童貞マン~冴えない俺は純潔のついでに世界まで守っちゃうんだぜ~

くじらジオ

第1話 童貞マン、大地に勃つ


原始、男子は童貞であった。

鳥は歌い、花は咲き誇り、童貞は生きていた。

そう、


彼女が現れるまでは…


//


「おにーさん。ドーテーさんですね」

五月になって幾ばくかもない、平日の午後。俺、兜森恭一(コモリキョウイチ)は、見知らぬ女性に道端でいきなり童貞宣言をされた。

「は?」

「やっと…やっと会えました」

鼻先に触れるか触れないかというところまで顔を寄せる彼女。互いの唇のしわが数えられる距離だ。深い翠緑の瞳が俺の姿をよく写している。瞳に囚われた自分を見ているとまるで彼女に全てを見透かされているかのような感覚に陥る。

「あなたのようなドーテーをずっと探していたんです」

こんな突拍子もない展開だからだろう。

語りかけてくる彼女の声は鈴のように軽やかで夢のようにまろやかに俺の脳を転がす。

思考が状況に追いつかない俺を安心させるかのように彼女は優しく微笑み、そして言葉を繋げる。

「え、ちょ…ちょっと待って、何?なんなのさ君っ」

 そんな彼女を前にして俺は動揺を隠しきれない。女性は…いやどちらかというと少女という表現がより近い。黒を貴重とした服に薄桃のプリーツスカートがよく映えており、西洋人形が履くような赤い可愛らしいブーツを履いている。いや、太陽に煌く長い銀髪や、翡翠を閉じ込めたような瞳を持つ彼女は、存在自体が非現実的に過ぎて、美しくて、可愛いらしくて…というかなんだ、この子…胸、デカいな、前開きすぎだろ。こんな服じゃ不良にジャンプをせがまれただけでおっぱいがポロリ間違いなしだ。うむ、見てみたい。

「おにーさん?大丈夫ですか」

 少女は不安げな顔を俺の顔を上目遣いで覗き込んでくる。おっといかん、初対面の女性を前にして、その裸体に興味を持ってしまうなんて紳士失格だ。

とりあえず、落ち着こうオレ。今はなによりも童貞だ…そう、オレは童貞。もう二十九歳だというのにいまだに童貞…咳しても童貞…

「違う、そうじゃない」

いや、童貞は置いておこう。俺はただ、コンビニでのバイトまでの暇つぶしとして、家の近くをぶらぶら散歩していただけだ。いつもならその閑静な住宅街でこの時間に出くわすのは、買い物中の主婦だとか、お散歩中の老人たちだとか、営業回りのサラリーマンぐらいのものだ。少なくとも見た目10代のコスプレ美少女なんてまずあり得ないはずだ。しかしそんな彼女が、よりにもよって、今まで人生で女性と禄に縁がなかった俺に対して話かけてくるなんて、ますますをもってあり得ない。

「あのっ…!急にこんなことを言われて、さぞ驚かれている事かと思われますが」

「いや、まぁ初対面でそういうことを言う君に驚いてはいるけど…」

「それでも…それでも、わたしのお願いを聞いて欲しいんです」

「は?え、お願い?」

「私と契約して欲しいんです。おにーさん」

 うっすらと潤んでいたその瞳からは、彼女の切実さが伝わるようだった。彼女のいう、契約、お願いがどういったものかわからない。しかし俺なんかでも彼女の力になれるとしたら、この美しいこの少女の涙を止めることができるのならば…そう思い、俺は彼女に言葉を返した。

「ひ」

「ひ?」

「人違いです」

「えーーーーーー!?」

そう、それでいい。このオレに声をかけてくるような女は壷売りか、宗教勧誘以外にあり得まいだろう。いや、契約という言葉から察するに詐欺師という線もある。というか日中から人を童貞童貞言うこの女の頭がイカれているのは確定的明らかである。これはヴィトゲンシュタインもびっくりな実に論理的な思考に違いない。セレクトコマンドはノータイムで脱兎。速やかにこの場から離れるべし。

「あ、待って。待ってください童貞のおにーさん!!」

なおも追っかけてくる謎の女性。しかし、俺は歩みを止めない。一度捉えられたら、きっとこの女は俺を離しはしないだろう。

「待ちませんし、童貞とかち、違いますから」

「話だけでも、話だけでもぉ~」

「彼女と映画みる約束があるんで、船沈むやつ」

「童貞なのにうっそだぁ~」

「童貞関係なくないですかねぇ!!」

図星をつかれ、俺の堪忍袋も怒髪天。歩を止めて振り向き、彼女を一喝する。逃走するという決意も忘れ、今のオレは怒りにコントロールされたまるで人間暴走機関車となった。

「?童貞ですよ」

「人の話聞かない娘だなぁきみぃ!」

「見てください!ガイガーカウンターだって反応してますっ!」

そういって女は大きな聴診器のような機械を俺に突きつけてくる。

『ドーテーデスドーテーデス』

「ほらぁ!ガイガーカウンターもそう言ってます!」

「あんた、俺を馬鹿にしてますよね!てか、童貞だからなんだっていうんですか!まだ俺は将来が有望すぎる大器晩成型の男なんだ!」

「いや、真の童貞に大器晩成もなにもありません」

そう言うと女性は姿勢をただし、スカートのすそを摘み上げ慇懃な姿勢をとった。

「そういえば自己紹介がまだでした。私はファテナ。「チェリーガーデン」から来た…」

「いや自己紹介とかどうでも…」

「いえ、契約していただく以上説明責任は果たさなきゃいけませんから」

「…だから契約ってなんだよ、あのホント迷惑なんで俺行きますから」

 踵を返して、改めて彼女から離れる。しかしその瞬間、彼女の細い腕が、俺の右手を力強く掴んだ。

「ちょっとぉ!離、離してくださいよぉ!」

「話だけでも、話だけでも聞いてくださいぃぃぃ!」

 腕を振り払おうとする。しかし、彼女の手のひらは俺の腕に痛いくらい食い込んでいた。構わず歩を進めようとしても、彼女の力があまりに強くビクともしない。重力に導かれた碇のようだ。彼女の顔を覗くと、その頬には一筋の雫が流れているようにも見えた。

「本当に…エッグ、本当にお願いします…おにーさんに断られたらわたし…どうすればいいか…グスっ」

というか、号泣していた。涙に頬を濡らしながら男の腕を掴んで離さない少女の姿は非常に奇異なものだったのだろう。周囲の視線が徐々に集まってきたかのようにも思える。

「わかったよ…話だけな、話だけ聞くからっ!」

だからだろうか、俺は気づけばそんな言葉を漏らしていた。とにかくこの場を収束させなければという使命感、危機感ともいう。それに導かれたのだ。

「ふぇ」

 少女は、キョトンとした顔をこちらに向ける。やはり涙していたのだろうか、少し目が赤い。

「話あるんだろ?お願いがあるんだろ?契約でもなんでもこいよ。少なくとも話だけは聞いてやるから」

「ホントですかぁ!」

 半ば自暴自棄になった俺に対して花のように満面の笑顔を向けるファテナ。その笑顔があまりに眩しかったからだろうか。

なぜだろう。その時、自分の頭に浮かんだことは、彼女の笑顔が見られてよかったなんて、自分でも信じられない素っ頓狂なことであった。


//


落ち着いたファテナを連れて、俺は近場の公園のベンチに並んで座った。とりあえず道すがらの自販機で買った、ご当地限定缶コーヒーのプルタブを開け一口飲む。彼女も俺に習うようにして、その小さなピンク色の唇を缶のふちへと近づける。

「これ、コーヒーにしてはすごく甘いですね」

「だろ、だからこそ落ち着きたいときに俺はよくこれを飲む。糖分大事だし」

「あ、これ、わたしを落ち着かせる為に買っていただいたのですね。すいませんお気を使わせてしまって」

「別に…あんたみないな人が泣いていたら大抵の人間は放っておけないだろ」

「わたしみたいな…人」

 あんたみたいな、綺麗で可愛らしい女の子のことだよ…とは口が裂けても言えそうにない。俺は意図的にその疑問を無視して、本題を促す。

「それで、話聞かせてくれるんだろ」

「あ、そうでした!あの…わたしのお願いきいてくれるんですか」

「話だけならきいてやってもいい」

「…今は、それだけで十分です」

 すぅと息を吸い込んでから彼女は話し始める。

「あの、お気づきだとは思いますが、わたしはこの世界の住人ではありません」

「…いや気づいてないし、当たり前のように唐突な設定を語るなよ」

「わたしは、次元の向こうにある世界、そしてそこにある王国『チェリーガーデン』に住まう妖精でした」

「無視ですかそうですか」

 というか、妖精なんですねあなた。確かによく見ると彼女の背には虹色に輝く突起物があった。きっとそれは妖精の羽かなにかなのだろう。

「ひゃふ!なにするんですか、おにーさんっ!羽を…なんでっ」

「あ、やっぱり羽なんだ、これ」

「羽はっ…羽はこしょこしょされたら…わたし…わたしぃ!」

 彼女の羽は確かにそこにあるのに、それはまるで質量を感じさせない。絹のように滑らかでありながら水のように掴みどころのない不思議な触り心地だった。

「はぁぁん…ダメっですっ、ひうぅん!いや…いや…いやぁぁぁ」

「あぁ…なにこれ…なにこれぇ、いつまでも触っていたいんですけど」

「そんな、いつまでもなんて…いつまでそんなことされたら…わたし我慢できませんっ、はぁん。あぁ…そんなギラギラした視線で、獣…おにーさんはケダモノですぅ!」

 我慢できないとは、一体何が我慢できないのだろうか?異世界の妖精を名乗る彼女に対して興味は尽きない。それを試してみたいという衝動が、体の奥底から沸々と沸き上がる。ファテナは体をプルプル震わせて、何かを耐えるように、我慢するように身を縮こませている。

「そんな…おにーさん。無害そうな童貞の顔なのに…なんて…なんてエキセントリックでっファンタスティック…あぁん、根元から羽先まで指でなぞるのダメェ…いけません、これ以上はわたし、乙女じゃなくなっちゃいますっ!」

なおも羽をまさぐり続けていると、時折ピクンと体を跳ねさせる。心なしか艶っぽい声も混じってきたようだ。むぅ…何かいけないことをしている気がしてきたぞ

「あああああああ!ゾクゾク止まらないぃぃ!!体っ…熱くて、私もう…もうっ、あああああああああああっ!!」

ファテナは一際甲高い声を響かせたかと思うと、糸の切れた人形のように体をぐったりさせ、ベンチに横たわってしまった。まずい、知的好奇心に目がくらんで観察対象への配慮へ関心が足りなかったか!俺は慌てて彼女の体を抱き起こす。

「すまない、大丈夫かファテナ。」

「はぁ…はぁ…わたしは大丈夫です。おにーさん見かけによらずなんというテクニシャン。さすがわたしの見込んだ童貞です…はぁ…はぁ…そ、そして、私はある使命を受けて王国からこの第42次元宇宙…地球に来たのです…」

「いや話すのはとりあえずいいから、少し休憩すれば」

「すいません、そうします…」

 ファテナは俺の両腕から離れ、乱れた髪や服を整える。息を整え、姿勢を正すのに少々間が空く。しかし一度背筋をピンと伸ばして、こちらに顔を向けた彼女は、先ほどまでの、見ようによっては淫らに喘いでいた少女からは考えられない、真摯で誠実な眼差しを湛えていた。

「わたしが授かったその使命とは…」

 彼女の挑むような、せがむような、緑の視線に目が離せない。その使命というものは、それほどまでに重いものなのか。年端のいかない少女が見知らぬ世界にその身を投げ出さなければいけない程の。

「…その使命とは?」

 口からでた言葉は、彼女の瞳に映る、俺自身に語りかけているようだ。彼女の真剣さが嫌でも伝わり、俺の体も緊張に硬くなる。

「チェリーガーデンに伝わる伝説の戦士『童貞マン』を探し出すことです」

「なるほど、童貞マ…え?」

「おにーさん!あなたのほとばしる熱いパトス!もとい童貞力…あなたこそ童貞マンに相応しい!」

「は…え、ちょっと…」

「お願いです。おにーさん!世界を救って欲しいんです」

「いやいやいや、なにそれなにそれなにそれ」

「お願いです!あなたが最後の希望なんです!」

ファテナは俺の両手を握り、祈るような姿勢で嘆願してくる。俺はその彼女の姿、言葉に心を揺さぶられる。

(最後の…希望?この俺が…)

その言葉の切実さに彼女のお願いをきいてもいいのではないかとも思ってしまう。いや、落ち着け…この相手は無理矢理話を聞かせようとしているだけだ。頭を使え、クールになるんだ。今はこの怪しい女から離れるのが先決だ。そう、そのために俺の頭脳は今まさに試されているのだ。

「…なるほど、あんたの目的はわかった」

まるでわかっていないが、とにかく彼女が童貞の男を求めていることはよくわかった。ならばここは一つ、奴の土俵で戦ってみせよう。

「おわかりいただけましたか!では行きましょう明日へ!未来へ!」

そういって、俺の二の腕をつかんで歩き出そうとするファテナ。

「だぁぁああああ!ちょ、ちょ待ってくださいよぉ!」

「?何です童貞マンのおにーさん」

「え…あの、その…それなら…あの、俺なんかよりも適任がいますよ」

「え、マジっすか!?」

目を見開き驚きの表情を見せるファテナ。この食いつきよう!いけるぞ!

「そうそう、俺なんかとは比べ物にならないくらいすごい童貞…が、はい、います」

「あ…あなた以上の童貞ですと!なんというコズミックエクスカリバーびっくり!!」

「この先の病院のですね、精神科に行けばたぶんわかりますよ」

「お医者様ですと!なんと…エロい!」

「そうですね、エロくて童貞のドクターです。是非会ってみるべきですよ、うん」

そう、ついでにお前の頭も見てもらえ。そういう気持ちもこめて満足げにうなずく。

「そうと決まれば据え膳は急げです!待ってて私のエロソムリエ!」

そういって、垂れる涎を拭き取りながら、全速力で走り公園を飛び出すファテナ。そういえば、あの羽では飛べないのだろうか…

「あっ、そこの道路は交通量けっこうやばくて…」

「アッハッハーモーマンタイですよ、おにーさん。右みてぇ~左みぐはぁっ!!」

「うああああぁぁあああああああああ!!!!だから言っただろ!このバカァああああ!」

赤信号を恐れぬファテナに容赦ない10tトラックの洗礼がくだる。鈍く重い音を響かせた彼女の体は数秒間、空中を浮遊した後、トマトが潰れたような不吉な音を響かせ頭から垂直に落ちる。トラックはまるで、ファテナなんていなかったかのように走り去っていく。その光景は、さながら映画のワンシーンのようで。俺はまったく現実と感じられなかった。

「あ…おい、あんた、大丈夫か!?」

目の前の事態をようやく整理し、急いで吹き飛ばされたファテナに急いで駆け寄る。

倒れた彼女はさながらプレスされた空き缶めいて、まるで死んでいるかの…いやむしろトラックにまともに轢かれて無事なほうが…。

「し…死ぬかと思いましたぁ~!」

「え!それだけ!?」

アスファルトに突っ伏しているファテナは、瞳からごうごうと涙を放出してはいるが、思いのほか元気な姿で俺は驚く。俺が駆け寄るより先にファテナはフラフラと立ち上がる。

「よ…妖精ですから」

サムズアップで自身の無事をアピールするファテナ。そして服のほこりをはたく彼女は確かに見る限り、骨の一本折れている気配すらなかった。瞳こそ涙に濡れているが、体に大事はないようだ。

「よ…」

「…よ?」

「妖精ってスゴイ!!」

「ありがとうございます」

純粋な感想を忌憚なく述べる。それ以外に言葉が出ない。

「というかあんた、信号守れよ」

「信号?信号ってなんですか?」

「えっ!?信号知らない!」

「妖精ですから」

「妖精ってバカだ!」

えっへんと胸を張るファテナ。何が彼女を誇らしくしているのか全くの謎だ。俺はファテナに信号について一から教える。信号について完璧に理解しただろう彼女を見送ってから、スマフォを確認すると、時間はそろそろバイトに行かなくてはいけないことを示していた。


//

「465円になりまーす」

あれからオレは、自称妖精女ファテナと別れ、バイト先のコンビニへと向かった。ファテナは病院に向かったことだしあの様子なら大丈夫だろう。というか、よくよく考えればさっきのはひき逃げではないのか。警察に連絡することも考えたが、被害者の当人がぴんぴんしているし、トラックのバックナンバーも控えてなかった。これでは警察に言った所でまともにとりあってもらえないと思いやめた。

それにしても非日常はどこへやら、妖精との出会いや、目の前の交通事故なんてまるでなかったように俺の日常は回り続ける。家と学校とバイト先、それと片手で事足りるほどの暇つぶしスポット。それらを往復するだけも全く簡素な日常だ。それでも、

「ドーテーさんですね」

ぐっ…

「待ってください、ドーテーのおにーさん」

それでも、あの言葉だけは鮮明に脳髄に刻み込まれたらしい。さっきから事あるごとに脳内エンドレスリピート状態だ。壊れ、かけの、レディオ、だ。

「…もりさんっ」

クソっ、どいつもこいつも童貞を馬鹿にしやがって。童貞の何が悪い!税金だって払ってるはずなのに…あー忌々しい。忌々しい。いまいまいまいま忌々しい。Hey Yo!

「兜守さんっ」

「え、あ、はい。な…なんでしょう!」

「もぉーさっきから声かけてるのにひどいですよ」

「ご、ごめんごめん」

よっぽど、上の空だったのだろう、レジうちといえど接客業。しっかりしろ俺。即興のラップでノリに乗ってる場合ではない。童貞女に負けるな。

「少し顔、怖かったですよ。何かあったんですか?」

「いや…なんでもないよ」

「なにかあるなら言ってくださいね、わたしに出来ることなら何でもしますから」

「兜守さん?」

「いやっ!なんでもないよ、なんでもない!よーしおにーさん今日も張り切ってレジうっちゃうぞぉ~」

あかん、ダメだやめろ俺。この子でそういう事を考えちゃいけない…

そう、何事も長続きしない俺がこのサン○ス与野本町南店でのバイトを続けているのは、なにもこのコンビニが他店よりも一日早く快楽○を入荷するという理由だけではない。

彼女、水越泉美(ミズコシイズミ)ちゃんがいること、それが全てさ。

この殺風景なコンビニも、彼女のおかげで乾ききった俺の心を潤す天然水さ。

だって女子高生だしね!可愛いし!

え?彼女が好きなのかって?

もちろん好きさ!だって女子高生ですよ女子高生!

「でさぁー!!そいつってば童貞だったんだよー!」

!?

「そうなんだよ、実は自分初めてだからとか直前で言ってきてさ。マジしらけちゃったよ!その場でふってやったってーの!いまどき二十歳超えて童貞とか超ウケルんですけどぉ」

な…

閑散とした住宅街のコンビニに似つかわしくない下品な笑い声が木霊する。なんだあの女は…全身は黒く、目の周りは白く厚化粧、さながらパンダネガポジ反転の様相がスマフォで会話をしていた。あの種のギャルは絶滅種だと思っていただけに、俺は、驚きを、禁じえません。く…それにしてもあのビッチめぇ。俺の神聖な泉美ちゃんとのふわふわ時間に何たる無粋っ!ここは、一言ズバリと行ってやらなければならない!そして即時退店願えるよう誘導するのだ!!

「え、兜守さん…」

「ちょっと注意してくる」

てゆーかムカツク。マイ時事問題すぎてムカツク。八つ当たりじゃない!これは八つ当たりではないのだ!俺はこのシフトの責任者としての立場があるのだ!くらえ俺の仕事!

「お客様!」

「あん?」

ひぃっ…化粧が濃すぎて顔が怖い…

「あ…あの他のお客様もいらっしゃいますので、て…店内ではお静かにお願い、します」

ビビりながら、ドモりながらも原住民ライクなギャルに注意を促す。アボリ○ニは俺を見据えて、品定めるように視線を動かした。

「あん客…客、あーはいはいはい客ね客、はい、どーもすませんっしたぁ~」

意外と物分りがよくて助かる、言葉も通じるみたいだ。話のわかる部族の方でよかった。よし、そのままはよ山に帰って蟲でも食って寝ろ。

「……」

バルバロイがなにやら俺を見つめてる。なんだよぉ~早く帰ってくれよぉ~

「…なにか?」

「てかおにーさん童貞っぽくね」

……は?なっななな何をいってるんだこのクロマニョンは

「見るからにモテなさそうだし」

なあぁ!?

「で、おにーさん実際どうなのよ」

「え…そういうのは、あの、応えられかねます…」

応えられるわけねーだろ畜生。

「つまり図星!?マジドーテーなのぉ?キャーカワイソー!でもごっめーん!わたしドーテーとかマジ無理なのー!」

「あ…あのっ…な、なにかお求めですか?でないのなら…そのっ…」

もう耐えられない!!なんでですか!厄日ですか!今日は童貞厄日なんですかっ!


//


女は散々俺、つか童貞を馬鹿にした後、ガムと酒と避妊具を買って退店していった。俺に、癒しがたい傷を与えて…

「兜守さん、大丈夫ですか…?」

「あ、泉美ちゃん…」

あ…そうだ、もちろんさっきの姿を泉美ちゃんだって見ていたはずだ。ギャル共に言い様にバカにされていた所をガン見されていたのだ…がぁあぁぁ!なんという屈辱っ!恥ずかしくて頭がフットーしてしまう!

「兜守さん、すごいです」

「え?」

「ああいう人達に声かけて、そして言うべきことちゃんと言えるなんて、すごいです。尊敬しちゃいます」

「そ、そんなのあ、当たり前だよっ!なんたって俺、シフト責任者だしねっ!」

「…でも、でもすごいです。やるべきことがわかっていてもそれが出来ない人って沢山いると思うんです」

なんだ、これは…泉美ちゃんは俺を励ましてくれてる…のか?

「それは理由が恐怖だったり面倒だったり色々だと思うんですけど」

「…うん」

「兜守さんは、それができるからすごいです…カッコいいです」

!!カッコいい…だって

泉美ちゃんが…泉美ちゃんが俺をカッコいいって…もしかしてこの娘…俺に惚れ…いやいやいやいや待て待て待て待て、泉美ちゃんは女子高生で俺はもうすぐ三十路のフリーター。俺なんて、彼女に馬鹿にされて当然のごみでありノミであり路傍の石ころ以下の存在であるはず。そんな俺は彼女とこうして会話できるだけで、望外の栄誉であるわけで、そんな痛い勘違いをするわけにはいかない。とにかくお乳突こう、いや落ち着こう。

「い、泉美ちゃんっ!そろそろ泉美ちゃんあがりの時間じゃない!?」

「え、でもまだ10分ぐらいありますけど…」

「10分なんてあっという間さ!アインシュタインもそう言ってるしね!それにアメリカから見れば日本は明日さ!俺達は未来に生きてるんだよ!未来人にとって10分なんて時間はないも同然さ!」

「…はぁ、よくわかりませんけど…それじゃ兜守さん。お先失礼します」

「あぁ、うん。お疲れ!ではまた明日ねっ!」

泉美ちゃんは手を小さくふってスタッフルームに入っていく。ドアの閉め際に俺に向かって笑顔で会釈するのも忘れない。

彼女がフロアから去って、人の殆どいない店内で俺は一人懊悩する。あ~!可愛すぎるんじゃぁ~!!!!!なんなん、なんなんだあの可愛い生き物は!?あんな生き物と俺が一緒の職場にいていいのか!いや、いいんだよ、社会が!資本主義が!世界を構築しているシステムがそれを認めているからいいんだよ!もし、それを許さない存在がいるとすればそれは…

「それは俺自身か…」

フッ、我、卑屈ここに極まれりといった具合かな…しかし、彼女と一緒にいる時だけは、そんないやな感情もなりを潜めてくれる。まぁいなくなった瞬間にこうきちゃうわけではあるが。

それにしても泉美ちゃん、もしこの世に天使や妖精がいるならそれはあんな姿をしているのだろうか…妖精…妖精?

「そういえば、あいつ本当に妖精だったのかな…」

『待ってくださいドーテーのおにいさん』

 違う。あんな童貞童貞言って人を小馬鹿にするやつが泉美ちゃんと同じであるわけがない。こんな俺にもきさくに話しかけてくれて…異性との交流が絶たれて久しい俺にとって非常にありがたい存在だ。

でも、ダメ、見つめ合うと、素直に、おしゃべり、できないっ

だって俺、コミュ障だからっ

コンビニの対応なんてマニュアル通りにやってるだけだしっ…人ときさくにおしゃべりする方法なんて忘れてしまった。掲示板やスレに書き込むようにしては駄目だという事は分かっている。でもそれ以外は分からないっ…

何故だっ!何故俺はコミュ障なのだ!

『ごっめーん!わたしドーテーとかマジ無理なのー!』

…童貞だからか!?

童貞だから自分に自信が持てなくて、人に対して気おくれしてしまった、うまく自分を表現できないのか

『あ、おにーさんにあまりに可哀想でマジ悲惨すぎるし、いいもの上げる』

あのビッチギャルは去り際、俺にある紙切れを渡していた。俺はポケットで握り締めてくしゃくしゃになっていた、その紙切れを取り出し見つめる。

「…行くか」

実は前々からそういった計画は考えてはいたんだ…それにここまで童貞をこけにされて、泉美ちゃんにかっこ悪いところを見られて、そんな自分をよしとする程、俺は腐った人間ではない。

俺はある決意を秘めてコンビニバイトを後にした…


//


バイトが終わったあと、俺は電車に乗り、県内の繁華街に来ていた。ここは埼玉県、さいたま市大宮。鉄道とらき○たの聖地である。俺の髪はオールバックにジェルでがちがちに固められ、服はアオ○のスーツでばっちり決めている。変装は完璧だ。

そう…変装。俺が今から行くところは万が一にでも知り合いに見られるわけにはいかない。おい、そこのお前。お前に知り合いなんていたのかって思っただろ。知人レベルならそこそこいるんだよ。そう…たとえ交流がほぼゼロの知人レベルの存在にさえ、いまからの俺がやろうとすることを気取られるわけにはいかない。

俺は…

今から風俗にいくのだ!!!!!

俺は…俺は…

俺は童貞をやめるぞジ○ジョおおおおおおお!!

目の前にはピンクの照明に怪しく照らされた、ウフフな雰囲気の建物。ホテルヘルス『ヴィーナスナイトメア』はこのビルの二階だ…そう、あのギャルビッチが俺に渡してきたのは、この店のサービスクーポンだったのだ。しかも、なんと料金90%オフだ。なぜ彼女がそんなものをもっていたかはわからない。

…だがまぁいいさ

さぁいざ、出陣!!ビルへと入り、俺は、大人への階段(物理)を登った。


//


受付の男は少しこわもてであったが、コミュ障の俺にも丁寧な対応をしてくれたと思う。

ちなみに俺が今回利用するのは、ホテルヘルスと呼ばれる無店舗型風俗だ。店舗の中にプレイルームがあるわけではなく、その近辺のレンタルルームやラブホテルを利用するのがこの業態の特徴だ。

俺がこの業態を選んだ理由は、店舗自体は外からは分からないうえに、行為に及ぶのは今回ラブホで、客観的にみて風俗利用には見えないはずだという考えからだ。

金 (45分1.3000円のコース代とホテル代2.700円の90%オフ!すごいお得!)を払い、店の前のホテルの一室で風俗嬢を待つ。


//


「失礼しまぁーす」

きききききき、キタァァあああああああああ!!!

待つ事10分、風俗嬢だっ!

指名料金ケチったから、もしかしたらおぞましい不細工嬢がやってくるかも戦々恐々していたが、いいじゃん!いいじゃんすげーじゃん!可愛いじゃん!

小悪魔的につり上がった目尻にピンク色のぷっくりした唇。

肩までのさらさらツインテールはロリっつぽさをいい感じに演出してくれて、俺の特殊性癖を刺激してくれる。

その上で両胸にはたわわな果実が実っており、収穫の時を待ち望んでるかのよう。

神は俺に人間フルーツジューサーになれとでも言うのか。

「それじゃ、始めよっか」

「え…シャワーとか入るじゃないの?」

彼女は開けた扉が閉まったと瞬間、俺のもとにまで近づきズボンを脱がそうとしてきた。

あまりの積極性に俺は戸惑いを隠せない。

「うふ…時間がもったいないもの、ね、いいでしょ?」

「え…いいですけど、俺的には全然っ!」

「じゃあ、あーん ぱくっ(はぁと)」

「はぅん、いきなりぃ!」

膝立ちになった彼女は、熱い舌を俺のねっとりと絡みつき、俺の肉棒を万遍なくなめまわしてくる。

始まる前は、緊張からか全く勃つ気配のなかった俺の息子もタチマチ直立不動の二宮尊徳地蔵。

桜色の柔らかな唇が亀頭を包み込んだと思うと、次の瞬間には喉奥まで飲み込んでいく。

「ほぉでふかぁ?おにいひゃん?」

「くっ…暖かくて、気持ちいい…っ」

「よかっふぁ、んぅう、ちゅ、ちゅ、じゅるるる」

なんという淫蕩さ!このままっでは、すぐにでも俺のドリルは天元を突破しかねない!

「んっ…ちゅるちゅ、じゅぽ、じゅっぽ‥んうぅ、ちゅうううううう」

「あぁあん!!だめぇ!!そこはだめなのぉっぉぉ!!」

ビクンビクン

鎮まれマイサン!俺の太陽!今は、まだ早い!今はまだ早いんだ!もう少し…せめて後もう少し、この快感を味わっていたいっ!!

「じゅ、じゅ、じゅうぅぅぅ、じゅっぽじゅっぽ、んんんっ」

しかし、俺のそんな思いを弄ぶかのように嬢の舌は俺のペニスを蹂躙してくる!竿をまんべんなく舐め回したかと思うと、鈴口を滑り込むように刺激する。カリ首を丹念に舐め上げていると思えば、次の瞬間には猛烈バキュームだ。彼女がフェラチオを初めてから時間にしては一分も経っていないのだろう。しかしっ!やばいっ!…もうっ、限界っだ!

「あっ、もう…射精ちゃうぅぅううう!!」

「えへへ、ダメですよぉ~」

「ひゃふっ!!」

なんという情けない声だろうか。俺は初潮前の幼女を思わせるか細く高い声を部屋中に響かせてしまった。しかし、それは致し方ないことなのだ。なぜなら嬢はペニスから口を離すと同時に根元と玉袋をキュっと握っていた。そう、寸止めだ!俺は今!寸止めをされている!寸止めをされた俺のペニスはビクビクと痙攣している。まるでまな板の上の鯛だ。二重の意味で。

「えへへ、どうだったおにーさん、私のおくち」

どうって…先程までの快感と、焦らされている切なさに朦朧とする脳みそで思考する。思えば、今までのどんなオナホもこんなに俺のムスコを吸引してくれはしなかった。掃除機にオナホを装着した時だってこんな快感は感じれなかった。というか痛かった。

「すごく…ダイ○ンです」

「フフッ、なにそれ…おにーさんおもしろいね」

そういいながらも彼女の指は、肉棒の刺激をやめない。彼女の涎はどんなペ○ローションよりも暖かく繊細に俺のムスコを包んでくれる。その上を滑るように彼女の指が走る。

「ふっ…あ」

「すごい…こんなに固くて…脈打ってる…」

「はぁっ…はぁっ…」

「ねぇ…もう我慢できない?」

彼女の吐息が耳をくすぐる。それだけで射精に導かれそうなムスコを必死で抑える。

「が、我慢っできないっす…」

「うふふ、可愛い…」

今でも、こんなにはちきれんばかりの俺のムスコ…これを彼女のあそこに入れてしまったら、俺はそのあまりの快感に脳が溶けてチョコレートになってしまうかもしれない…今の俺はそんなカカオ豆なんだ。彼女に胸をとんと押される。力の入らない俺の体は、重力に導かれるままに倒れ、ベットに沈む。彼女は俺の上に跨り、そのムスコを濡れそぼった蜜壷にあてがう。ムスコが未だかつてないほどに堅く、大きくなっているのがわかる。

(俺のってこんなにデカかったっけ?まるでビックベンロンドンタワーじゃないか)

しとやかに濡れた秘密の花園が、俺の亀頭を焦らす様になでる。彼女の腰が降りたとき、俺は過去の呪縛から解き放たれるのだ。

童貞、卒業

それは哀しみもあるけれど、きっと希望に満ちた門出でもあるはずだ。

それがたとえ相手が金で買われた一夜だけの関係であっても。

俺のこの童貞を卒業しようという決意だけは本物なのだから。

この支配からの卒業

戦いからの卒業

「それじゃあ…」

彼女の腰が止まり、その淫口が俺の肉棒に照準を定める。そして彼女は、俺の耳へ顔を近づけそっと囁く

「あなたの童貞をもらうわね」

「…………え?」

どうして俺が童貞だと知って…

「その童貞ちょっと待ったぁぁあああああああああああ!!」

「はっぁぁあああああああ!?」

怒声と共に、扉を開き部屋の中に飛び込む影一つ!彼女はっ…!

「あんたは朝の妖精女っ!?なんでここに?」

「ちっ、もう感づかれたか…!」

「はい!?」

風俗嬢はさっきまで淫靡な雰囲気はどこへやら、忌々しいと侮蔑するような目線をファテナに向けている。

「はやく、はやくこの粗チンを挿入れないと…!!」

「え…ちょ、え」

「ガイガーカウンターをどーん!!」

「ひびぃ!!」

ファテナはでかい聴診器のような機器を風俗嬢に投げつけたっ!腰に直撃を受け、そのまま壁にまで吹き飛ばされる風俗嬢。かなりやばい音がしたが大丈夫か?

「おにーさんっ!」

「はひぃ!?」

「どこまでいきました!?」

「へ?」

「どこまでヤッちゃったかと聞いているんです!」

「さ、先っぽまで…かな」

よく見えなかったから本当はわからないが、おそらくそうだと返す。

「先っぽならセーフ!先っぽだけならセーフです!」

大げさはジェスチャーでセーフアピールするファテナ。ど、どういうことだ…まるで頭が追いついていない。いや…しかし、今もっとも心配すべきことは…

「それより、あの女の人は…っ!大丈夫なのか!?」

「おにーさん、そんなことはいいから早くここからでましょう」

「そんなことはって…お前、人を吹っ飛ばしておいて…」

「お…おのれ、もう少しでこの男の童貞を奪えたというのに…」

え…

立ち上がった女性の顔は罅が入り、ぽろぽろと崩れていた。まるで、それは雛に破られる殻のように容易にはがれていく。

「え…人間じゃ、ない?」

顔は割れ、中から毛に覆われた鈍く光る八つの目が覗き、背中からは虫のような節足がいくつも飛び出していた。

「なんだぁ!!!」

「気をつけてください、あれはダークビッチナイトメアの怪人です」

「ダ…え?怪人!?何言ってんだ!?嘘だろ?」

「嘘も嘘も大マジです!妖精うそつかない!」

「そう…あたしはダークビッチナイトメアの怪奇クモビッチ!」

ダークビッチナイトメア!?なんだそれは?

「訳合ってあんたの童貞を奪いにきた、手荒い真似はしたくなかったんだがこうなっちゃしょうがないね…」

クモビッチの8つの目がギョロリと俺を睨む。

「命ごと童貞を頂くとするよ」

命と童貞ならどうぞ童貞を奪ってくださぃい!!

「そうはさせません!!」

え…

ファテナは俺とクモビッチの間に立ちふさがる。まるで俺を庇うかのように…いや…庇うつもりなんだ、きっとあの怪人から俺の…

「この人の童貞はわたしが守ります!」

「命は!?命は守ってくれないんですかぁー!!」

「時に一人の男の童貞は、その命より重い時があるのです!!」

「嘘つけや!」

「妖精ウソツカナイ!!」

「つか、なんだよダークビッチなんとかって!説明!説明求ム、プリーズ!」

「説明もなにも、今はこの窮地を脱出するのが先で…」

「フフフ、その説明とやらはあたしがしてやるよ、童貞男」

「童貞男言うな!」

「どのみちあんたの命か童貞はここで散らされるんだ、あたしも別に鬼じゃあない。いいさあんたの疑問に答えてやろう」

「おにーさん!あいつの言うことを聞いてはダメです!とにかくここから逃げて!」

「ダークビッチなんとかってなんですか!」

「おにーさん!!ひどい」

「いや、扉はあいつに塞がれてるし逃げられないでしょ」

「…あー!いつのまに!!」

クモビッチは会話の間にもドアに立ちふさがるように移動をしていた。他に出口もない以上、ここから出るにはあの怪人をどうにかするしかない。なら、ここは情報収集だ…逃げるにしてもスキを伺う必要がある。

「ダークビッチナイトメアは…あたしのいる組織の名前さ」

「どんな組織なんだ、俺を狙ったのは組織の命令なのか」

「ダークビッチナイトメアの目的は世界の浄化、この腐った世界を楽園に変えてやることさ。そのためにはあんたが邪魔なのさ、童貞男!」

「何が世界の浄化ですか!ダークビッチは悪の秘密結社です!世界を我が物にして混沌に貶めることが目的でしょうが!」

「大局的に物事を見れない女だね…世界を征服することは浄化に必要なのさ。我らが首領の理想を世界中に伝播させるためにはね。そんなことも…」

「そんなこともわからないから、あんたの王国は滅んだんだよ」

!?

滅んだ?ファテナの国が…国が滅んだなんて言う話、どこの新聞にもニュースにもなかったはずだが、そんな…

『私はファテナ。魔法の国「チェリーガーデン」の妖精です』

「まさか…本当に…」

「あんたが…」

「え?」

「あんたがそれを言うなぁ!!」

ファテナは激昂し、クモビッチへと突貫する。その懐に潜り込んだかと思うと、そのままクモビッチを押し倒し馬乗りになる。

「あんたたちが!あんたたちが滅ぼしたんだ!わたしの国を!返して!わたしの国を返してよ!」

ファテナの拳がクモビッチの顔面を打つ。怒りの気持ちが拳に宿っているようだ。さっきまでの彼女からは想像もできないような凄まじい形相でクモビッチに組み付いている。

「あんたたちの理想とやらが…わたしから全てを奪った!うぅ返してよぉ…あの人を…返してぇよぉ!」

泣いてる…?ファテナは拳を叩きつけながら泣いていた。怒りだけではなく、悲しみさえその拳に宿らせて憎い相手にそれをぶつける。彼女の拳はクモビッチのみならず、部屋全体を揺らすほどだ。その姿を俺は、ただ呆然と眺めているだけだった。止めればよかったのか、そして彼女とさっさと逃げるべきだったのか。わからない、わからないが

よく泣く女の子だな

そう、思った。出会ったときから彼女はそうだった。よく泣き、よく笑う女の子だった。

初めて会った時の彼女は満面の笑顔だった。満面の笑顔こそが彼女には本当に似合っていた…だから、だから…

俺は、なんとかして彼女の涙を止めてやりたいと思ったんだ。

「このビッチがぁああ!!」

「きゃぁ!」

「ファテナ!」

クモビッチの口から白い粘液が吐き出される。それを正面からまともに受け、壁に叩き付けられるファテナ。あれは…蜘蛛の糸!?

「ったく…残り少ない魔力をこんなことで使うなんて、ホント頭弱いな」

白い粘液に絡めとられ身動きの出来ないファテナ。クモビッチはファテナに近づき、その首に鋭い鉤爪を当てる。

「別にあんたをどうこうって話はなかったんだがね…決めた、アンタは殺す」

「さぁ、イク前になにか言いたいことはあるか」

「…すいません…おにーさん」

「え…」

なにを、謝っているんだ…ファテナ。そんな今にも殺されそうな時に、俺なんかに気を向けている余裕なんてないだろ。

「…でも、これで逃げられますね」

「は、なに言って?」

「ほら、今なら扉まですぐですよ」

「あ!」

ファテナの突貫と挑発によって、クモビッチは扉から離れた部屋の端へと誘導されていた。

(そんなことも気づかないなんて、俺どれだけ気が動転していたんだ…)

「あぁ!この…離せ!このビッチ妖精がぁ!」

「魔力を使い切ったと思い込んで油断しましたね…自分の糸で絡み取られる気持ちはどうですか!」

「ちぃ、見た目によらず頭を使ったみたいじゃないか!」

「まぐれ、ですよ」

ファテナの決死の行動は俺に逃げるチャンスを作ってくれた!?クモビッチの動きを封じた今なら、この扉から逃げられる。ホテルを出て、すぐにでも警察を呼ぶもよし、走って交番に駆け込むもよし。たぶん、それが俺の今すぐ取るべき行動なのだろう。

だから

だから俺は早く、ここから逃げなければならない。彼女の行動を無駄にしないためにも…

そのはずなのに…

そのはずなのに、俺の足はピクリとも動けなかった。

だって…

だって、今ここで逃げれば、彼女は確実に殺される。警察を頼るなんて悠長なことをしてる間にもきっと殺されてしまうだろう。

この場で彼女を救うには…俺は…どうすればいいんだ…

「お願いです!逃げておにーさん。あなたは最後の希望なんです!」

最後の希望…この俺が?

クモ女は言った。この腐った世の中を浄化するのだと…

腐った世の中、確かにそうだ。

希望なんてない、ただ漫然と日々を過ごし、死ぬまでのどんな暇つぶしをするかだけを考えていた毎日。

目覚めれば、昨日となにも変わらない今日がやってきて、機械的に消費されるだけの日々。

友は遠く、愛する人はない、家族さえ長く連絡をとっていない。喜びも悲しみも感じなくなくなって久しく。いつしか笑い方さえ忘れてしまった。

いや、わかっているんだ。

腐っているのは世界じゃない…俺のほうなんだ。世界に希望を見いだせないのは、俺が俺に希望を見いだせないからだ。

でも

そんな俺を、彼女は希望だと言った。最後の希望だと

ならどうして…

「どうして、お前を見捨てられるんだ!ファテナ!!」

怖い

このクモ怪人に俺は今すぐにでも命を刈り取られてしまうのかもしれない。それが怖い、死ぬのが怖い。なにもなせぬまま死ぬのが怖い。自分の命が無価値に終わるのが怖い。

足は震え、顔は恐怖で引きつっているのがわかる。俺は今、非常に情けない姿なんだろう…もしかしたら、失禁さえしているかもしれない。

でも逃げない!

だって

この女を失えば、きっと俺は二度と俺に希望を見いだせない!

それはやだ!

あの灰色の日々に、灰色の自分に戻りたくない!もうそれを続けたくない!

だから逃げない!

決して!

だから!

俺はファテナを救う!

「…まさか、あんたあたしとヤル気かい?なんの力も持たないただの童貞のあんたが?」

クモビッチを真っ直ぐに見据える。これから立ち向かう敵を決して逃がさないように。

これから戦いに赴く、俺を決して逃がさないように。

「自分の白濁液にまみれている変態に言われたかねえぜ」

「…あぁいいよ、やっぱり殺す。そもそもあんたみたいな気持ち悪い童貞を奪うなんて嫌でしょうがなかったんだよねぇ!!」

「行くぜ、クソビッチクモオンナ!!その娘を離せぇええええ!!」

足を踏み出し、走り出そうとした瞬間、眩い光が俺の…いやここにいる全ての目をくらます。

「!」

「なんの光!?」

「そんな…まさか」

ファテナが驚嘆のつぶやきを漏らす。その視線の先は光の出処、つまり…

「股間だ!…俺の股間が光っている!?」

ちょ…なんだこれ?俺は慌てて股間を手で押さえるが、ムスコの輝きはその程度で隠しきれるものではなかった。

「共鳴…覚醒したんですか、おにーさん!」

「はぁ!?覚醒ってなんだよ!?」

「もしかしておにーさん!今日三〇歳の誕生日じゃないんですか!?」

「え…あ!俺の誕生日は、明日…だっけ…いや今日か!日付変わったのか!」

「じゃあ今なら、魔法が使えます!なれます!変身するんです魔法使いに!」

「はぁ?」

魔法使い!?童貞が30歳を迎えると魔法が使えるっていう話は本当だったっていうのか…

「いや、でも魔法なんてそんな」

そうだ、あの都市伝説は自分が童貞であることを皮肉った高度なブラックジョークではなかったのか…

「光る股間なんて魔法以外のなんだというんですか!」

「…確かに!」

 確かにそうだ、光る股間にしても、妖精ファテナも怪人蜘蛛女にしてもそうだ。

現実では信じられないような出来事が今、立て続けに起こっている。

…なら、俺が魔法使いになったってそう不思議なことじゃない。

いや、むしろこの状況を打破できるなら俺は魔法でもなんでも進んで受け入れよう。

「ファテナ!俺はどうすればいい!!」

「股間にイメージを集中するんです!そうすればムスコが語りかけます!」

「わかった!」

頼む…俺の声に応えてくれ、ムスコよ…

そう意識を集中させた瞬間、股間の光は嘘のように消えてしまった。その代わりに…

「…なんだこれ」

「それは貞操帯(TST)ベルト、いわゆる変身ベルトですっ!さぁ早く変身を!コードを叫ん…きゃぁ!」

「そうはさせるかぁぁぁぁ!!」

「ファテナ!」

クモビッチは、ついに自らの糸を振りほどき終えた。相変わらずファテナは糸に絡み取られたままだが、クモビッチはそんなファテナには目もくれない。

クモビッチの視線は俺を捉えていた。まるで最優先で排除すべき敵であると俺を認識したように。

「変身しない童貞はただの童貞さ、死ねぇ!!」

猛然と迫りくるクモビッチ、このままでは彼女のカギヅメが数瞬後に俺の体を引き裂くだろう。だが…

だが…紡ぐべき言葉はわかっている。

光るムスコが教えてくれた。シャイニングマイサン、俺の太陽。

その言葉が全てを終わらせる。そして全てを始めるのだ。

そんな具体性のない曖昧模糊な感情と共に、俺は叫ぶ。

「挿入変身!!(トランスインサート)

一段と眩い光が辺りを包む。

俺は白い空間に放り出されて、上も下もわからないような感覚に襲われる。光の粒子が俺を包み、神経のひとつひとつに浸透していくようだ。そしてそれは、ただただ恍惚であった。そしてそれは、初めての射精、精通の心地よさに似ていた。俺は…この白濁い光に愛されている。そうとさえ感じる。

「なんだ…何が起きている!近づけない!なんでよ!」

クモビッチの声が聞こえる、だが姿は見えない。

光は熱となり、俺の体を内側から熱くする。一際眩い光の粒子が俺の胸に入り込んだと同時に光は弾ける。辺りは白い空間から元に戻っていく。先ほどまで俺たちのいたラブホテルの一室に。

その内装は先ほどと少しも変わっていない。目の前にはクモビッチ、壁には粘液で動きを封じられたファテナ。先ほどからなにも変わらない常識から隔離された、異次元のラブホテルだ。

変わったのは、ただ一つ…

変わったのは、俺だ。

俺の姿が変わっている。下半身を露出していたはずの俺の肌は、密着するラバーのようなスーツと金属のプロテクターによって装飾されていた。

左に置いてあった鏡で確認する。

白を基調としたスーツに、赤いスカーフ。口元こそ露出しているが。甲冑を思わせるメットによって顔のほとんどは隠されている。

そのままなのは腰に装着されたベルトだけだ。

そみ外見は、さながらテレビやアニメでよく見る変身もののヒーローそのものだった。

「…マジか」

俺は、本当に変身してしまったらしい…

「マジかぁあああああああ!!」

叫ばずにはいられない!俺は頭を抱えて、歓喜と困惑が綯交ぜの感情を喚き散らす。

変身!?

変身ヒーローなのか!?俺が!?

マジかよ!

そりゃ…一度ぐらい憧れたことあったけど、まさか本当に俺が…

「おにーさん落ち着いてください!初変身に興奮しすぎです!今やることから目をそむけないでください!」

「あっ!そうだ!俺はお前を助けなくちゃ!」

「さ、させるかぁあぁぁああ!!」

クモビッチの爪が再び俺を襲う

「うわぁぁ!」

変身したとはいえ、中身は冴えない30歳の童貞のままなのか…迫る目の前の暴力に気持ちは竦んでしまった。横に跳躍してかわすしかないっ…俺は体勢を低くして、真横へとジャンプを試みて…

「きゃぁぁぁああああ!!」

「な、なんだぁぁぁああ!!」

「え…」

跳躍した俺は地べたで体が二三回転がった後、顔を上げてクモをビッチを見据えようとする。しかし視線の先には何故か裸の男女が二人。見るからにお楽しみ中だったように見える。

(なんだ…なんで部屋の中に急に別の人が…クモビッチは?)

とりあえず情報を整理するしかないと辺りを見回す。振り返ると壁に人型の穴が空いているのが確認できる。しかもその穴の向こうにはクモビッチ、そしてファテナの姿が確認できる。

これは…もしかして…

(攻撃を避けたつもりが、勢い余って隣の部屋まで壁をぶち破ってしまったのか!?)

「し…失礼しましたぁぁぁ!!」

急いで、壁に空いた穴を乗り越えて元いた部屋へと戻る。

「すごい…すごい力です」

ファテナが感嘆の声を上げている。確かにすごい力だ、壁に穴を開けるほどのエネルギーもそうだが、壁に直撃したはずなのにそのことに気づかなかったほどに強靭なこのスーツもすごい。

(これだけすごいなら…)

「ははっ…確かにすごい力かもしれないけどねぇ…まるで使いこなせていないじゃないのさ!そんなんでこのクモビッチを倒せると思っているのかしら!」

「逃げるぞファテナ!」

「え!?」

「馬鹿め!蜘蛛糸がそう簡単に取れるか!あたしと戦いながら、あの娘を助けられるなんてそんなことできるとは思わないことだねぇ」

「できるさ」

「何ぃ?」

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「な…ちょ、おいっ!」

壁に張り付いたままのファテナに向かって全力で疾走する。目の前に壁が迫る。しかし俺はスピードを緩めずそのまま彼女ごと壁にぶち当たった。

「えぇ!?」

けたたましい轟音と共に、ホテルの壁が粉砕される、

「う、うそぉ!?」

叫び声は誰のものか。ファテナかクモビッチか、はたまた壊した壁の先にいた。熟年カップルか。そうだ、粘液から彼女を瞬時に引き剥がすのは難しいのなら、彼女を壁ごと連れ去ればいい。

「きゃぁぁあああああああ、なに?コスプレ!?」

「失礼しますっ!!」

彼女を抱き抱えたまま、ベッドの上の熟女を一瞥し全力で疾走する。目の前にはまた壁だ。俺は躊躇うことなくその壁にタックルし、隣の部屋へと突き抜ける。このままいくつもの部屋を突き破り、最短距離でこのホテルから離脱するっ!

「ちょっと。ちょっとちょっと待ってくださいおにーさん!戻って!」

「あ!そうだファテナ!無事か!?」

 走るスピードを緩めることなく彼女に声をかける。突き破った壁はもう片手では数え切れなかった。

「あ、はいわたしは大丈夫です。と、とにかく一度戻ってください!」

「はぁ!?馬鹿か?戻ったらあのアメイジングなスパイダーウーマンと鉢合わせるだろっ!とにかく逃げるんだよここから!」

「このままホテルの外まで壁を壊し続けるつもりですか!クモビッチを街に出すんですか!」

「あ…」

 彼女の言葉を聞いて、俺は足を止める。たしかに彼女の言うとおりだ。あの怪人はファテナと俺を殺そうとした。街に出したら、どんな被害がでるかわかったものじゃない。

「とりあえず、部屋を少し戻って扉からでましょう…それで敵を攪乱できるはずです。時間が稼げます。」

「お…おう」

ファテナに促されてホテルの廊下に出る。

何度も衝撃を与えたせいだろう。蜘蛛の糸はところどころほつれ、もはやファテナの動きをいささかも封じてない。俺の手を離れた彼女はなんの問題もなさそうに立ち上がる。外傷の一つも見えない。10tトラックの直撃を受けても平気だった彼女だ。確かにこの程度なんの問題もないのかもしれない。それにしても信じられない、これだけ無茶な動きをしたはずなのに、俺は全く息が切れてさえいなかった。

「でも、と…とにかくこのまま脱出したほうがいいんじゃないか!俺たちの場所が分からなければ、あいつだって無闇に外に出たりはしないだろう。俺たちを追うのを諦めてくれるかも知れない」

「逃げる?何を言っているんですか、戦うんですよ」

「え…」

「変身した以上、クモビッチを恐れる必要はありません。さぁあのアバズレをボコボコのメタメタにしてください」

「ちょ…待て、いや、確かに俺は変身ヒーローになったかもだけど…それでも」

「変身ヒーローは怪人をブッ殺してもいいという決まりがあるはずです」

「いや!ないよ!そんなの聞いたことないよ!」

「暗黙の了解というやつです」

「…でも、無理だ。例え怪人でも暴力なんて」

「さっきは…戦おうとしてくれたのに…」

!?

確かに…あの時、俺はファテナを救うためにクモビッチと戦おうとした。でもそれはファテナを救わなきゃいけないっていうからがむしゃらだっただけで…今は、あのクモビッチを倒すために戦わなければいけない。

それが怖い…

例え怪人とはいえ、なにかに暴力を振るうという行為に俺は恐怖している。

「逆に考えるんですおにーさん」

「え」

「倒すんじゃない、救ってあげるんだと考えるんです」

「はぁ?なんだよ、それどういう…」

「つまり…ゴニョゴニョゴニョ」

「なん…だと…」

「これで戦えますね」

「…戦わなくちゃいけないことはわかった、でも本当にできるかどうか…」

「できますよ。これは正義なんです、それがわかったはずです」

「…」

「風俗に行く勇気があるなら、その勇気を正義のために使えるはずです」

ファテナは俺の右手を両手で包んだ、スーツ越しに彼女の温もりを感じる。その柔らかな不意打ちに少し慌てたが、彼女の翠の瞳に見つめられているせいか俺は身動きができない。

「あなたのこの右手は自分を慰め、ムスコを掴む為だけにあったわけじゃない…」

「いや、何言ってるんだよお前」

「あなたの右手は悪徳や理不尽に嘆く人を慰め、助けを求める人の手を掴むためにあるんです」

「だから何言ってるんですかねぇえ!あんたは!」

「戦うんです。あなたの手で、世界を救ってください」

それは祈りのような言葉で、なにか特殊な重みをもって俺の体に染み渡っていく。そんな心地のいい言葉だった。

「…やれるだけ、やってみる」

そんなこと言われたらやるしかないじゃないか。内心で自分を奮い立たせる。そうだ、世界を救うなんて大げさなことはわからない。でも、俺のことを希望と呼んでくれた彼女の想いには応えてあげたい。そう強く思った。


//


「どこだぁぁぁぁああああ!!どこにいるうぅぅぅぅ!!童貞いぃぃ!」

クモビッチの声が辺り一帯に響く、怪人の居場所はこの角の先だ。右手で拳をじっと作り見つめる。先ほどのファテナの会話を思い出す。

『クモビッチも元はといえばただの人間です』

『ダークビッチは普通の人間をビッチ怪人にする技術を持っています』

『元に戻すことができるのはおにーさん、あなただけなんです』

『あなたなら、彼女に処女だった頃の純真な気持ちを取り戻させることができるはずです』

『そのための力があなたにはあるんです』

確かに…今の俺にはそれができるかもしれない。やるしか…ないか、でも…

でも俺はある一つの決意をもって彼女の前に立ちふさがった。

「おい!アメイジングクモビッチ!」

「みぃぃぃぃつけたぁぁぁぁあああぞ童貞ぃぃぃ!」

ニヤリと顔を歪めて笑うクモビッチ。変身したからといって恐怖がなくなったわけじゃない。異形と対面するのはやはり気持ちが竦んでしまう。それでも一つ決めたことがある。

俺は、それを成す。俺は右手をあげて彼女に差し出す。そして

「もう、こんなことはやめろ」

彼女の説得を始めた。

「あん?」

「あんただって本当はこんなことしたくないはずだ」

「なぁにを言っているんだアンタは?」

「俺は、あんたと戦いたくない。あんただって本当はそうなはずだ」

「じゃなきゃ、変装なんだろうが今時あんな小汚い化粧してコンビニに押しかけて、俺にクーポン券を渡し、ここへと誘導し、風俗嬢に扮して童貞を奪いにくるなんて回りくどい方法は取らないだろ」

「!…気づいていたのか」

「今さっき気づいたよ…90%オフはさすがにおかしい、だから、わかる。君が本当は心の優しい女の子だということを、けっして本当はビッチなんかじゃないって」

「……」

例え怪人でも戦わずに済むならそれに越したことはない。頼む…俺の声が届いてくれ、そしてあの可愛らしいツインテールの風俗嬢に戻って欲しい。

「君が俺を襲ったり、ファテナを殺そうとしたのも、全部ダークビッチナイトメアに洗脳を受けたからだろ?本当の君の意思じゃないはずだ」

「あーっはっはっはっははっは!!とんだ甘ちゃんだよ!」

「な…なんだと…」

「あたしがダークビッチの洗脳を受けている?あの方の教えをそんな低俗なものと一緒にしないで欲しいねぇ!」

「操られているんじゃない、この世の真理に目覚めさせられたのさ!あたしはあたしの意思でダークビッチの意思に従っている。だからあんたを殺すなんてわけないよ!」

「くっ…」

やはり、だめなのか。

「それに、一つわかったことがある」

「なんだ」

「甘ちゃんのあんたにあたしは殺せない…だったらあたしがあんたを殺すなんで赤子の手をひねるようなもんだってことがねぇ!!」

「ひぃ!」

襲いかかってくるクモビッチの迫力に思わず目をつぶり体制を低くしてしまう。せめてもの抵抗で拳を前に繰り出すが、こんなパンチがどれだけ効くかなんてわかったものではない。しかし、俺の体にクモビッチの攻撃が当たる気配はない。目を恐る恐る開く。

「え…」

「ぐふっ…!」

俺の拳が、クモビッチの腹へとめり込んでいた。とっさに出した右拳ではあったが、それはみぞおちへと深く深くめり込みクモビッチには十分すぎるダメージを与えているようだ。

「え…あの、その、すいま…」

「あれは…『フィストナックル』!!」

廊下の突き当たりには、体を半分だけだし、声を荒げるファテナがいた。

「は?え、これ技なの?てかファテナお前隠れてろって言っただろ!!」

「TSTベルトについている赤いボタンを押してください!」

「っ…これか!?」

左手をベルトの右腰部分に回し、彼女が示唆しただろう赤い突起物を強く押し込む、

その瞬間、俺の右手は超振動で震えだす!

「がぁぁああああああ!!ナカであばれてるぅぅぅぅううう!!」

クモビッチは白目を剥き、ガクガクと体を揺らしている。

「なんじゃこりゃぁぁあ!!」

「決まりました!『ボルチオトランサー』です!!」

「なにそれ!?なんだよそれぇ!?」

「ナカあついぃぃいいい!!焼けちゃうぅぅぅうう!!」

「それをわたしに聞くんですか?それセクハラですよー」

「ひぎぃいいいいいいいいいい!!(ビクンビクン)」

クモビッチはまるで電気ショックを受けているかのように体を痙攣させている。

絶叫を止めない口からは、涎がとめどなく零れている。

「いや、いいよ!なんとなくわかった!なんか怖い怖い、もういい!もういいよこれ!」

慌てて右腕を引き、スイッチを押しボルチオトランサーを止める。クモビッチの体は揺れこそ止めたが、あまりの衝撃に耐えかねたのか一度距離を取ろうとする。

「逃がさないで!追い打ちをかけてください!」

「はぁ…はぁ…くっ…このクソ童貞のくせにぃ…っ!あたしを…」

「…なっ」

「あたしをイカせようとしたなぁぁあああ!!」

クモビッチは憤怒の形相で俺を睨む。殺意に激った眼は真っ赤に充血している。

ここまで来たらやるしかない…脆弱な自分を気迫で嚥下させて俺は叫ぶままに足を踏み出し、拳を食らわす。

「うおぉぉぉぉ!!」

腹に一発!

「ぐはぁ!」

腹にさらに一発!

「ごへぇ!子宮が…」

「ナイスです!素晴らしいです!もうフィストナックルをものにするなんてさすがです!」

「ここで幕の内です!やつの子宮を殴って殴って殴るんです!!ガトリングフィストラッシュです!」

「ちっ…く、うぉぉぉぉ殴る殴る殴るぅぅ!!」

「おっほぉぉぉぉぉぉ!!いやぁぁ子宮壊れちゃううぅぅうううう!!」

俺は両の拳をクモビッチの顔に、胸に、腹に彼女の体を覆い尽くすように打ち込んでいく。

俺の拳は、彼女の装甲を砕き、節足を割り、子宮を刺激していく。

「がっ…ぐはっちょ…待っ…ほんとにあたし…壊れ…」

「うおぉぉぉぉぉぉ!!でやぁぁああああ!!」

よろけて後退したクモビッチに、渾身の力で下から拳を振り上げる。天まで突き抜けるような強烈なアッパーカットだ。

「ぐほぉぉぉぉっぉ!!」

渾身の右こぶしが、クモビッチのハートを打ち上げる!クモビッチがその巨体の割に重さがなかったのか、それともこの力が凄まじいのか。クモビッチはホテル廊下の天井に打ち付けられて跳ね返り、数メートル先の床に打ち付けられた。体を吹き飛ばされて悶絶するクモビッチに、もはやまともに動くだけの力は残されてはいなかった。

「くそっ…あたしは…あたしはビッチなんだ…こんな、童貞、なんかに…」

途切れた呪詛のように言葉を吐く彼女。折れた節足を支えに立ち上がろうとするが、彼女が立ち上がれる様子はない。俺は傍らに落ちていた、彼女の節足だったものをつかみとる。

「…こんなもの、君には必要ないはずだ」

「…っ!」

目を見開く彼女の前でそれを真っ二つに折って背面に捨てる。

「ざまぁありませんね!クモビッチ!今です!必殺技です!」

相変わらず遠方から指示…というかヤジを飛ばすファテナ。

「…ふぅ…わかった」

クモビッチを見据えて、一歩、二歩と少しばかり距離を詰める。

「…一体あたしに何をする気だい!」

「あたしに乱暴する気かい!エロ同人みたいに!」

「元に戻った君となら、それも悪くないかもね」

「…っ、この…変態が」

せめてもの抵抗だろう。彼女は決して屈しはしないという闘志を込めて俺を睨みつける。

「すぅー…はぁー」

深呼吸をして心を落ち着ける。そして腕を構えて

「ス…」

「スペルマシウム光線!!」

股間から白濁い光がほとばしる!動けないクモビッチはその光線を直撃するしかない。

しかも直撃してもなお股間は光線の照射をやめない。

「この光…気持いいっ…ダメっ!あたしっ…」

「さぁ!乙女の心を思い出してくれクモビッチ!」

この光が、彼女の心を浄化していく。クモの装甲を剥ぎ取り、複眼の仮面から彼女の素顔が除く。

「いやぁぁあああああああああ!!」

「さぁビッチの悪しき魂よ!彼女の心からいなくなれえええ!!」

「んほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

白濁き光が彼女の全てを裸にしていく、クモビッチはその光に耐えかねたように一際大きな嬌声を上げたかと思うと、その体を中心により眩しい光と熱い熱が瞬間的に広がり、耳をつんざくような轟音と共にクモビッチは爆発した…え…?

え?爆発!?爆発したの!?嘘!なんで!?

「この光線の名は『スペルマシウム光線』」

「その光は、かつて童貞が見た夢。清い交際という名の儚くも美しい理想の光です」

「光の中でその尊さを彼女も思い出したはずです、自分乙女だった頃の純真な気持ちを思い出したことでしょう…」

「解説はいいから!!爆発!爆発したんですけど!?」

いつの間にか隣に立っていたファテナの肩を揺さぶる。

「心配無用です。怪人は爆発するものと相場は決まっています」

「いや、全然納得できないよ!大丈夫なのこの爆発!?」

「大丈夫です、ほらその証拠に」

ファテナは爆発の中心を指差す。風に爆炎が吹きさらわれたそこには…

「裸!?」

ツインテールの風俗嬢が一糸まとわぬ姿で、うつぶせに倒れていた。

「これは艦○れや退○忍ソシャゲと同じ原理です。」

納得できるような、できないような…

「とにかく彼女の心にダークビッチはもう棲みついてません。」

「おのれ…童貞ぃぃ」

「いや…まだいるみたいなんだけど」

彼女はヨロヨロと立ち上がり、恨めしげな目を俺たちに向ける。

「これで…これで終わると思うなよ童貞…」

「…どういうことだ」

「大いなる童貞には大いなる責任が伴う」

「は?」

「お前はもう後戻りできないということだ…はははははは…ははっ あ」

笑い声は唐突に止まり、風俗嬢は糸が切れた人形のように急に倒れこむ。

俺は彼女に急いで駆け寄り、その体を抱き抱える。

「おい、ファテナ」

「はい…大きいですね」

「あぁ、なかなかの胸だ…じゃなくて!」

「はい…こんどこそ大丈夫です。気を失ってるだけでしょう」

ファテナは彼女の顔や胸に手を当てて無事をする。ホッとしたような微笑みに少しだけドキリとする。

「さぁ、もうこれ以上ここにいる意味はありません。面倒になる前に離れましょう。」

遠く、サイレンの音が聞こえる。相当に暴れたからな、誰かが通報したのだろう。確かにここは彼女の言うとおりだ。

俺は肯き、名も知らぬ風俗嬢を適当な部屋のベットの上に横たえてから、その場を後にした。


//


「あ、元に戻った…」

「エネルギー切れですね…変身していられる時間は10分といったところでしょうか」

あの騒動の後、俺はファテナを連れてホテルから数件離れたビルの屋上にいた。

「では、説明を続けますね」

俺たちがここにいる理由は、ファテナから今回の件の説明を受けるために人目のない落ち着いた場所が必要だったということ。

それとさっきのホテルの様子が気になったからだ。

ホテルは多数のパトカーと救急車、それと無数の野次馬に囲われている。

「あぁ、もういいよ。大体わかった」

説明のほうは、俺が気になっていた部分に関してはほぼ解決した。

ファテナは異世界の住人で、悪の組織ダークビッチナイトメアに彼女の国『チェリーガーデン』が滅ぼされたこと。

ファテナがチェリーガーデンの生き残りでダークビッチナイトメアに対抗できる戦士を探していたこと。

そして、その戦士の素質が俺にあったこと。

「では、これからも戦ってくれるのですね!」

「あぁ…いたいけな少女を怪人にするなんて非道、許しておけないもんな」

ダークビッチナイトメアの目的とか、そもそもなんで俺にそんな素質が備わっていたのかとか疑問はあったが、それは急を要する問題ではない。


「でも、今日は疲れたからな…終電はないし、用が終わり次第ネカフェかどこかに行きたいよ」

「?用とは」

「ん?それももう済むよ」

「…あ」

ファテナは俺の視線の先に気づいたようだ。

そうだ、ホテルの入口では今まさに若い女性がタンカーで搬送されてくるところだ。

(彼女だ)

そう、クモビッチだったあの風俗嬢が今まさに救急車で搬送されていく。

彼女は依然気を失ったままではあったが、その顔は安らぎに満ちているように見えた。

かつてのビッチの面影はどこにも見えない。

「……」

彼女を乗せた救急車の赤い光が道路を遡っていく。

俺とファテナはその光が視界から消えるまでいつまでも、いつまでも見送っていた。


//


「あなたが救ったんですよ、おにーさん…」

無言でネカフェまで歩く中、ファテナが唐突にそう言った。

深夜一時過ぎ、いくら駅前とはいえ人の姿はまず見えなかった。

「…あそこで、変身できるようになってなかったらやられてたよ。運がよかっただけだ」

「それでも、その運を掴んだのはあなたです」

「そうかな」

「そうですよ。だってあなたは、あそこで逃げてもよかった。実際わたしは逃げてもらうつもりでした」

「でも、あなたは逃げなかった。その選択があったからこそあなたはあの状況で誕生日を迎え、ベルトと共鳴し、変身した」

「だから、今日わたしとあの女性を救ったのは、運でもまぐれでもなくあなたの選択なのです…本当に、ありがとうございます」

そうだな…俺が救ったんだよな

俺が、ヒーローとして人を救った。そのことに言いようのない充実感を感じる。

にやけそうになる口元を必死に抑える。

「さすが、わたしが見込んだ童貞です」

そんな誇らしい気持ちも、彼女の一言で台無しだ。

「…っ、兜守だ」

「え」

「兜守恭一が俺の名前だ」

体を半回転させて、ファテナを正面から見据える。

「名前…まだ、言ってなかっただろ。お前知らなかったんじゃないのか?」

「あ、はい寡聞にして聞き及んでいませんでした」

「それにあまり、童貞言わないでくれ…その、気にしているんだ」

「あ…すいません、デリカシーがなくて」

「あ…あぁ…」

これ以上話すことを考えてなかったのと、このまま歩き始めてしまえば気まずい雰囲気を引きずってしまいそうなのとで、互いに次の動きに移れない。沈黙が一体を支配する。

こんなつもりではなかったのにと、申し訳なさに顔が下がる。

「…ではキョウイチさんと、そうお呼びして構いませんか」

「はひぃ!?」

反射的に顔を上げる。

「えと…キョウイチさんはお気に召しませんか?」

「っ…いや、うん、それでいい」

まさか、いきなり下の名前だとは思わなかったから驚いた。それにしてもファテナの言動にはいちいち驚かされてばかりだ。俺は出会ってから彼女に不意打ちされてばかりだ。

「これから、よろしくお願いしますね。童て…キョウイチさん」

「いまのわざとだろ…」

「えへへ、どうでしょう」

「はぁ~童貞捨てるかぁ…」

「えっ!?」

「今日は流れちまったけど、また風俗には行って童貞捨てるか」

そうすれば、ファテナに童貞と揶揄されることもなくなる。

それにそうだ!

バイト先の泉美ちゃんとおしゃべりを楽しむっ!俺はそのために風俗に言って童貞を捨てる決心をしたのではなかったのか。

怪人に襲われたこと、そしてヒーローになってしまったことぐらいでそれを挫く俺ではないのだ。むしろヒーローたるもの一度、決めたことは最後までやり遂げなければ…

「それは困りますキョウイチさん!」

「あ…なんでだよファテナ」

「二つの理由からそれはおすすめできません!!」

「おいおいおいおい、なんだよ、ヒーローは風俗言っちゃいけないとかそんな理由じゃないよな」

「いや、そういう…いえそういう理由もあるのですがまず一つ」

「…なんだよ」

「日本の全ての風俗、キャバクラはダークビッチナイトメアの管理下にあります」

「はぁ!?」

「だから、ダークビッチナイトメアを滅ぼさない限り風俗に行っても、キョウイチさんはその度に怪人に襲われることになりかねません」

「なん…だと…」

確かにそれは困る…元は人間とは言えクモ怪人やら何やらで童貞を捨てたくはない…

「後もう一つの理由です」

ファテナはズビシッと右手の人差し指で俺の鼻先を指し、そして宣言した。

「だってあなたは童貞マンですから」

「……え?」

ナニヲイッテイルンダコノムスメハ?

「童貞マンは童貞にしかなれません、というか名前的にわかるでしょ」

「…いやいやいやいや、童貞マンって…いや、なにそれ」

「あなたは童貞マンになったんですよ?忘れたんですか?」

「え…」

『さぁ私と契約してください!童貞マンとなって悪と戦うのです!』

「あ…」

「思い出していただけましたか」

そうだ…確か、ファテナと初めて会った時、彼女は俺のことを…

つか、あの怪人が俺の童貞にこだわっていたのはそういう…

「え…は、でも…それって…ええぇぇぇぇぇええええ!!」

「それにしても、今日がキョウイチさんのまさか誕生日だなんて、運命的ですね」

「そんな運命感じたくないィィ!!」

「ハッピーバースデー童貞マン」

「やめてくれぇぇぇ!!」

童貞だから童貞マンで、童貞マンだから童貞…

あぁぁぁ!と絶叫する深夜の駅前夜半過ぎ。

5月にしては冷たい風が俺の心にまで吹きすさぶ。

「とにかく童貞を捨てるなんて考えないことです。童貞マンは童貞でなければその力が使えませんから」

「いやだぁああああ!!」

「なにも泣くことないでしょう?童貞捨てるなんてどうせ無理だったでしょうし」

「言うなばかぁぁああああああ!!」

「じゃあ、なんだ俺、ヒーローである限り女の子とHできないってことなのか?」

「はい。もちろんそんなのわたしが許しませんよ」

えっへんと胸を張るファテナ。そこは自分に任せておけとでも言わんばかりの姿勢だ。

「なっ!!」

「だって、これからもダークビッチナイトメアはあらゆる手段でキョウイチさんの童貞を奪いにくることでしょう」

「…いや、俺の言いたいのはそういうことじゃないんだよぉぉぉ!!」

「大丈夫です。心配無用です、キョウイチさん」

「なにも大丈夫じゃないし!!ホントお前ふざけんなよ!」

「あなたの童貞は、わたしがきっちり守って上げますから」

「話きけよおいぃいいい!!」

とんでもないことを、これ以上ない満面の笑みでファテナは言う。

その笑顔は全く悪びれる様子もなく、無邪気そのものの表情だった。

「やっ…」

「や?」

「やめるぅぅうううううう!!童貞マンやめるぅぅううううううう!!」

俺は、叫んだ。

深夜の街中であることもはばからずに、思いの丈を叫んだ!

「そんな!考え直してください!これは不良童貞の再利用なんです!エコなんです!地球に優しいんですよ!!」

「ふっざけんなぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!ちくしょおおおお厄日だ!やっぱり今日は童貞厄日だぁあああああ!!」

「どこへ行くんです?待ってくださいキョウイチさん!キョウイチさんは最後の希望なんですってばぁー!!」

夜の闇に虚しい男の叫びがこだまする。

こうしてニューヒーロー童貞マンは誕生した。

しかし、童貞マンと悪の組織ダークビッチナイトメアの戦いは始まったばかり。

負けるな童貞マン、戦え童貞マン。

君の童貞が、散らされ、捨てさられるそのときまで。



「童貞マン、大地に勃つ」了

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童貞マン~冴えない俺は純潔のついでに世界まで守っちゃうんだぜ~ くじらジオ @kuzirazio

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