百人一首思いつき小説

てふてふと書いて蝶々

第1話 逢坂の関

逢坂の関と言ってもとは関係ない。それは、出会いと別れの場所なのかもしれない。


「はぁ……」


「どうしたんだよ、友」


「どうしたって…明日卒業式だぜ?俺たちも、またあの坂を使う日が来たんだなぁって」


そう、明日は我が中学校の卒業式だ。山の頂上に位置する少し変わったこの中学校、その中学校に向かう通学路には2つの坂がある。1つは横幅の広い、いつも全学年が登下校に使っている坂、そしてもう1つは入学式と卒業式にのみ使えるというなんとも不思議な坂である。なんでも、その坂には出会いと別れの幸を願う不思議な神様がいるとかなんとか……。


「なあ男、俺たち高校に行ってもやってけるかな」


「わかんねぇよ、そんなこと……」


小学校の頃から仲が良かった俺たちだったが、もともと運動が得意だった友は部活を頑張り、逆に運動が苦手だった俺は勉強を頑張った結果、友はスポーツ推薦で府外の高校へ、俺は地元の進学校に決まったのだ。


「そうやっていつも心配だー!とか言ってる割に、友はいつも上手くやるから大丈夫だろ」


「へへっ、そうかね」


そう、こいつはなんだかんだ言っておいて他人から好かれるタイプの人間だ。そういえばと、ふと思い返してみると俺と友にはあまり共通点がないような気がした。


「なんで俺たち友達やれてたんだろうな」


「え?男、なんか言ったか?」


「いいや、なんでもない」


そうやって俺は言葉を濁した。

いくら仲が良くても、行く道が違えば繋がりは切れてしまうのだろうか、これから歩んでいく道は真っ直ぐに伸びているのだろうか……ふとそんなことを考えてしまう。


「そんなこと…ないかな」


そう、そんなことはないのだ。道が違ったのならば寄り道すればいい、それでも嫌なら新しく道を作ればいい。そうやって、1度は別れどまた出会うのだ、と俺は思っている。

明日は卒業式だ。3年前の入学式、出会うために登ってきたあの坂を、今度は別れるために下っていくのだ。あの坂から明日、俺たちは新しい人生をスタートする。





これやこの 行くも帰るも 別れては

     知るも知らぬも 逢坂の関


           蝉丸(10番)





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