんな黒い島に流されて来たのか……?」
「黒い島?ここは白い島ではないのですか?」
「いいや、違うよ。ここはゴミしか無い、黒い島だ」
「今ようやく、状況を理解しました……もう私の仕事は無いのですね……」
「そうらしいな、ようやくまともに考えられるようになったのか」
鉄次が長話をしていると安全だと気づいた英雄が近づいてくる。
「おーい!何話してんだ!ジャンクシッターはマトモなのか?頭、大丈夫だったのか?」
「先輩……安全だってわかってから来たでしょう……」
鉄次が呆れた顔をした。
「ジャンクシッターとは?私のことですか?……え?ゴミをあやしていたから?」
「ああ失礼した。すまんな……それよりも、お前がついさっきまで抱きかかえていた赤ん坊のような黒い鉄クズ、あれお前が作ったのか?」
「先輩ダメですよ……鉄クズだなんて失礼です」
「あの子供は私が作ったのですか?ここ数週間のデータが不明瞭でよくわからないので……」
「しかし、アンドロイドが子供を作るなんて聞いたことないな」
「ええ、僕もアンドロイドに詳しいわけじゃないですけど、自分で子供を真似て作っただなんて聞いたことないです」
しばらくアンドロイドと作業員二人が話していると、今後このアンドロイドをどうしたら良いのかという話になった。
「私はもう、ベビーシッターとしての役目も終えてしまってここに投棄された。作業員さん、私の電脳を止めて廃棄してくれませんか……」
「いやあ……参ったな、それでいいのか?死ぬってことだぞ?」
「死ぬのはもったいないぞ?せっかく生きてるんだ、腕のいいアンドロイド技師を知ってる。変なやつだが、お前の様な子供作っちまうようなアンドロイドって聞いたら喜んで修理を引き受けてくれそうだ」
「死ぬのはもったいない?……そうですか、あまり私には理解出来ませんが……アンドロイドは自分で自分を壊せないように作られているので、そうすることにします」
──後日、ジャンクシッターはヤタノというアンドロイド技師の元に移送され修理されることになった。
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