それのために

 春空は突き抜けるように青い。夜間に降った雨に余計なものはみんな洗い流されたかのような早朝の空気は、どこかさっぱりとしていて気持ちよかった。

 メインストリートに面した場所に立っている止まり木は、出た瞬間から人でごった返していた。朝市場だ。

 

 テントは不規則に並んでいて、食材から布、軽食から鍋まで様々な商品がその下で売られていた。黄色いテントからは食欲をそそる匂いがする。パンに香草で焼き上げた肉とレタス、チーズを挟んだサンドイッチを売っているそのテントは、朝市の名物だと咲也子はミリーから情報をもらっていて。ティオヴァルトに頼んで7つ買ってきてもらい、いつもの場所で食す。


 咲也子がうっかり甘い匂いにつられてのぞき込んだ、ねじった揚げ菓子を売っている屋台に気をとられ、ティオヴァルトに置いていかれそうになったのは秘密だ。ちなみにその時から人ごみでは手をつなぐかティオヴァルトに抱っこしてもらうことが決められた。


 ボリュームのあるそれをひんとティオヴァルトで3つずつ平らげて、普段朝ご飯は食べない派の咲也子はティオヴァルトに一口貰うことでその味を知った。

 余ったひとつは情報料としてミリーに渡したところ、初めてのおつかいを達成させた子どものようにフードをかぶった頭をなでこくられた。解せぬ。


 食後には自販機で買ってきた飲み物を飲んでベンチでまったりと過ごす。

 ひんが咲也子の肩にすり寄ったり、咲也子がひんのウサギのような耳をなでてじゃれあっているのをティオヴァルトはぼんやりと見つめていた。平和である。正直、数日前まででは考えられないような奴隷生活である。

 もっとこう、なんか、違うだろう。奴隷として。とティオヴァルトの中の奴隷根性というか何かが告げていたが、そんなことはさらっと無視する。平和ならそれでいい。

 

 そんなこんなで朝は過ぎ去った。お昼の分の食べ物を食堂であらかじめ調達すると、神殿に向かって出発した。


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