第165話 吾輩は『タダより高いもの』はないと思う

吾輩は、ダイクソ~からの帰り道を歩く。屋敷に向けて。

「旦那、いちごぱんも買ってしまえば、いいじゃないっすか?」

「うん?」

「私たちだけ、ご褒美貰うなんて・・・悪いっすよ♪」

「セバスチャンは・・・色んなことが見えてるんだな」

「うん?」


このこうもりは・・・吾輩より頭がいい。

困ったものだ・・・。


吾輩は、その気無しにパン屋の前を通りがかる。パン屋の前で掃除をしている女の子がいた。

「あれ?アインツさん?」

「あれ・・・いちご。何やってんだ?まだ、閉店前だろう?」

「お客さん来ないから・・・そろそろ店を閉めようと思って。片づけ中です」

「そうか・・・そういう日もあるだろう」

「旦那、買わないんすか?」

「閉店してるのに、買うのは失礼だろう」

「うん?」


いちごが首をかしげて、吾輩を見ていた。

「もし、よろしかったら、廃棄になる、いちごぱんいりますか?」

「えっ?」

「ちょっと、待っててください!!」


慌てた様子でいちごが、店の中に戻っていく。

「旦那、ラッキーですね♪」

「いや・・・悪いよ・・・タダとか・・・金は払おう」


いちごが戻ってくる。袋に詰めたいちごパンを持って。

「これどうぞ!!」

「120円と消費税だな」

「御代は結構です。お金などはいりません。対価はもう頂いております♪」

「あれ?」


どこかで聞いたような・・・キャッチコピーだな・・・。

まぁ、いいか。そんなことは・・・。

それより!!

「いちご!!商売というのは、金を貰わなくては成り立たない。タダで何かやるという良くないぞ!!」

「ふふふ♪いいんです♪たまにの、お客様感謝デーです♪」


また、この笑顔だ・・・。ったく。

世の中の厳しさを知らなすぎる・・・。騙されるぞ・・・。

そんなことばかりやってると・・・。

「どうぞ♪」


笑顔でパンを差し出してくる、いちごにとまどいながらも、吾輩はそれを受け取った。

「ありがとう・・・おいしく頂くよ」

「ぜひ♪」

「また、来る・・・」

「ハイ!!」


吾輩は帰り道を歩いていく。考えながら。

タダでパンが手に入って・・・。好物が・・・。

けど、世の中に『タダより高いものはない』という言葉がある・・・。

まさか!!

また、毒をもっているのか!?けど、毒であってもおいしいものは危険だ・・・。

やめる意思が必要だからな・・・。

どうしよう・・・?

「旦那、毒入りとか考えてません?」

「よく・・・わかったな」

「入ってませんよ。そんなの♪」

「・・・そうだな♪」


吾輩は、緑が咲き誇る坂道を下っていく。

今日はいい日だ。きっと。


≪つづく?≫

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