第18話 竹の子
「そろそろ竹の子の季節だよねー」
「突然どうしたのアイちゃん」
「いや、この時期になると竹の子料理作って翔太君に食べてもらってるの」
いろいろアイちゃんは攻めているな。だけど、竹の子か。スーパーとかで売ってるのかな?
「何処に買いに行くの?」
「はあ? 何言ってんの、竹の子を買う訳ないじゃん。折角山から生えてきてるのに」
アイちゃんは首をかしげながら不思議そうに言う。
「よし! 丁度いいわ、夜子ちゃん。竹の子取りに行こう」
アイちゃんは両手を合わせて、パンっと鳴らした。
__という訳で、今日の私たちの予定はアイちゃんの一言で決まった。
竹の子取り。結構、近所の人はしてるのだろうけど、私はこれが初めて。どうやって取るのかはよくわからない。私がそういうとアイちゃんは。
「大丈夫、大丈夫。私が取るから、アンタは取ったヤツの皮剥いて。ビニール袋と包丁は用意してね、私はスコップ持っていくから」
と慣れた様子で説明してくれた。
アイちゃんが自転車を運転して、大きめのリュックサックを背負った私はアイちゃんにしがみついてここまで来た。
ちなみにスコップはアイちゃんが自転車の前カゴに落ちないように差し込んだ。
自転車を二人乗りして近所の山に行く。
「さあ、着いたわね」
と言ってもここは……翔太君ん家の山だ。
「ねえアイちゃん、勝手に人の山から竹の子取ってもいいの?」
「いいの、いいの。昔から許可貰ってるから」
何でもない様に言う、これが幼馴染の強みというやつか。
「ふーん。それで? これからどうするの?」
「私がここ登って行って竹の子掘るから、アンタは下で皮を剥いてて」
アイちゃんは45度くらいの傾斜になっている山をスコップで示しながら言う。スコップの先には竹が沢山生えていた。
「えーと、ここで待ってればいいの?」
「そうよ。私が上で竹の子掘って、それを転がして落とすから夜子ちゃんは落ちてきた竹の子の皮剥いて」
「皮ってどれくらい剥けばいいの?」
「アンタが剥きたいだけ剥けばいい」
すごいアバウトな指示をもらった。
私が不安な心持でいると、アイちゃんはそんなことは気にせず、スコップを肩に担いで颯爽と山を登っていく。
その姿は無駄にかっこいい。
私がアイちゃんに見とれていると、すぐに
「ほらー、落とすわよー」
アイちゃんの合図があった。
私が上を見上げると、竹の子が1つコロコロと転がり落ちてきた。
角度的によく見えなかったけど、アイちゃん竹の子掘るの早い。手慣れている。
落ちてきた竹の子を受け止めて、一生懸命皮を剥く。
剥き方は一応教えてもらっている。
まず頭を斜めに切る。
そして、縦に切り込みを入れる。
後は手でその切込みを広げるようにして皮を剥いていく。
「あ痛!」
皮剥き中、突然頭に衝撃が!
顔をあげると、竹の子が2つ山を転がり落ちていた。
足元にも1個。……これが頭に当たったのか。
アイちゃん早い。早すぎる。皮を剥くのが追い付かない。上からゴロゴロ転がり落ちてくる。
これは抗議しなければ!
「アイちゃーん! 早い! 早いよ、まだぜんぜん剥けてないよ~。ストップ、ストップ!」
「何言ってんのまだまだ沢山あるわよ~。ほらほらほらぁ~」
ゴロゴロゴロ~。さらに竹の子が3つ追加された!
「ひええ~」
抗議は上から却下された。いつの時代も下にいる者がひどい目に合う。私は社会の縮図を竹の子掘りで学んだ。
「ほらほら~」「もう勘弁してぇー」
__すべて剥き終わるには半時間ほどかかった。
私は疲れ切っていた。
途中でさらに3回ほど頭に直撃をもらった。
でも、それで思い出したのだ。
今回はアイちゃんに付き合ったけど、自分の趣味も忘れてはいけない。
せっかく山に来ているのだ。
山といえば死体だ。少し休憩して探しに行こう。
「いや、そんなに簡単に死体なんて見つからないわよ」
私が自分の趣味を満喫しに行くと言うと、アイちゃんはそんなことを言った。
「分かってないね、アイちゃん。アイちゃんが竹の子掘りの名人のように、私は死体探しの名人だよ」
「私は名人じゃあないし」
「またまたぁ、謙遜しちゃって~」
「はあ、まあいいわ。結構とれたしね、ちょっとくらいなら付き合ってあげる」
竹の子はビニール袋に入れてリュックサックに詰め込んでいる。
結構な重さになったので、リュックはアイちゃんが背負ってくれた。
「でも、はやく炊き込みたいからあんまり時間は掛けないでよ?」
「はーい」
ではサクサクいこう。
私は竹林を本能の赴くままに歩く。フラフラ―フラフラ―。
竹の子の皮を剥くより短い時間、竹林をさまよっていると。
「げえ。何あれ?」
アイちゃんが何か見つけたようだ。上を見上げている。
私もアイちゃんの視線を追ってみる。
__串刺しになっている白骨死体があった。
いや、なんて言うんだろう。
数本の竹が、死体を持ち上げているのかな、あれは?
高く伸びている竹の先の方に死体がくっついている。
白骨なのに何でバラバラにならないのか?
よく目を凝らしてみる。
うーん、成長中の竹が骨を取り込んだのかな?
骨が竹に食い込んでいる。
不思議なこともあるもの。いや、不思議というかすごい偶然というか。
……その死体は一見して、ドラキュラ伯爵の串刺しみたいだ。
生前どんな罪を犯したのか。
いろいろ興味が尽きない。
考えることが沢山ある、とても良い死体である。私が自分の趣味を満喫していると。
「もういいでしょう? さっさと帰りましょう」
アイちゃんはそう言って、右足で死体が刺さっている竹を勢いよく蹴り上げた。
竹は面白いほど曲った。その衝撃で先に刺さっていた白骨死体は、罪から解放されたように、ポーンと四方八方に弾け飛んだ。
私の趣味の時間は終わった……悲しい。
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