★城内に不法侵入した魔導士フランシスが残した嫌な置き土産

 第4章「ー2ー 道は開かれた(2)」「ー3ー 道は開かれた(3)」にて、首都シャノンの城内に――それも、王子殿下がレイナたちをねぎらっているところに、不法侵入した魔導士フランシスと魔導士ネイサン。


 アポストルからの啓示は今までに3回あった。

 だから、フランシスも3つのことを”希望の光を運ぶ者たち”に伝えることにしたと……

 以下、フランシスが残した嫌な置き土産をそのまま引用する。


 本当なら、ゲイブが持ってきたアポストルからの3回目の啓示をともに振り返った後、フランシスはすぐに神人の船へと帰るつもりだったらしいが、ジョセフ王子や”希望の光を運ぶ者たち”が自分に冷たいため、少し意地悪をしてみたくなったとのことであった。

 



【1】

以下、本編抜粋。


「まずは1つ目。ジョセフ王子、あなた様は確かアリスの町で”影生者”たちを急遽、金にモノを言わせて雇われたことと思います。あなた様とマリア王女の外見バージョンを数段劣化させたような、あの兄妹たちでございますよ。まあ、あなたたちと違って非常に結束力が高い兄妹ではあったようですか……」

 そう言ったフランシスは、ずっと青筋を立てたままのジョセフをチロリと見て、ニンマリと笑った。

「……あの彼らですが、今はどちらかというと”私たち側に”立っております。ですが、彼らの飼い主はこの私ではありません。ごますりが上手いといえば、まさに彼らのことでしょうね。さる有力者の元で、彼らは今、自分たちの本領を発揮しておりますよ」

                  (第4章 ー3ー 道は開かれた(3))



 そして、第4章「ー15ー 出港(1)」にて、気絶しているサミュエルをローズマリーとともに回収に来たフランシスは、以下のようにも言っている。



「さあ、皆さま。この次はエマヌエーレ国でお会いいたしましょうか。今後の船旅は、嵐だの海賊だのの多数の危険を孕んでいると思いますが、私は、いえ私たちはあなた方が無事に異国の地を踏むことを期待しておりますよ。エマヌエーレ国に着いた後はもしかしたら、以前に少しだけお話しました影生者の兄妹もあなたたちと顔を合わせる縁が紡がれているかもしれませんしね」

 余裕に満ちたフランシス。

 このフランシスが率いる悪しき者たちも、エマヌエーレ国への旅路を――海ではなく、空という大海原で進んでいくのだろう。

                      (第4章 ー15ー 出港(1))



 ちなみに作中の「影生者(えいせいしゃ)とは、簡潔に言うとしたら”透明人間”である。魔導士の力を持っていない人間でも、その肉体に気――魂が放つ輝きは誰もが持っている。影生者たちは、その肉体が放つ気を増減させ、まるで目くらましのように、いるはずの者を自由自在にその場にいない者とすることができるのだ。


 そこそこの美形らしい金髪碧眼の容姿、それに加え、不敬罪、詐欺罪、窃盗罪等の多数の罪状まであわせもつ、影生者の兄妹。

 彼らは、アドリアナ王国の大地をとうに離れ、今はエマヌエーレ国にいるとのこと……

 だが、彼らはフランシス一味に近い側に立ってはいるが、フランシス一味の仲間というわけではなさそうだ。彼らの”飼い主”はまた別であるのだ。

 本編をお読みの方なら記憶にあるかもしれないが、アダムの家族を”殺した”魔導士も、エマヌエーレ国在中である。

 もしかしたら、彼らはその魔導士と手を組んだ、いや、その魔導士の元にすり寄っていったのかもしれない。



【2】

以下、本編抜粋。


「そして、2つ目。そこの黒い服のクールガイさん」

 フランシスのその言葉に、フレディに視線がザアッと集まった。フレディは、グッと剣を構えたまま、表情一つ変えず、フランシスを見返していた。

「……あなたは本来ですと、私たちの計画に必要な”道具”でした。ですが、自らも棺桶に片足を突っ込んでいるアダム・ポール・タウンゼントの慈悲の心により、あなたたちをこうして解放してしまいました。あなたたちは、本当に運が良かったですね。あとの101人の”凍った騎士”たちに比べましたら、富くじを引き当てたようなものですよ」


「!!!」

 フレディたちだけでなかった。

 あの長き時に渡る陰険で残酷な呪いをかけられたものが、まだ101人もいるというのだ。


「おやおや、”なんて残酷なことだ”などとお思いですか? いいえ、彼らは彼らで目覚める時が来るから、そう心配することはありませんよ。200年以上前から練られていた計画に必要な道具たちは、今はまだ眠っているだけですから。しかし、アダム・ポール・タウンゼント……あなたが、”凍った騎士”たちすべてを助けるとしたなら、あと101年は生きるつもりでいなきゃいけませんね。まあ、無駄なことですけど」

                  (第4章 ー3ー 道は開かれた(3))



 200年前、アドリアナ王国が戦火につつまれていたなか、白髪頭のじいさん魔導士に襲撃されたフレディたち7人。

 彼らは、その肉体だけでなく、魂までも氷漬けにされ、その魂が生まれ変わることすら許されなかった。その後、アダムによって、幸運にも7人中6人の魂は無事に解き放たれ、冥海へと旅立った。


 だが、フレディのような目に遭わされた者たちが他に101名もいる。

 そして、”彼らは彼らで目覚める時が来る”、”必要な道具はまだ眠っているだけ”とも、フランシスは言っている。


 白髪頭のじいさん魔導士が、身分も何もない、いわば戦場へと赴く青年たちのうちの7人でしかなかったフレディたちを襲撃したこと――それは、フランシスたちの計画に必要な道具を用意しておくためであった。

 フランシスたちの計画は、200年以上前にすでに下ごしらえの段階に入っていたのだ。

 サミュエルがこの世に生を受けるよりもはるか昔に、そして、”本来のフランシス”がこの世に生を受けるよりも昔に――



【3】

以下、本編抜粋。



 自分に対峙している者たちからの、一層の敵意と憎しみを感じ取ったフランシスは、フッと鼻から息を吐き出した。

「そして、ついに……最後の3つ目。これは言おうかどうか、今でも少し迷っているのですが、開かれた冒険の道には少しばかりの緊張、いわば危険がつきものでございますね。何も起こらない冒険なんて、つまらないですもの。今から、私があなた方にお伝えするのは、確実の死を孕んだ危険でございます」

 そういったフランシスは、今度は息をスウッと吸い込んで言った。

「”未来を見た者”から伝えられたことを、私はそのまま、あなた方にお伝えいたします。今から5年後、あなたたち7名の中のうちの3名がこの世界で生を紡ぐ姿が見えないと……」


「!!!」

 空気は、サアッとさらに冷たく凍りついた。

 7人のうち3人の生を紡ぐ姿が”見えない”。それは、すなわち”死”を意味しているだろう。

 これからの旅立ちの道において、3人が死に、4人が生き残る。


 仲間の死の予言。

 これは、フランシスのハッタリか、それとも、本当に真実となってしまうことなのか? アダム、ヴィンセント、ダニエルに庇われているレイナの背筋に、冷たいものがスウッと走っていった。


「おやおや、皆さま、怒りと憎しみに恐怖がブレンドされたような表情に一瞬にして、変わりましたね。確かに”死”は怖いものです。その気持ちは私も分かり過ぎるほどに、分かりますよ。ちなみに、”未来を見た者”からは予定されている3名の死者の名前について教えていただけませんでした。ただ、”彼”は非常にもったいぶった言い方で”流れゆく運命によっての死”とだけ言っておりました。まあ、あなた方も知らない方がいいでしょう。自分自身や自分の隣に立っている友の死の運命なんてことはね……それに、知らない方がこれからの旅はより緊張感が増し、スリリングなものとなるでしょうし」

 そう言って、フランシスはたおやかな微笑みを見せた。

                  (第4章 ー3ー 道は開かれた(3))



 本当に最悪な置き土産である。

 ちなみにこの3つ目の”予言”であるが、”フランシスが”未来を見たわけではない。未来を見ることができる者が、彼の知り合いにいるのだ。


 この世に生まれた者で、死を免れることができる者はいない。例え、力を持って生まれた魔導士だとしても……

 いつかやって来る死であり、迎え入れるしかない死。

 だが、その死は何十年か後ではなくて、今というこの時より5年以内に”希望の光を運ぶ者たち”のうちの3人に……

 


 未来から投げつけられた――いや、フランシスが投げつけてきた3つの欠片のうち、もしかしたらはったりかもしれない最後のこの予言の欠片こそがルークたち”希望の光を運ぶ者たち”、そしてレイナやジェニーの心にも一層深く突き刺さった。 


 けれども、”希望の光を運ぶ者たち”は、第4章「ー4ー 未来から投げつけられた幾つもの欠片(1)」「ー5ー 未来から投げつけられた幾つもの欠片(2)」にて、他人の言葉(それも陰険なフランシスの言葉)に自分たちの人生を左右されるのは、御免だと――それぞれの魂の手綱は自分自身で握っていくとの強い決意を皆、見せていた。

 それでこそ、ヒーローだ。

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