オープンテラスに通じる廊下の自販機で、苺ミルクを3本購入する。意外にも甘いもの好きだったらしく、ティオヴァルトに選ばせてみると迷わずに咲也子たちと同じボタンを押した。

 

 オープンテラスには黒い石でできたテーブルとイスが複数置いてあり、そこにまばらに座る人たちを通り過ぎ、5分ほど歩いたところにある水中の石が確認できるほど澄んだ大きなため池の前にある木造のベンチを陣取る。


 このあたりになると電灯もなく、オープンテラスからの光も届かず暗くなっていて人気もなかった。明るい方がいいのではないかと聞いてくるティオヴァルトに首を振って、ウエストポーチのチェーンから外したカードを見せる。


「ひんがいるか、ら」

「テスターか?」


 そう、と咲也子がうなずくと同時にカードの薄桃色の魔石部分から白い光が放射され池の中にひんを形作る。

 知性の感じさせる穏やかな目と幾重にもなった白い翼、とぐろを巻きどこか光沢のあるなめらかな白い鱗に包まれた胴体が満月に反射して、神々しく見えた。独特の模様が入った3枚の尾先は優雅に揺れている。


「<壮麗>の・・・ノギありか」

「ん? ・・・うん」


 稀少種と希少種。ノギへんがあるかないかで大きく変わるその性質を、冒険者たちはノギあり、ノギなしと呼んでいるようだった。ひんの進化前は<災厄>だった、ということを咲也子が教えると驚いた顔が見られたことから、まだ進化に関しての研究とかが進んでいないのかなと咲也子は思った。


 ひっそりと眉をしかめるティオヴァルトの困惑を近くにあった唯一の電灯がぼんやりとそれを映していた。


「【アイテムボックス】」


 空中から引き出すように手を動かし、【アイテムボックス】から皿を2枚とマグカップを2つ出す。あっさりと使われている革命以前の魔道具たち。一つで夫婦が一生を遊んで暮らせるといってもいいほどに価値のあるそれにティオヴァルトの困惑は止まらない。


 眉間で銀貨が5枚ほど挟めそうだなあとその様子を見る咲也子に悪気などは一切ない。大金といい、ノギありのテスターといいなんだこいつと言わんばかりの雰囲気だったが咲也子はするっとそれを無視した。

 

 昼の陽気で温められたはずの空気は日が暮れると一気に冷え込んで冷たい風が一陣吹いた。寒いとまではいかないものの、冷たいそれに咲也子は2枚の皿に苺ミルクとコーンスープを入れひんの前に差し出す。今度はマグカップにコーンスープを注いでティオヴァルトと自分の前に置いた。


 本来であれば奴隷がすることなのだろうが、咲也子は気にしていないというか、気づいていない。むしろティオヴァルトの方がそれでいいのかと言わんばかりに居心地悪そうに身体をもぞもぞと動かした。


(そんなに気にしなくてもいいのに)


 咲也子の中で‘暴食‘がまだ知らぬ知識を求めて暴れ、一瞬目が青く光る。瞬きでそれを抑え込んで、フードを外す。聞きたいことは山ほどある。でも、それを尋ねるのはきちんと食べて飲んでもらってからでも遅くはないはずだ。

 バスケットを開けて、手を胸の前で合わせる。


「いただきま、す」

「ふぃぃぃん!」

「・・・」


 無言で手を合わせて礼を取ったティオヴァルトに、咲也子はうなずいた。

 長くなる話は食事の後でいい。


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