僕と私は交差点で
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#01 はじめまして、メロッテさん
「えーっと、あとはこのメールに書かれたリンクをクリックして……と」
アカウント登録の時のお決まりの儀式。メールに書かれた長ーいリンクをクリック。登録はこれで完了だ。
「こういう名前のサイト、昔もあったよね。del.cio.us……だっけ?」
「で、こっちは『junc.ti.on』か」
junc.ti.on。ドットを取ると「junction(ジャンクション)」になる。これ、確か交差点って意味だっけ。
サイトの説明によると、知らない人同士が交錯する「交差点」の役割を担うことを願って付けられたらしい。うーん、いかにもありそうな感じだ。既出じゃないのかな、この名前。
「フミコさんが『全然知らなかった人とも仲良くなれる』って言ってたけど、実際どんな感じかな」
アカウントとパスワードを入力するように促すログイン画面。それを見つめながら僕は呟く。
僕はすばる。時任(ときとう)すばるだ。なんだか女の子みたいな名前してるって? もう言われ慣れてるよ。ま、中性的な名前を持つ人なら、避けては通れない道だね。
趣味って言うほどじゃないかもだけど、絵を描くのが好きだ。pixiaってお絵描きソフトを主に使って、pixivってサービスに投稿してる。
「ときどき間違えちゃうんだよね。ソフトの方がA、サービスの方がVなんだけどさ」
よし、今回は間違えずに言えたぞ。って、それはどうでもいい。
これだけでもまあ楽しかったしそこそこ充実してたんだけど、そのpixivで知り合った人(普段はポケモンの絵を描きまくっている。特にドーブルっていう、絵描きの犬みたいなのをしょっちゅう描いている)から、おもしろいサイトがあるって話を持ちかけられた。
「で、それがこの『junc.ti.on』ってわけさ」
サービスインしたのは一ヶ月ほど前の九月ごろ。ちょっとだけ調べたところによると、「タイム・インタラクティブ」って名前の海外企業が運営してるらしい。いわゆる、SNSのひとつだ。
タイム・インタラクティブ(Time Interactive)だから、略して「ti」。このサービスのネーミングのために、国コードが「.on」になってるホンジュラスにサーバを置いたらしい。で、サブドメインを「junc」にしたと。ドメイン名がそのままサービス名になってるのは、分かりやすくていいと思う。
サイトが謳っているのは「まったく見知らぬ同好の士との高度なマッチング」だ。Twitterなんかにも「おすすめのユーザー」ピックアップしてくる機能はあるけど、あれよりずっと高度で洗練されてる……と、もっぱらのウワサだ。
その特徴を表わすキャッチコピーとして運営が使っているのが、「わたしとあなたの交差点」って言い回しになる。この間見かけた新聞広告にもでかでかと書かれていたから、よっぽど自信があるんだろう。
「フミコさんも『ビックリするくらい趣味の合う人とどんどん繋がれる』って喜んでたっけ」
あんまり楽しそうにしてるものだから、初めはスルーしてた僕も気になってきた。今なら全サービスを無料で利用できるし、登録って言ったって五分も掛からない。男は度胸、なんでも試してみるものさ、の精神で、僕も会員登録してみた。
登録って言っても、必要なのは希望するアカウント名とパスワード、それから認証用のメールアドレスだけでいい。ほかの個人情報、例えば本名や生年月日なんかは一切要求されない。その個人情報を集める気の無さが気に入った。
アカウント名は深く考えずに、ほかのサービスでも使っている「pleiades045」にした。ネットの知り合いが僕を探すときに便利だろうし、僕も慣れててやりやすい。名前の由来? 見ての通りさ。
必要な内容を記入して登録ボタンを押すと、十秒と掛からずにいわゆる本登録用のメールが送られてきた。アルファベットと数字が暗号よろしく並んだリンクをクリックして、これで晴れて僕もjunc.ti.onの会員になったってわけだ。
「じゃ、早速」
さっき設定したばかりのアカウントとパスワードをフィールドに入力して、新しい場所へ繋がるドアでも開くようにエンターキーを押す。Firefoxがログイン情報を記録するかと訊ねてきた、これは「はい」だ。次からは入力の手間が省ける。
ログインに成功してホーム画面が表示される。まずは画面構成を確認して、運営がこのサービスをどう使うことを推奨しているかの空気を読むとしよう。
まず、画面の中央にあって一番幅が取られているのが、Twitterのそれによく似たタイムラインだ。まだ誰も登録していないけれど、既にいろいろな投稿が流れてきている。雰囲気としては、Wii Uのホーム画面で放っておくとMiiverseへの投稿がランダムに表示されるあれに近い。
右側には多くの人が口にしている話題やキーワードが表示されている。これはよくあるトレンドなんちゃらってやつだね。左側にはまだまっさらなフレンドリスト。そのうち賑やかになるだろう。最後に画面上部、ここにはユーザや投稿を探すための検索ボックスと、アカウント管理画面へのリンクがある。
そして全体の色合いは、変更できるんだろうけど薄紫色で統一されている。きっと、なるべく既存のサービスと被らないカラーを選んだらこうなったんだろう。
「僕はゲームにしてもソフトにしても、使い始める前にまずヘルプやマニュアルを読むタイプでね」
誰に言うわけでもなく呟いて、アカウント管理リンクの隣にあった「?」アイコンをクリックする。
「タイムラインは……ふむふむ。趣味の近い人の公開投稿が、時間順に流れてくる、と。リコメンド順にもできるけど、初期設定は時系列順になってます、と」
「フレンドになると、お互いに個別の会話ができるようになります、か。ファイル送信とかミニゲームとか、フレンド同士でだけ利用可能な機能もあるみたいだね」
ヘルプは平易に書かれていて分かりやすかった。これはいいことだ。全体として、タイムラインへの投稿はパブリックな広場、フレンドとの会話はプライベートな個室に例えられている。使い方のヒントとして、タイムラインで気の合いそうな人を見つけてフレンドになろう、とも。
というわけで、junc.ti.onの主軸はタイムラインにある、そう判断した僕は、ぼーっと投稿されてくるポストを眺めることにした。
『しごおわ』
『めしった』
『ぬこかわいい』
あれだ、Twitterの方のタイムラインにもしょっちゅう流れてくる類のポストがずらずら並んでいる。反応するもよし、スルーするもよしのお気楽なポストだ。こういうのがぽつぽつ目に入ると、なんとなく自分は一人じゃない感じがしていい。
『新刊作業中……冬コミ入稿まであと一歩だぞい』
『カクヨムに投稿しました。ループに巻き込まれた女の子が脱出のために奮闘するお話です。http://……』
『( ;>Д<) 落書き眼鏡さんズです。後ろから抱きつく構図はいいですね ('ω'*)』
日常的なつぶやきに混じって、進捗具合や書いた小説・描いた絵へのリンクも流れてくる。僕もpixivに絵を投稿した後宣伝がてらタイムラインに投稿するけど、ほかの人のを見てると自分の創作意欲が刺激されるのが分かる。次はあれだ、ちょっと格好いい女の子、例えば弓道をやってる女の子の絵が描きたかったんだった。下書きを始めようかな。
とまあ、どうやっているのかは分からないけれど、タイムラインには僕が興味を持っていそうなポストが次々に流れてくる。なるほどこれは楽しそうだ、そう思って、僕は五分ほどそのまま観察を続けていた。
「おっと、忘れてた。フミコさんをフレンドに登録しなきゃ」
junc.ti.onのことを教えてくれた知り合いのポストが流れてきて(どんなサービスでも同じアイコンを使ってるから分かりやすいんだ、あの人は)、フレンド申請をしようと思い立つ。
フミコさんのホーム画面へ飛ぶためにアイコンをクリックしようとした矢先、フレンドリストがある左の通知欄に、一件の新着通知が来ているのが見えた。
手を止めてそちらを展開すると、「おすすめのフレンド」として見知らぬアカウントが紹介されていた。アイコンはデフォルト設定のままで、ほかに特段変わったところは見当たらず、って感じで。
「アカウント名は『melotte22』……この人も今日、それもついさっき登録したばかりみたいだ」
アイコンからmelotte22のホーム画面へ飛ぶと、僕と同じまっさらなフレンドリストに、登録日として今日が表示されている。時間もまったく同じ、20時17分。ちょっとだけ運命的なものを感じちゃうね、いや、もしかするとそれを話のツカミにしてくれっていう、junc.ti.onからの無言のメッセージなのかも。
さて、僕にはmelotte22なんてアカウントの知り合いはいない。ほかのサービスでは別のアカウントを使ってるかも知れないけど、さすがにjunc.ti.onといえどよそのサービスのことは分からないだろう。いきなり話し掛けちゃっていいのかな、と僕は高校に入学したての頃のような気持ちになる。
で、一分半くらい迷ってから。
「……物は試しだ。このジャンクションってサービスがどれぐらい当てになるか、これで試すのもアリだよね」
知り合い曰く、junc.ti.onは今まで全然知らなかった人ともどんどんつながりを持てるようになるらしい。僕もそれが目的で登録したわけだ。おすすめなんて言うんだからおすすめに違いない、ここは大胆に突撃すべきだね。いや、もちろん丁寧にだけど。
僕はmelotte22のホーム画面にあった「フレンド申請」ボタンを押した。メッセージ入力のためのウィンドウがポップアップする。
「はじめまして。プレアデスという者です。通知欄の『おすすめのフレンド』にmelotte22さんが紹介されていたので、メッセージを送らせていただきました。今日登録したばかりで右も左も分からぬふつつかものですが、よろしければフレンドになってくださるとうれしいです。よろしくお願いします」
長すぎず短すぎず……こんな塩梅か。ちょっと長い? いや、あんまり短くても怪しい感じがするし、これくらいかな。
誤字脱字のチェックをしてから「メッセージ送信」ボタンを押す。趣味とかは、仲良くなってから話せばいいや。まずは繋がりを持つのが先決――
『1件のフレンド申請があります』
なんて気楽に構える間もなく、新着メッセージの、それもフレンド申請のメッセージが届いた。慌ててメッセージボックスを見てみる。
送り主のアカウントには、見覚えがあった。
「『melotte22』……さっきフレンド申請したばっかりなのに、向こうからも来るなんて」
なんともまあ不思議なこともあるものだ。そう思いつつメッセージを開くと、僕はまたビックリさせられてしまって。
「……『はじめまして。メロッテという者です。通知欄の『おすすめのフレンド』にpleiades045さんが紹介されていたので、メッセージを送らせていただきました。今日登録したばかりで右も左も分からぬふつつかものですが、よろしければフレンドになってくださるとうれしいです。よろしくお願いします』……ふつつかものって表現、流行ってたっけ」
僕が書いたものとほとんど同じ文面が、そこにはあった。差異はお互いのアカウント名にしかないから、これはもう事実上の完全一致と言ってもいい。
まあ、文面はごくありきたりだ。被っちゃってもおかしなところはないし、それはそれということで構わない。ただ、お互い同時にフレンド申請のリクエストを送る、なんてのはそうそうあるまい。向こうも驚いてるんじゃないかな、きっと。
(文面を即座にコピーして反射してくるbotとか……そんなんじゃないよね?)
向こうに生きた人間がいるのか、ちょっとだけ不安な気持ちになりつつ、melotte22からのフレンド申請を承認する。僕が承認すると同時に、僕のリクエストも承認された。僕のホーム画面とmelotte22のホーム画面をそれぞれリロードすると、お互いのアイコンが追加されたのが見えた。
それと共に、melotte22のホームに「melotte22とセッションを開始する」というリンクが追加されていた。ヘルプを当たると、これを使えばTwitterのダイレクトメッセージやSkypeの通話のように、プライベートなやりとりができるみたいだ。お互いのフレンドリストに入っているアカウントなら承諾を得た上でセッションに招待することもできるから、どちらかというとSkypeのそれに近い。
「へえ、ボイスチャットもできるのか。こりゃますますSkypeだね」
セッションはテキストだけでなくボイスチャットもサポートしている。設定を変えてボイスチャットを許可すればいいらしいから、早速許可の設定をする。
見ると、melotte22もボイスチャット許可のマークが付いていた。ならこっちを使った方が手っ取り早い。L4D2を遊ばなくなってから隅っこに放置していたヘッドセットを装着して、相手の準備が整うのを待つ。
ほどなくして相手も準備が完了する。軽く咳払いをして、呼吸をちゃんと整えて、マイクをオンにして、なるべく穏やかなトーンを意識して。
「こんにちは『こんにちは』……」
お互い見事にカブってハモって。あんまりぴったりだったから、僕も相手もかえって戸惑ってしまって、次に続く言葉が出てこない。
「え、えーっと……プレアデスさん、でいいですか?」
「あ……うん、それでいいですよ、メロッテさん」
とりあえず、挨拶はできた。ツカミはまあまあ良さそうってところか。声が加工されていない限り、melotte22――メロッテさんは女の子だ。それも、恐らく同年代の。
どういう技術を使っているのかはサッパリ分からないけど、僕やメロッテさんが発言すると、その三秒後ぐらいには完璧な漢字変換がされたテキストログが画面にも表示される。ボイスチャットの音質もやたらクリアで、ともすると生の声かと勘違いするレベルだ。
junc.ti.onには最新のテクノロジーがつぎ込まれてるって自画自賛してたけど、こりゃあながち誇大広告とは言えないな、なんて僕がうなっていると、メロッテさんとの会話が止まってしまったことに気付く。
(何から話そうかな……いきなり自分のことをべらべら話すのも興ざめだし、かと言ってメロッテさんのことを根掘り葉掘り訊くのも失礼だし)
まずは何から話そうか。お互い接点が無くて勢いでフレンド申請したものだから、ちょっと悩んでしまう。それはメロッテさんも同じみたいだった。
何かこう、話すためのきっかけが欲しいけど、探してたって見つからない。流れを作ってそれから考えよう。その方がいい。
僕はあまり前後を考えずに、とりあえず呼び掛けてみた。
「あの『あの』」
二度あることは、三度ある。
僕もメロッテさんも少しの間硬直してしまって、それから僕は思わずぷっと吹き出してしまった。フレンド申請のメッセージに最初の挨拶、それからさっきの呼び掛け。こんなにもカブるなんて、なんだかどうかしている。
ヘッドセットの向こうで、メロッテさんも笑いをこらえているのが聞こえてくる。そりゃそうだよ、こんなに続いたら、誰だって笑い出すって。
「あれだね、うん。また同時になっちゃったね」
「ごめんなさい、あんまりおかしくて、なんだか笑っちゃいました」
「もうね、僕もだよ。こんなことあるのかって感じでさ」
僕らは揃って滅多に無い経験をしたわけだけど、おかげで空気がすっかりほぐれたのを感じた。これならお互い、気楽に話せるはずだ。
「あの、プレアデスさん。もしかして、男の人ですか?」
「そうだよ。声を加工したり、ソフトークに喋らせたりはしてないから、そのまま地声だね」
「ソフトークって、あの、ゆっくりの声のツールですよね?」
「うん。ホントは目の不自由な人とかが、ホームページを読み上げさせたりするのに使うソフトなんだけどね」
「あっ、そうなんですね。ええっと、あと……その、人間の方、ですよね?」
この質問で、僕はまた笑ってしまった。あんまり笑うと失礼かもしれないけど、でもさすがにこれは笑うだろう。
「もちろんだよ。あれだよね、サクラとか人工知能とか、そういうのじゃないかってことだよね?」
「えーっと、はい。あんまり息がピッタリだったから、実はプログラムとかじゃないか……って思っちゃって」
「正真正銘人間だよ、中の人とかじゃなくて。正直、僕もちょっと似たようなこと考えてたりしてたんだけどね」
メロッテさんが朗らかに笑う声が聞こえてきた。おしとやかな感じで、いい声だな――僕は自然と、メロッテさんに好感を持っていた。
「知り合いから聞いて、今日ここ、ジャンクションに登録したばっかりなんだ」
「私もなんです。部活の友達がハマってて、登録の仕方を教えてもらって、それで」
「なんか、昔のミクシィみたいな広まり方だね」
「あれ? あそこって、ゲームの会社じゃないんですか?」
「本業は一応、フェイスブックみたいなソーシャルネットワークだよ。確かに今はゲーム会社みたいだけどね」
会話に一瞬隙間ができたところで、僕もメロッテさんに質問を投げかける。
「ええっと、声からして、メロッテさんは女の子……かな」
「はい、高校二年の女子です」
「そっか、やっぱり同い年だったんだ。僕も同じだよ、高二の男子」
「あっ。プレアデスさん、『やっぱり』って言いましたよね。なんか、私もそうじゃないかって思ってて、同じように『やっぱり』って思ったんです」
「うーん、つくづく思うよ。不思議なこともあるものなんだね、ってさ」
こんなやりとりをしていると、またお互いに可笑しくなってきちゃって。
「なんだろうなあ、たぶんどっちも素で話してるんだろうけど……」
「これじゃ、サクラ同士が会話してるみたいになっちゃってますね」
「キツネとタヌキの化かし合いみたいだよね、なんかさ。違うって分かってるんだけど」
メロッテさんが笑って、そして僕も笑う。とても朗らかな声だ、いつまでも聞いていたくなる。こうやってメロッテさんと話ができたんだから、junc.ti.onのウワサはあながち嘘でもなさそうだ。
二人してひとしきり笑ってから、僕がヘッドセットを直しながらメロッテさんへ声を送る。
「なんだかすっかり気持ちがほぐれちゃった。これからもよろしくお願いするね、メロッテさん」
「こちらこそ! あっ、すごいこれ」
「どうしたの?」
「さっきのメッセージですけど、声が大きいとちゃんとビックリマーク付くんだ、って思って」
「なるほど……ホントだね!」
わざと大きめの声で言ってみる。テキストにビックリマークが付く。僕もメロッテさんも笑う。今の僕らなら、ホントにちょっとしたことで笑い合えそうだ。
こんなに笑ったのは久しぶりかも知れない。普段が陰鬱な気持ちってわけでもないけど、こんなに笑うことも滅多にない。腹の底から笑うってことはいい気持ちってことで、つまり楽しい気分でいるってことだ。
ラップトップの隣に置いているデジタル時計に目をやると、もうすぐ23時になろうとしているのが見えた。楽しい時間が終わるのは名残惜しいけれど、そろそろ寝ないと明日に差し支える。同い年なら、メロッテさんにも学校があるはずだからね。
「もうこんな時間かぁ……夜更かしし過ぎると、明日の朝が辛くなっちゃうからね」
「明日も朝練あるから、私も寝なきゃ。プレアデスさん、えっと……また明日」
また明日、か。
僕は照れくささと嬉しさが綯い交ぜになった気持ちを味わいながら、穏やかさを意識した口調で応える。
「また明日。いい夢見てね、メロッテさん」
その言葉を最後に、僕らの初セッションは終了した。
ヘッドセットを外して横へ置くと、開いていたウィンドウをAlt+F4でどんどん閉じていって、最後にシステムも同じようにシャットダウンする。
ファンの音が止んで、しん、と静まり返った部屋の中で、僕は大きく息をついた。
「話に夢中になってると、時間が経つのが早く感じるな……あっという間だったよ、ホントにさ」
濃密な時間を過ごした後の心地よい疲労感。その余韻を味わいながら、メロッテさんと交わした言葉を思い起こす。
なるほど、junc.ti.onのキャッチコピー「わたしとあなたの交差点」に偽りは無い。新しい出会いがあるってのはホントだったってわけだ。普通こういうのってコピーに実態が伴わなかったり名前負けしたりするものなんだけど、どうやらそうではないらしい。
「よし。明日からはもっと、いろんなことを話すぞ。せっかくの出会いを大事にしなきゃね」
未だ鮮明に残るメロッテさんの綺麗な声を脳裏に思い浮かべながら、僕はそのままベッドへインしようとしたわけだけど。
「……あ。お風呂入ってないや」
ま、あるあるだよね、こういうことは。
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