連逢の2 AntiqueShop グリーン・ヒル(前編)
今回は、私が高瀬家に来る前のことを話そうと思う。
以前、私はとあるアンティークショップにいた。
店の名前は、グリーンヒル。
私の故郷でもある――。
*****
わたしはいつも外を見ている。
来る日も来る日も、同じ場所から外を見ている。
わたし自身はここから動くことはないけれど、こうしてみると外の景色 はその日その日で結構な変化があるものだ。
アンティークショップ、グリーン・ヒル――そこがわたしの住処だ。
住宅街の中にありながら、ここは自然が比較的豊かなので季節の移り変わりが楽しめるし、色々な人が通るのでそれを見ているだけでも結構飽きない。
平凡ではあるが、それがわたしのささやかな楽しみなのだ。
長い坂道を登りきった頂上の、とても日当たりの良いところにそこはある。
淡い色調の木造の家は、閑静な住宅街にあってひときわ目立つはずなのだが不思議とそのような印象がなく、むしろ周りの雰囲気に馴染んでいるようにさえ見える。
店の周りにはその名の示す通りいっぱいの緑で覆われており、その奥には柔らかい木目を活かしたドア、少々さび付いてはいるがそれでも軽快な音を響かせるカウ・ベル。
そして、ドアのやや上部中央に楕円の看板に「GREEN―HILL」と記されている。
それはまるで風に乗って記された文字のように流れている綺麗な文字だ。
どこか懐かしさの漂う落ち着いた雰囲気――。
そう、たとえるならその場所だけ時が止まっているような、そんな店のショウウィンドゥにわたしは飾られている。
一歩店に入ると、店全体が暖かいオレンジ色で包まれ、そのやわらかい光は木で出来た店にとてもあっているらしく、ここに来る人々にほっと一息つきたくなるような安心感を与えてくれる。
店に来るお客様も、その雰囲気が気に入っているのか、常連の方々がここへと足を運び、時には店長とのおしゃべりを楽しみ時にはわたしたちを手に取り雰囲気を満喫している。
柔らかい光はわたしをはじめ、ここの仲間たちの演出に一役買っているらしく、お客さんに気に入られた仲間がたびたびここを去っていく。
おそらく、は引き取られた場所で大事に扱われてる違いない。
わたしは、この店と主人がとても好きだ。
中西さん――歳の頃は二十代中ばといったところだろうか。
長身で、人のよさそうな顔からこぼれる笑顔が似合う青年だ。
わたしが言うのもはばかられるかもしれないが、結構な男前だと思う。
彼が営む店に、わたしは結構長い間ここの「顔」としてショウウィンドゥを飾っている。
フォトスタンドのわたしには、特有の顔がない。
収められた写真が「顔」になるわけだ。
そんな中西さんがわたしに与えてくれた、「顔」。
それは、清楚な女性が百合の花を抱いている写真だ。
歳の頃は高校生といったところか。
白い百合の花が彼女の笑顔をより一層印象的なものにしている。
わたしは中西さんによって作られた。
飾りもないシンプルな木造りだが、それがかえっていい味を出していると自負している。
わたしのうまれたきっかけだが、彼がなにかの賞を取ったときの記念としてつくったらしく、そのときの写真をわたしの「顔」として与えてくれたのだ。
それ以来、わたしの「顔」はずっと彼女のままだ。
この「顔」はわたしのお気に入りだ。
わたしは、この「顔」のまま、ずっとここで過ごすのだろうと思っていた。あの日が来るまでは――。
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